話が違う2人

紫蘇

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あがく世界

第二王子・エイギルフェルド

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オヴィスに促され、改めて防具のようなネックガードをしたパッセルは、お揃いのネックガードをしたオヴィスと共に代官邸の食堂へと向かった。

食堂にはすでにオヴィスの両親であろう男女と、それから女の子が1人。
どうやらオヴィスには妹がいたらしい。
パッセルは「いよいよ巻き込めないな」と思いながら、3人に挨拶をした。

「初めまして、パッセル・モンタルヌスと申します。
 ご子息には学園で同じクラスに所属しているご縁で、仲良くして頂いております」

すると、父親がパッセルに向かい頭を下げた。

「改めまして、ようこそお越し下さいました。
 私はこのアリエス領で代官をしておりますラマ・パコスと申します。
 こちらは妻のエレナ、こちらが…」
「妹のエミーです!」

女の子の目がキラキラとパッセルを見る。
どうやら、まだ来た事の無いこの領でもパッセルは有名人のようだ。
パッセルはその視線に苦笑しつつ、言った。

「こちらこそ、急な来訪で申し訳ございません。
 表裏の無いオヴィス殿との付き合いは大変に清々しく、毎日楽しくさせて頂いております。
 彼の純粋な人柄は、お二人のご尽力の賜物かと」
「いえいえ!!そんな、尽力だなんて、ただ良い事は良い、悪い事は悪いと言ってきただけの事です」
「それこそが素晴らしい事なのです。
 誰でもがそう出来る事では無いかと」

パッセルは16歳らしからぬ言葉でオヴィスとオヴィスの両親を褒めつつ、右手を差し出した。
オヴィスの父はその手をおずおずと握り、握手を交わした。

「今晩のメニューは、パッセル殿がお好きだというシチューに致しました。
 おかわりも出来ますから、遠慮なく」
「それは嬉しい、有難うございます」

そうして、オヴィス父はパッセルに席につくよう促し、オヴィスとオヴィス母と共に扉1枚隔てた台所へと向かう。
暫くして、3人が台所から料理を運んでくる。
簡単なサラダ、そしてパンとシチュー。
パッセルは贅沢を好まないと聞いたオヴィス母が、こんなのでいいのかしらと心配しながら作ったものだ。

