話が違う2人

紫蘇

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学園2年目

【クレイド】無理めの計画

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あと1年で、卒業。

卒業後は西の騎士団に入って、あの辺境を見回る仕事について、そこで頑張って魔物を退治したり、砦の再建を手伝ったりして。
地道に実績を残して、お金も貯めて、将来的に辺境伯を目指せる人間になって、それから…。

「そんなにのんびりしている暇はありませんよ、兄上」
「いやいやいや、卒業までにはさすがに無理だろ」
「ですから、フェリス殿の卒業までの間の1年間があるのではありませんか」
「それも無理だって!!」

パッセルは辺境伯がどういう立場の人間か知ってんのか?
下手すりゃ公爵家と肩を並べるぐらいの…
自前で騎士団持ってんだぞ?
学園を卒業したての人間が就ける地位じゃないだろ!

「ふむ…辺境伯はやはり爵位が高すぎますか」
「そりゃそうだろ!実家より1、2個上だぞ!」
「ですが、公爵家の秘宝を嫁に迎えるのであればそのぐらいの地位が無いと」
「無くてもどうにかならない?」

そりゃ、大手を振ってフェリスと結婚するならそうかもしれないけどさ。
さすがに実績も何も無い人間が辺境伯は…
辺境警備の騎士ならまだしも。

「それは、フェリス殿のご両親に聞いてみるしかありませんな。
 ですが、最初から『辺境伯は無理ですが結婚は許してください』という人間に息子を嫁にやるお方では無いでしょうからねぇ」
「…………だな」

だから、目指してるって事で何とか…
辺境伯になるのは結婚してからでも遅くない、だろ?

そもそも、西の辺境伯様に相応しいのは俺じゃない。
元々、西の辺境伯をしていた家はちゃんとある。

彼らはその地位を返上してカヌス伯爵となって、今は最西の土地を治めてるんだ。
魔物から領民を守りながら必死で撤退して、あそこで踏みとどまった。
領地は半分になったけど、今も堅実さで知られる名領主様だし…

だから、俺としてはカヌス伯爵様が辺境伯に返り咲くべきだと思うんだ。
またはご子息が新しく辺境伯として就任するか…。

そもそも、血筋とか家系とか、由緒ってもんがあるだろって話よ。

俺はたかが伯爵家の三男なんだぞ。
辺境の一村を担当する代官が精々…なのに。

「カヌス伯爵家は、もうあの土地も辺境伯の地位も御免だと、4代前からずっとご主張なさってます。
 王家も直轄地にするのを渋っていますしね。
 まあ、あそこが儲かる土地になれば話は変わってくるんでしょうが…
 つまり、少なくとも儲かる土地になるまで、誰かが辺境伯をやらねばならんのですよ。
 そこそこの貧乏くじなのですから、爵位も血筋も重要ではない…素晴らしい話です」

諸事情あって、ずっと西の辺境伯位は空席だ。
行ってみりゃわかるが、出てくる魔物がデカいし強いし凶暴だ。
縄張りを刺激しないように耕作地を広げるとして、安全マージンを取りつつ…
それでも、元あった村全部を復活させるのは無理。
効率良く土地を切り盛りして、魔物対策して隣国対策して……

無理、俺にはとても無理。

なのに、パッセルは俺を焚きつける。

「なぁに、剣術大会で優勝なさった兄上であれば、国王陛下の覚えもめでたいでしょうし大丈夫ですよ」
「それ本心から言ってる!?」
「ええ勿論…ああ、そういえばあの王、ついに人事権も他人に丸投げしたらしいですよ」
「……は!?」

…ってか、何でそんな事知ってんの?
俺はただただ困惑する。
そんな俺に、パッセルは小さな声で言う。

「いやたまたまアラウダ殿から聞いたんですよ。
 最近お父上が、宮廷各局の人事査定を押し付けられて苦労している…と」
「……どういう事?」
「宰相は行政の長です。
 普段であれば各部局の長からの報告・意見をまとめ、それを国政に反映させる…
 時代によっては王の相談役程度の存在です。
 それが王でない者によって人事権を任される…
 という事は『王』がほぼ機能停止していると考えて宜しいかと」
「…まじ?」

