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学園2年目
夏休み明け早々
しおりを挟む夏休みも終わり、2学期のスタート…
だというのに、第一寮裏の勉強会にはやはり、パッセルとリュノ、そしてギル王子の姿は無かった。
「まだ東の辺境かなぁ…」
「そうだろうな、冬休みの研修を頼んでくるって言ってたし」
「そっか、次は東に行くのか…」
学園から東の辺境領へ行く途中にはクレイドの実家もある。
そろそろ里帰りしないと、説明する事が溜まる一方だ…
辺境伯を目指す、とか。
実際、昨年の西の辺境調査では、現在の西端カヌス伯爵領に拠点を置き、伯爵一家との交流もあった。
多分その際、すでにパッセルとカヌス伯の間で何か密約めいたものが出来上がっていたのだろう。
北へ、東へと研修へ行ったが、特に何もお叱りやお怒りが届いた事は無い。
「どういう話があの2人で出来上がってるんだろうね」
「スピードに付いていけないとこあるよな」
パッセルは根回しを怠らない男だ。
それに、学園へ入る前に復興支援も行っているらしく、カヌス領には災害救助隊が組織されている。
西は魔物の害が多い場所だ。
避難所まで逃げ切れず死んだ者も多かった。
だから、ここの災害救助隊は主に避難訓練の指導と避難場所の充実を中心に日々活動している。
「オヴィスが出て来た後にすぐ、クレイドを辺境伯にする計画が出来上がってたもんね」
「考えてみりゃ、あん時やたらとパッセルが俺とカヌス伯を喋らせようとしてたな」
やはりパッセル、恐るべし…と、フェリスとクレイドが頷き合った時。
「おーい、クレイド!
お前の祖母だという女性が職員室へ訪ねてきてるぞ」
「はいっ!?」
とある教員によって、少しばかりの波乱がもたらされる事に…。
・・・・・・
クレイドがフェリスと一緒に職員室へ行ってみると、そこには騎士科の教員たちと談笑する女性が一人…
「ばあちゃん!」
「おお、元気だったかい我が孫」
クレイドの祖母だ。
フェリスは初めて会う婚約者の家族にご挨拶した。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。
フェリス・シルウェストリスと申します、クレイド様とは…」
「あー知っとるよぅ、いやぁ綺麗な子だねぇ」
クレイドの祖母はニコニコしながら言った。
どうやらフェリスに悪い印象は無いらしい。
ほっとするフェリスを見て祖母は優しく微笑み、その笑顔のまま今度はクレイドを見て言った。
「こんな綺麗な子が、よくもまあうちの孫とお付き合い下さっとるもんだ。
こりゃ本気で辺境伯を目指すしかないねぇ、クレイド?」
「ああ、うん…まあ、ね」
言葉を濁すクレイドに、祖母はため息交じりに言った。
「まったく、そんな弱気でどうすんだい」
***
それからの話の流れで、クレイドとフェリスは祖母を連れて第一寮裏へ戻った。
「へえ、これが勉強会というやつかい」
「ご存じだったんですか、おばあ様」
「いや?さっき教師たちから聞いたのさ。
すごいねえ、かなりの人数じゃないかい?」
「来る者拒まずでやっておりますから…」
と、そこへオヴィスとアラウダを伴ったエバ王子がやってきた。
「フェリス、クレイド!
北の辺境はどうだった?キレネア辺境伯とはうまくやれそうか…ん?そちらのご婦人は」
「あ、俺の祖母です」
「初めてお目にかかります、我が国の太陽」
「ああ、ご丁寧に…あー…どう返すのが正解だったかな、アラウダ」
「特に返す必要は無かったかと…」
最近忙しい事もあり「話が長くなりすぎる」事を理由に丁寧に挨拶される事を避けて来た弊害か、エバ王子は良い意味で王子っぽさを無くしたらしい。
「ところでフェリス様、パッセルさんは?」
「今頃、東の辺境にいるんじゃないかな?」
「えー!学校始まってるのに、戻れないんですか!?」
「そうなんだよね…っていうか、そもそもパッセルが学園に通う必要性がね…」
北の辺境でも感じた事だけれど、正直パッセルには学園で学ぶ事よりも優先させるべき事の方が多すぎる。
周囲にとって、彼を学園に通わせるメリットが無いのだ。
もっと災害に関する諸々の話や、魔物討伐に時間を割いて貰いたいと思う人はいくらでもいる…
特に、最近災害の多い東方面の領主たちは。
「まぁでも、そのうち帰ってくるよ!
…ステルラタ辺境伯様が、どのくらいでパッセルを帰らせてくれるのかは分からないけど」
すると、クレイドの祖母が言った。
「東の辺境は、今ガヴィアかい?」
「ええ、ガヴィア・ステルラタ殿ですね」
アラウダの答えに、仕方ないねと首を振り、祖母は続けた。
「まったく、あの子は…出来る事は自分でやりなって言ってやらないとね」
「…え、おばあ様、もしかして東の辺境伯様とはお知り合い…?」
「ああ、同級生の息子だからね」
「そうだったんですか!?」
「そうだよ、この学園で、同じクラスでね。
あの子の父親がまあモテなくてねぇ!」
アルファもやっぱり顔が大事なんだよねぇ、と言って祖母は笑い…
「まさか、辺境伯様たちが聞く耳を持ってくれてるのって、お祖母様のおかげ……?」
「ええ……」
そしてクレイドは、「そんなん聞いてないよ」という顔をした。
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