「お口に合えば良いのですが…」

肉より野菜が多い、いわゆる「野菜を食わせようとする」タイプの家庭料理だ。
オヴィス母が恐縮するのも仕方が無い。

「大丈夫だよ、母さん。パッセルさんは、シチューの人参が好きなんですよね!」
「ええ、昔から大好物でして」
「にんじん…」

オヴィス妹は人参が苦手らしい。
オヴィス母は苦笑しつつ、彼女に「好き嫌いは駄目よ」と声をかける。

その光景は、あまりにも「ごく普通の」家庭の、「ごく普通の」夕食で…。
パッセルはこの後に起きるだろう事を考えつつも、実家に戻った様な温かい気持ちになった。

***

食事も終わり、歓談のひと時に入ろうという時になって、玄関の扉を叩く音がした。

「!」
「おや、誰だろう…こんな時間に」

パッセルとオヴィスに緊張が走る。
オヴィスの父が玄関へと向かう。

数人の騒ぐ声が聞こえる…

「どうしたのかしら」
「…オヴィス殿、母上と妹君を連れて台所の方へ。
 私が呼びにいくまで、出てきてはなりませんよ」
「…はい、分かりました」

そしてオヴィス父の慌てる声、遠慮のない足音…

「さ、早く!」
「エミー、急いで!母さんも」
「う、うん…」

台所へ繋がる扉へと、3人が急ぐ。

食堂の扉が、バン、と音を立てて開けられる。
カツカツと足音を鳴らしながら、少年が入る。

オヴィスとその母と妹は、無事に台所へと隠れた。

「…こんなところにいたのか、パッセル」

少年はただ一人この部屋に残ったパッセルを見て、にやりと笑う。

「それはこちらの科白セリフですよ。
 なぜアリエス領へわざわざお越しに?」

パッセルはとぼけて見せる。
そして、エイギルフェルド王子も同じく。

「ああ、兄の運命の番殿にご挨拶をと思ってな。
 兄に何度言っても会わせてくれないから」

パッセルは、自分の読みが甘かったと悔いた。

「このように強引な事をされますと、ご兄弟の仲に影響しますぞ」

ここでわざわざ波風を立てる理由は無い。
だから、事を起こす時には屋敷の外へ呼び出されるだろうと思っていたのだが…
まさか、屋敷の中へ乗り込んでくるとは。

パッセルは、第二王子であるエイギルフェルドの人物像を知らない。
彼とは「王宮で何度か顔を見た事がある」程度で、挨拶はしたが話したことはないのだ。

「元より兄と友好な関係を築こうとは思っていない。
 王位を争う政敵同士だからな」
「政敵などと物騒な。
 中等部をご卒業になったばかりでしょう?」
「年齢など関係無い。
 跡目争いとは、生まれた時からするものだ」
「…左様にございますか」

パッセルはできるだけ話を長引かせようと、尚も王子に話しかける。

「…フォエバストリア殿下に、この事は?」
「知らせる訳がないし、知りようもあるまい」

いや、知りようもない事はない。
現にオヴィスはエバ王子から忠告を受けていた。
知っていて、パッセルとオヴィスを共にアリエス領へ行かせる事を了承したのだ。

いざとなれば、パッセルがオヴィスを守ると信じているから。

それに、フェリスとクレイドが婚約する為には、アリエス伯の不満や不安を解消してやらねばならない。
オヴィスが学園に留まっていては出来ない事をする為にも、この視察は必要だった。

王都には、オヴィスを狙う人間もいる。
その前兆に、学園で小さな虐めが起きている。

つまりこの視察は、彼らに対し「オヴィスのバックには救国の士パッセルがついている」事を知らしめるものでもあった。

「それで、オヴィス殿はどこに?」
「さあ…気になる事があるからと言って、母親と妹をつれて外へ出て行きましたが」
「ならば、ここにいるのはオヴィスの父親とお前だけか?」
「そのようで」

パッセルはこの計画を立てた段階で、望まぬ性行為や番契約もありうる、と想定していた。エバ王子からも確認され、その上で引き受けた話だった。

だが分かった上であったとしても…
分かりたくない、と、今更脳が拒否している。

「ならば今のうちに別の用を済ませるとしよう」
「別の用?」
「ああ、お前とは一度、じっくり話し合わねばと思っていたんだ」
「そんなことは王宮に戻ってからでも充分でしょう」

…いざとなれば、番契約を囮にする。
こういう時の為に、番解消の実験や研究をしてきた。
だから覚悟は出来ていた、つもりなのに。

 出来る限りの抵抗を、と頭の奥で声がする。

だからパッセルは、簡単には言いなりにならない、とばかりに言葉を重ねる。

「先触れも無く王領でない場所へ出向いたと他へ知れる前に、お帰りください」
「ならばお前も一緒に来い」
「それは出来かねます。
 私はまだアリエス領の視察を終えておらず、災害対策についての検討も出来ておりません」
「貴様、王族に逆らうのか?」
「逆らう?」

パッセルは、揺らいだ。
逆らう…そうだ、逆らわない方が危険は少ない。
だが、唯々諾々とこの少年に従う事は裏切りだ。


裏切り…?


誰を裏切るというのだ。
まるで他に愛する人がいるみたいじゃないか。


「ふ…」


パッセルは今一度気合いを入れ直す。

「何を仰います。
 この程度を『逆らう』などとお思いになる様では、王の座は務まりませぬよ」
「ほう、パッセル殿は私と敵対するおつもりか」
「そうですね、私は中立の立場におりますゆえ、どなたにとっても敵で、どなたにとっても味方です」
「はっ、中立…いつまでそれが続くかな」

そう言うと、エイギルフェルド第二王子はパッセルの腕を掴んだ。

「おい、代官。
 空き部屋に案内しろ」
「あ、あ、あの」

命令されたオヴィス父は目を泳がせる。
どうすればいいのか戸惑っている顔だ。

パッセルは覚悟を決めた。
人の良い代官をこれ以上巻き込めない。

「パコス代官、私の宿泊する部屋はどちらでしょう」
「は、はい…こ、こちらです」

オヴィス父は二人を先導して歩き始めた。

食堂と台所を繋ぐ扉の向こうで聞き耳を立てている息子の事を、気にする余裕は無かった。


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