大マジです、とパッセルが言う。
そして、さらに声を抑えて言う。

「最近、王妃様や王妃様と仲の良い方々と「実験」をしていたでしょう?
 その時に噂を聞いたのです。
 現在の状況、『貴族派の台頭』というよりは『シルウェストリス公とその友人たちが王の代わりに頑張っている』の方が表現としては正しい…と」
「まじかぁ…」

マジだと言ったでしょう、とパッセルはため息をつき、それから意味深な笑顔で俺に言った。

「ですが、これで大分近づいた気がしませんか?
 アラウダ殿のお父上が『うむ』と言えば良いわけですから」
「……それって、結局コネって事?」
「端的に言えばそうですね」

コネ…コネ、かぁ。
そういうのは…ちょっと、なぁ。
自分の実力じゃなくてっていうのは…嫌だ。
そんなの間違ってる。
青臭い事言ってるのは分かってるけど…!!

俺はパッセルに言い返そうとした。
すると、パッセルが先に口を開いた。

「とはいえ、宰相殿が息子の友人ごときに便宜を図る人間だとは思えませんがね」
「あっ、…はは!そりゃそうだ」

そんなの当たり前の事だったわ。
一国の宰相が、そんな理由で大事な辺境伯を決めたりするわけないじゃん!

「ははっ!確かにそうだ!」

なんだ、最初っからコネなんかないんじゃん!
そもそも、そんな私的な理由で動く人間に人事権なんか任せる奴いねーし!

なんだ、結局死ぬほど努力して相応しい人間にならなきゃ駄目なんじゃん。
アラウダの父さんが変な勘ぐりされないようにしっかりやらないとって、そういう事じゃん!

「何か、やる気出て来たわ」
「それは良かった」

だけど、具体的に何したらいいんだ?
親父の仕事も少しは見て来たけど、収穫祭したり、季節ごとに村を巡回するぐらいしか…

「というわけで、夏季休暇を利用して北の辺境伯に弟子入りしに行きませんか」
「は?」
「いえ、春にアリエス領へ行った際に偶然お会いしまして。
 雪を活用した貯蔵のお話をしましたところ、それならついでに…と、ご提案頂きまして」
「……は?」

な、何なに何ナニ?
急に何の話?雪を活用した貯蔵?っていうか弟子入り?うん??

「…なあ、いっこいっこ説明してくれる?」

するとパッセルは、まず雪を活用する話を始めた。

「壁と壁の間に雪を閉じ込めた倉庫を作り、そこで冷蔵保存が出来ないか、と思いましてね。
 ついでにそこで、芋の糖度を上げられるか・魔物の肉を熟成させられるかどうかの実験をやってみたらどうかという話も出まして。
 成功すれば、これを商材に隣国との交易を拡充できるのではないかと…
 今は毛皮や牙しか売るものが無いですしね。
 というわけで、隣国の商人と今からでも渡りをつけておこうかと…」
「ちょ、ちょっと待て。
 それもうパッセルが辺境伯になる勢いじゃんか」

そうだよ、俺なんかよりパッセルの方がずっと…

だけどパッセルは、強い口調で言い切った。

「いいえ、辺境伯は兄上でないと困ります!
 私は災害救助隊を全国展開させないとなりませんし、いつも辺境へいるとは限らんのですよ」
「……そっか」

パッセルは言う。
今あるコネを使えないのであれば、誠意と根性を見せてバックに大物をつければいい、と。
そのうち北だけでなく東の辺境伯様にも何とか渡りをつけるつもりだ、と。

二人の辺境伯に「見どころがある奴だ」と思ってもらえれば、可能性は上がる…と。

「…どうして、そこまで」
「私は、私が作った畑を、兄上やフェリス殿以外の人間に任せたくありません」

はっとして、パッセルの顔を見た。
パッセルの目は、真剣だった。

「兄上が辺境伯になるのは、何もフェリス殿の為だけではありません。
 私にとっても、大事な一手なのです」

つまりパッセルは俺を辺境伯にして、自分の作った田畑を守らせたい…
他の奴にはそれを任せたくないって…事か。

そっか…そうだよな。

だって、約束したもんな。

「……分かった。
 辺境伯になれるかどうかは分かんねーけど、俺たち3人、辺境で一旗揚げるって約束は果たす。
 今はそれしか約束できない、それでもいいか?」

するとパッセルが良い笑顔で言った。

「兄上、それは私でなくシルウェストリス公に宣言してください」

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