話が違う2人

紫蘇

文字の大きさ
135 / 292
合わさる世界

まさかのパッセル

しおりを挟む
  

3人が戻って来てから10日後。

「あっ、フェリス様、クレイド様、パッセルさん!」
「お、呼ぶ順番も完璧だね」
「はい!人がいる場所では、偉い人から順に呼ぶ、です!」

貴族マナー初歩の初歩を覚えている事に胸をはるオヴィス。
だが、彼の成長はそれどころではない。
アルファだらけの理事会へ突撃して直談判し、エバ王子の援護を受けながらではあるが、難しめの交渉事を1つやってのけたのだから。

「オヴィスのおかげで無事に試験を受けられたよ、有難う」
「そんな、当たり前です!
 王立の学園なのに、有り得ませんもん!」

笑顔でそんな科白を吐くオヴィスに、3人は苦笑した。

この学園も王立の機関なのだから、災害支援に賛同していない様に捉えられる行為は慎むべき。
確かに当たり前の事である。
エバ王子も言う。

「そもそも誰が、この3人を『欠席過多で強制留年』なんて事が出来ると思ったんだか」
「シルウェストリス公も国民も黙っちゃいませんよね」
「だな」

彼らのおかげで、3人だけでなく災害救助に携わった人間はその期間の欠席が出席扱いになった。
おまけに、いくらか点数を上乗せしてもらえる事にもなったのだ。
これにより、フェリスとクレイドは補講を免れた……

だが問題は、パッセルだ。

「パッセルさん、外国語苦手だったんですね」
「……喋るのに問題はありません」
「そうは言ってもな」
「……納得いきません」

パッセルは、とにかく文字を書くことに弱い。
例えるなら…「読めるけど書けない漢字」が沢山ある、みたいな事だ。
そもそも母国語の読み書きでも精一杯なのに、外国語を書くのはいよいよ無理。
そして、今回に限って、外国語に訳して文章を書く問題ばかり……

薄っすらとしたパッセル潰しである。

「補講は何日あるんだ?」
「……1週間です」
「1週間かぁ~」
「東の辺境伯がお怒りになるぞ」
「そうやって教員を脅すしかありませんな」
「もう、パッセルったら…穏やかじゃないなぁ」

すると、これまたオヴィスが名案を思い付いた!と言わんばかりに声を上げた。

「じゃあ僕、補講を別の形にしてもらえるよう交渉してみます!待っててください!!」
「え、あ、オヴィス殿!?」
「行ってきま~~す!!」
「こらオヴィス、待てって」
「エバさま、早く早く~~!」

そうして、エバ王子とオヴィスは職員室へと駆けて行った。
フェリスとクレイドは彼らをただ見送った。
そして思った。
彼らが王と王妃になれば、この国は明るくなりそうだ……と。

***

パッセルが外国語の試験を落とした、という話はあっという間に学園中に広まった。

「パッセル殿も人間だったのだな」
「でもまさか、赤点だなんて……」
「災害支援に行った分の加点もあったはずなのに……よっぽどだな」
「自分にもパッセルに勝てる部分があると思うと勇気が湧く」

等々……。

だが当人はそれどころではない。
オヴィスとエバ王子が学園側と交渉し、何とか「追試を受け合格すれば補講無し」というところへ持ち込んでくれたのだ。
この学園に追試というシステムが無かったのをねじ込んでくれた2人の為にも、必ず合格しなければならない。

そんなわけで現在、パッセルは自室からほぼ出てくる事なく缶詰め状態で試験勉強に取り組んでいる……

「パッセル、回復ポーション、置いとくね」
「……ありがとうございます」
「お昼のサンドイッチも置いとくからな」
「……ありがとうございます」

読める、けど書けない。
話すことは出来るのに、書けない。
それが何とも悔しくて情けない。

北の国境を越えてやって来た商人や東の辺境の向こう側から来た傭兵たちと会話した時には、何も困らなかったのに……。

「話せるのは多分、転生者特典だな」


ギル王子との恋人期間は、試験最終日をもって終わった。
最後のデートをして、お互いに「伴侶としては考えられない」と話し合って別れ、今後は良き友人として付き合っていこうと決めたばかりだ。

「勿論、東の辺境へは共に行く。
 モンタルヌス領にも行くんだろう?
 クレイドのお祖母様に一度お会いしてみたくてな」
「ええ、それは良い。
 エクレセンテ様は凄いお方ですからね」

そうして、空いた恋人の座にはリュノ王子がついた。
だがもうそれどころではない。
東の辺境へ何としてでも終業式終わり、最悪でも次の日には出なければ……

「とにかく、単語だ。
 単語を覚えなければ始まらない……くそッ」

ノートが真っ黒になるまで単語を書く。
そうやって頭の中に刷り込むしかない……

「……見てやがれ、教師共」

パッセルはそう毒づきながら、必死で外国語を詰め込んだのだった。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...