話が違う2人

紫蘇

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合わさる世界

どうにかなれ!

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パッセルは覚悟を決め、中等部の生徒達に声をかけた。

「皆さん、良くいらっしゃいました」
「あ……パッセル、さ、さん」
「その、パッセルさ…さん、俺たち…」

パッセルが怒っているんじゃないかと、生徒達は委縮しつつ謝罪をしようとする。
それを押しとどめて、パッセルが言う。

「差別と云うのはお互いに対する無知から始まります。
 とはいえ、オメガとベータで違うところと言えば
 ・発情期があるかないか
 ・同性同士の間に子を産めるかどうか
 この2点につきます。
 後は個人差のようなものです。
 見た目一つにしたって、リュノ王子の顔は整っているけどクレイド兄上はそうでもないでしょう?」
「なんて事いうのパッセル!
 クレイドは見た目じゃ……あ」
「へーへー、どうせ見た目は地味ですよ」

……そんな子芝居を挟みつつ、パッセルは次に能力面について話す。

「では頭脳について…
 これはもうご承知の通りですね。
 試験の成績ひとつとってもそうでしょう?」

これには、中等部の生徒たちも素直に頷いた。
現にベータであるラディアより成績の悪いアルファの方が多いのだ。

「それから、オメガは弱いというのも嘘です。
 実践してみせましょうか……兄上!」
「おー、じゃあ久々にやるか」

今度は中等部の生徒たちだけではなく、その場にいた全員がざわついた。
剣術大会2連覇のクレイド対パッセル……

「なあ、どっちが勝つと思う?」
「う~ん…フェリス様にいいとこ見せたいクレイド様じゃね」
「いやいや、実戦経験豊富なパッセルさんだろ」

そんなざわめきの中、クレイドは上着を脱いで腰の剣を外した。
対するパッセルも上着を脱いだ。
クレイドは当然の事、パッセルにもしなやかな筋肉がついている事が見てとれる……
それでも、体格だけで言えばラディアの方が大きい。

「…やっぱパッセル様ってオメガなんだな」
「そう、だね」

ラディアは安堵した。
パッセルより自分の方がベータらしく見える事に。

そして……

「アラウダ殿!合図を」
「えっ、何故私……ったく、…始め!!」

微妙に締まらない合図と同時に、クレイドとパッセルは同時に動いた……!


***


結果、地面に背中がついたのはクレイドの方だった。

「っち、やっぱ体術は敵わねぇなぁ……」
「はは、最近魔法科で体術ばかりやっておりますからね」

高等部の学生はすげえすげえと盛り上がり、フェリスはクレイドに駆け寄って上着を渡す。

「残念だったねクレイド」
「ああ……もうちょいだったのに」

勝ったパッセルは脱ぎ捨てた上着を探し……それを持っているのがリュノ王子だと分かるとげんなりした。
リュノはそんなパッセルに近づき、上着を着せようとしてさらりと奪われ……。

「強いな、パッセルは」
「これでも色々と投げ飛ばしてきましたからね」
「……具体的には、何を?」
「猿の魔物とかですね」
「魔物!?」

てっきりどこかのアルファの話かと思いきや、魔物であった事に驚愕するリュノ。

「君は……底知れないな」
「そうですか?救助隊にも何人かいますよ」
「本当か!?恐ろしいな、救助隊」

その話を聞いて、高等部の学生は楽し気に笑い、中等部の生徒は目を見張る。
だって、災害救助隊は全員……。

「平民の、ベータなのに」

誰かがそう呟いたのを、パッセルは聞き逃さなかった。

「そう、平民のベータだろうが、鍛えれば出来る。
 でも鍛えなければ、貴族のアルファでも出来ない。
 つまりそこの……ラディア君が、素振りを止められた理由は、鍛え方が足りないからです。
 でしょう、兄上」

パッセルはクレイドに話を振った。
するとクレイドは当たり前のように言った。

「ん、そう、体幹が弱い。
 だから剣を振るたびに体がぶれる。
 今日見学になった奴は、明日は片足立ちの訓練だな」

するとラディアは驚いた顔で言った。

「え、そうなんですか?」
「だって騎士じゃなくても武器を取って戦う事もあるだろうし、最低限は出来る様にしなきゃだろ?
 今日見学させたのは、悔しさを覚えさせるためだ。それが無いと訓練する気にならないだろ」
「……そうだったんですか」

ラディアは安堵した。

別にオメガだとバレたわけではなかったのだ。
単純に「出来ていないから止められた」だけ。
そして、あんなふうに怒られたのは……

反抗的な態度に見えたから、だ。

「お前、子どもん時家の中で遊ぶ事の方が多かっただろ?」
「え、あ……はい」
「そういうのが、今になって差になるんだよ。
 剣術もした事ないのに素振りできてた君らは、外で遊ぶ事が多かったんじゃないか?」

すると、中等部の生徒たちには思い当たる節があるようで……

「うん……言われてみれば」
「父さんが暴れるなら外でやれって」
「暴れてたの!?」
「廊下走ってただけだぞ!」
「あはは、それは怒られるよ~!」

ラディアは友人の言葉に、ようやく笑顔になった。

剣術の出来不出来でバース性がバレる事は無い、それが分かっただけでも……

「うふふ……良かった」

そして何より、ギル王子も参加しているというこの勉強会に、他の中等部生より先に触れられた事も……
特別なようで、嬉しかった。
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