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学園2年目
【閑話】モンタルヌス家の騒動 ~モンタルヌス家次男の場合~
しおりを挟むその日、朝飯を食った後、その事件は起こった。
「…………たいへんだ」
「どうしたのあ、な……ふぅ」
「母さん!?」
ある一通の手紙が、使者付きで届けられたのだ。
つまり、行商人についでで頼むやつでも、郵便屋に頼むのでもなく、直接その人が運んできたのだ。
それだけでも大事件だ。
間違いなく送り主は大貴族だろう。
使者殿は堂々と「ご返信を用意されるまで、ここに滞在してもいいか」とか聞いてくるし。
中身をチラ見した母さんは卒倒するし、父さんは真っ青な顔をしてるし。
けど、何事にも動じない祖母ちゃんは、至って普通に父さんに声をかけた。
「どうしたんだいエーライ」
「…シルウェストリス公から、フェリス様と、クレイドの、婚約、契約書、が、」
「……は?」
ちょっと待って?
フェリス様って、第一王子様の婚約者だった、あの?
氷の美少年とか呼ばれてる、あの?
その上、最近では抑制ポーションの大幅改良に、発情抑制の香油まで発明されたという、あの?
「何をどうすればそうなるんだよ!?」
「知らん!父さんに聞くな!!
……ああ、結納金が……一体いくらに……」
「何だい、また借金かい?」
そう言って、ばあちゃんは父さんから婚約契約書をしゅるりと取り上げた。
そして契約書にこれでもかと顔を近づけ、内容を確認し…
一言。
「ふむ、さすが我が孫じゃ」
……と、言った。
***
契約書を端から端まで読んだ祖母ちゃんによると、なんと結納金は無しで良いらしい。
ただ……。
「その代わり、クレイド・モンタルヌスは必ず西の辺境伯の地位に就く事。
その後最低30年は、辺境伯の地位を維持する事…だそうじゃ」
「……は?」
ちょっとまて、辺境伯の地位って…何?
いやだってクレイドは騎士に、え?え?
俺は混乱した。
だけど混乱したのは俺だけじゃなかった。
「ドドドドウイウコトディスカ」
「なんのカタコトだよ父さん」
「に、西の、西の辺境って、魔物に奪われた、あの、あそこでしょ?」
「落ち着きなさい嫁」
「お義母さんはどうしてそんなに落ち着いてられるんですか!?」
祖母ちゃんと母さんの言い争いが始まる。
間に入るべき父さんは「ヘンキョーハク…」とブツブツいうだけで役に立たない。
おまけに、使者の人は応接室で待っている。
ちょっとした修羅場だ。
それを見ながら、兄貴は困った顔で言う。
「どうしよう、俺、仕事行かなきゃなんねーのに」
「どうしようもねーし行って来れば?
どんなに騒いだって、あの契約書に親父がサインして返すしか無いんだし」
「まあ、そりゃそうだけど…」
俺は敢えて大きな声で、祖母ちゃんと母さん、父さんにも聞こえるように言う。
「つーかあの内容、どっちかってーと『クレイドなんぞにうちの子はやらん』っていう宣言みたいなもんじゃねーの?」
すると、分かりやすく3人の動きが止まる。
そして全員の注目が俺に集まったとこで、俺はちょっと意地悪な事を言う。
「辺境伯なんか、下手したら公爵とタメ張るぐらいの高位貴族じゃん。
そんなのなれたとして、それこそ30年後じゃね?
そこまで婚約できないんだとしたら、それもう婚約じゃなくね?」
「た、たしかに」
つーか俺だって仕事に行かなきゃなんないんだ。
だからとっとと場を収めちまおう。
「つまり、これにサインして送り返したところで、何が変わるわけでもねーって事でしょ。
だから父さん、ちゃっちゃとサインして使者の人に持って帰ってもらえば?」
「そ…それも、そうだな」
親父は祖母ちゃんからそっと契約書を受け取り、執務室へ消えた。
どうやら正気に戻ったらしい…良かった。
「でも…辺境伯かぁ」
「あいつ殆ど手紙も寄越さねーから、一体何が起きてるのか全然わかんねーな」
「ふむ…ならば私が様子を探りにいってくるかね」
そう言うと、祖母ちゃんはシャキッと立ち上がった。
「えっ、お義母様!?」
「なぁに、あたしにゃ何の仕事も無いからね。
さっ、急いで支度するよ!」
そうしないと使者殿の馬車に乗り込めなくなるからねぇ…
とまあ、祖母ちゃんはそんな言葉を残して、食堂を出て行った。
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