話が違う2人

紫蘇

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合わさる世界

大混戦

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ドパァアアン!!

ボスの巨体が破裂し、肉片が飛び散る。
砕けた骨が豪速で飛散し、フロアの壁に突き刺さる。

「助かった……」
「いや、まだだ!まだ出るぞ!」

巨体が破裂したその後に、二回りほど小さい…さっきのと比べると、ずっとスマートな魔物が現れた。
胴体は鏡餅型だが、体の模様はストライプに変化。
足はすらっとした節足動物タイプで、腕はやはり人間に近いものが4本…

「関節が4つある手とか、見た事無いけどな」
「しかも異様に……長い」
「構えろ、来るぞ!!」

今度は一転、奴は足を使って走りまわり、腕をグネグネと鞭のように振り回しながら騎士たちを壁へ着き飛ばそうとする。
壁一面に砕けた骨が刺さったのは、この為だったのか…!

「下がるな、避けて、足を狙え!」
「「おお!!」」

さっきの超巨大鏡餅は、ほぼ魔法で対処した。
今度は剣の出番だとばかりに、騎士たちは冷静に奴の腕に攻撃を加え、対処していく。

「速いが、対処できない速さではない。
 冷静に行こう!」
「「おお!!」」

そんな中、懸命に攻撃を避けつつも、倒れ込んでいるギル王子を何とか安全そうな場所へと運ぶシルウェストリス騎士団の面々が叫ぶ。

「後は頼みますぞ!」
「「おお……!」」

その声に、全員が敵の動きを見極めようと集中力を高める。奴の動きには一定のパターンがある事を、シルウェストリス騎士団の動きで悟ったのだ。

走り込んでくる敵を避け、後ろから攻撃を加えて、逆に奴を壁へぶつけていく。
壁にぶつかったところを、2~3人で一気に叩く。
そして、奴が抵抗して腕を振り回す頃には離脱する。

ヒットアンドアウェイ。

攻撃し、下がり、また攻撃。
体力勝負の戦法だが、それは相手も同じ。
少しずつ、敵の動きが鈍くなる。
それでもさっきのように爆発するかもしれないと、全員が集中を切らさない。

「パッセル、魔力ポーション、今のうちに!」
「ありがとう、ございます……」

彼らが戦っている隙に、フェリスはパッセルに魔力回復ポーションを渡す。
パッセルは震える手でその蓋をあけ、中を呷る…

「…大丈夫、パッセル?」
「ええ、大丈夫…、あの、自爆に、驚いただけで」

彼の中のトラウマのような部分を突いたのだろうか。
パッセルは自分の心を落ち着かせる為、何度も深呼吸を繰り返す。

「回復ポーションも、飲む?」
「いえ、そこまでは…、は、はは、すみません」

さっきとは打って変わって俊敏な動きを見せるボスに、魔法で攻撃するのは難しい。
ここは騎士たちに任せるしかない……

「……治癒魔法が、必要になりそうですね」
「うん、回復ポーションも残り少ないからね。
 回復薬はあるけどさ、どれくらい効くか……」
「そういえば、先ほども……
 薬、という事は、液体では無いという事です?」

このダンジョンの外では、回復と名のつくものは全てポーションという水薬だ。
一方、病気に対しては粉薬や丸薬が使われる。
ポーションについては小説の、薬については農地経営SLGの影響だと思われる。
という事は……?

「うん、ダンジョンの中に生えてる薬草を採取して、分量を捏ねて魔力を流すと、出来るの」
「な……え?」
「外じゃそんな事出来ないでしょ?
 専用の器具が必要だったり、乾燥させなきゃいけなかったり……。
 けど、この中だとすごい簡単に出来ちゃうんだ。
 全然違う法則が働いてるみたい」

パッセルは単純に驚いた。
このダンジョンに薬草が生えている事すら知らなかったからだ。
未知の世界すぎる。

「…夢によると、タイトルも違うらしいです」

そう言って、パッセルはボスの方を睨む。
ボスの行動パターンを見定めようとしているのだ。

「一瞬でも止まる時があれば…
 顔面に炎をぶつけてやります」

***


「っ、はあっ!!」
「ギャァアア!!」

クレイドの剣が風を纏い、その化物の首を刎ねる。

ドサリ、という音がして、奴の首が転がる。
そして……あの爆発で飛ばした肉片も、血も、壁に刺さった無数の骨も……
当然、今首を落とされた魔物も、光に包まれて綺麗に消え去る。

「……は、や、った……!」
「やったなクレイド!」
「見事な魔法剣です、クレイド殿!」

数人の騎士とリュノ王子が、クレイドに駆け寄る。
ようやくとどめをさせたのだ……
長い戦いだった。

「パッセル殿、フェリス様、負傷者を!」
「すぐに行きます!」

パッセルは残り魔力も構わず、倒れ込んだ負傷者に駆け寄る。それほど怪我が酷くない者はフェリスが回復ポーションを配って回る。

フェリスの荷物はこれで半分以下になった……

「マンガ肉が出れば良いんですが」
「……ああ」

あの生き物からのドロップ品だと思うと食欲は失せるが、魔力も体力も全部回復するのだから食べないという選択肢はない。

「……、パッセル殿、どうかギル殿下を」
「ええ、すぐに」

パッセルは程なくぐったりしているギル王子の元へたどり着き、意識の有無を確認した。

「……ギル、大丈夫ですか」
「ああ…、最初のデカブツから、降りる時に…少し、しくじった」
「あの中を良く生き延びられました…手を」
「…ぁあ、頼む……」

パッセルはギル王子の肩や、背中の傷を次々と癒していき……気づく。
鼻から血が出ていることに。

「……内臓まで、傷付けて」
「そう、……、」

この中で一番重傷なのは彼かもしれない。
パッセルは残り魔力を彼に捧げると決めて、言う。

「ええ、全部治しますから、覚悟してください」

パッセルはそう言うと、ギル王子の口にそっと自分の指を2本含ませる。

「……行きますよ」
「ん」

ギル王子の口の中が強く光る。
その光がどんどん中へ吸い込まれて、臍の下まで降りていく……

「……く、ふぅ……」

そして、光は弱まり、消えていき……
パッセルの指が、口から引き抜かれた。

「……これで一旦は、大丈夫でしょう。
 ここから先、しばらくはご無理なさいません様」
「ああ、分かった」

倒錯的とも思える、治癒の方法。

だがそれを見てリュノ王子がどんな顔をしているかなど、今のパッセルにはどうでもいい事だった。



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