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嫁は隠れて活躍する
厨房の床
ベリタスさんの「気を付けて」の言葉を気にしつつも、厨房についた。
「すみません、失礼します」
「おおどうしたトマス。
腹が減ったか?」
「ああ、いえ、お手伝いできることは無いかと思って」
「手伝い?」
「はい、洗い物とか」
「ああ、それだったら山ほどある」
というわけで、僕は厨房で防水タイプのエプロンを貸してもらい洗い場に入った。
「ああトマス!助かるよ」
「はい、一緒に洗いましょう!」
僕は洗い場担当のシェリさんと並んで、山のような皿と調理器具をゴシゴシ洗う。
「~♪~~♪」
「トマス、早いね!」
「はい、子どものころお手伝いをしてたので」
「そりゃ良かった、まさか前の職場で皿まで洗ってたのかと思ったわ」
まあ、自分の食べた分の皿のついでにあれもこれも洗えってやられた事は数知れずだけどね。
僕には母さんに褒められた記憶の方が大事。
「皿は任せてください!」
「じゃあ私は鍋をやるわ」
「はい!」
皿の水を切っている間に、こまごまとした調理道具を洗う。
「包丁気を付けてね!」
「はい!」
どんどん洗って、すすいで、水切り台に乗せていく。
終わったらお皿から拭いていって、所定の位置へ戻しに……
「うわ!」
「おいトマス、大丈夫か?」
足が滑って、あやうく皿を割るところだった。
危ない……
「……床、すべりますね」
「そうなのよ~!だから気を付けて、って今言おうとしたとこ」
なるほど、ベリタスさんが言ってたの、これかぁ……
気を付けよう。
「床がツルツルすぎて、ちょっとした水で滑っちゃうのか……」
だったら、すべらない靴があればいいんだよね。
僕の履いてる革靴じゃ駄目だな……
そうだ!
「滑らない靴底を考えよう!」
うーん、摩擦が大きくなればいいんだから……
「おーいシェリ、トマス!
手が空いたら玉ねぎ向いてくれ!」
「はーい!」
そうだ、今はまだ仕事の途中。
できるだけ色んなことをやってみよう!
***
「料理長さん。
床がつるつるで、こけそうになりません?」
「いや?もうとっくに慣れたしな。
それに、水を撒いてゴミを流すのにこのツルツルは大事なのよ」
「ツルツルには理由があるんですね」
「おうよ!」
ふーん、清潔を保つためのツルツルだとしたら、やっぱり靴の底で何とかするしかないか。
でも、ツルツルを駄目にしないものがいいな。
何か動物の革……なめらかな方でなくてザラザラの方を、うまく使えないかな。
それか、藁で編んだバスマットみたいな……
「うーん……」
他の人は何か工夫してるのかな。
それとも僕だけの問題?
でもシェリさんは滑ることを知ってたし……
うーん。
「他の方は滑らないんですか?」
「そうだな、長いことここでやってるし、鍛えられてるから」
「シェリさんは?」
「私も最初は滑ってこけたりしてたけど、もう大丈夫よ」
「やっぱり僕の問題かぁ」
だとしたら、他の人がどう立ってどう動いてるか、体の動きを観察したほうが早いかな。
うん、なるほど。
「じゃあ、僕も鍛えて滑らなくなるようにしないとですね」
「はは、そうだな!」
よし、早速晩御飯の後片付けで観察だ!
……と思っていたら、料理長が言った。
「いっそ兵団の訓練に参加してみたらどうだ?」
「いやいや、お邪魔になりますし」
整備係では多少お役に立てても、剣を扱うことには慣れてない。
それこそ自転車を漕ぐので精一杯……
しかも、魔法でズルしながらだ。
けど、料理長は更に言った。
「基礎錬ぐらいなら大丈夫だろ!
心配なら、今晩副兵団長に頼んでみるわ」
「え、えっと……」
「良いんじゃないか?基礎錬なら文官の勤務時間と被らないはずだしさ」
聞けば、兵団の基礎訓練は朝ごはんの前にやるらしい。
仕事に支障のない範囲でな、との事だけど、お腹減らないのかな……
それとも、お腹が減った状態で動く事に意味があるのかな?
空腹状態で戦う時もあるもんね。
「うーん……」
けど、こっち方面は本当に自信が無いんだよな。
でも、この領地に住むんなら、多少は出来なきゃ生きていけないかも……
よし!
「じゃあ、お願いします!」
「おうよ!
そんかし、晩飯の洗い物は手伝ってな!
文官の仕事が忙しくない時はだけど」
「はい!」
思い切ってやってみよう。
本業に支障が出ないように!
「んじゃ、そろそろ晩飯の調理に入るか。
……良かったら見てくか、トマス?」
「いいんですか?是非!」
僕が剥いた玉ねぎがどうなるのか、気になってたんだよね。
一体どんな料理に化けるんだろう……
楽しみ!
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