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嫁は隠れて活躍する
少し変わった日常
皿洗いに行った次の日から、僕の1日は少し忙しくなった。
まずは朝起きてストレッチして、兵団のみんなと訓練場の外周を走る。
「ふひー……」
「おう、今日は1周多く走れてたぞ!」
「えっ……やったぁ!」
「けど、正規の回数にはまだ3周足らないけどな」
「まあ、最初に比べたらかなり良いぞ」
ちょっとずつ体力がついてきたみたいだ。
まだ剣を握ることは出来ないけど、走るだけで精一杯だし無理は禁物。
「最初は『こいつが自転車で国境越えとか嘘だろ』って普通に思ったわ」
「はは……」
「そうそう、それで『実は身体強化魔法使ってました』って言われて、こいつ魔法使えるんだ!?ってなったわ」
「はは……でも、どの属性も出来て中級までですけどね」
「いやいや、すげえよ!
魔法使える奴なんて見た事無いもん」
「なー!」
実は僕、ちょっとだけ魔法が使えるんだ。
学校には行かせてもらってないから、全部独学だけどね。
「魔法の本を読むのが好きだっただけですよ」
「その『本を読む』っていうのがもうすごいわ」
「いや、お前はもうちょっと本を読めよ」
「うるせえな、エロ本なら山ほど読んでるわ」
「アホを発表するな、アホを」
叔父一家は本が嫌いで図書室には寄りつかなかったから、そこが安息の場だった。
それで何とか奴らに一泡吹かせてやろうと、色々試した中の一つが魔法だったんだ。
勘違いした使用人を撃退するのにも役立ったし、出来るようになって本当に良かったと思う。
治癒が使えたから、鞭で打たれても傷を治すことができたしね。
「な、トマス。
基礎練に付いてこれるようになったら、魔物狩りに行ってみないか?」
「えっ!?」
「弱い魔物だったら、魔法で撃退できるはずだ。
戦うことを覚えたら、結婚して屋敷の外で暮らすことになっても役立つぜ」
「う、うーん……」
今のところ結婚の予定は無いし、一生独身でもいいかなって思ってるぐらいだけど……
まあ、出来るに越したことは無いものね。
「じゃあ、付いていけるようになったら、で」
「おう!頑張ろうな!」
「はい!」
何でも経験だ。
僕のスキルがどこまで使えるか、どんどん試していこう!
***
朝ごはんを食べたら事務室へ直行。
今日は視察へ行く先の情報を整理する日だ。
それをふまえて、どういうルートで回るかを検討して……。
「こんなに回るんですか?」
「回らなくていい村はないからな」
「今回は旦那様がいないから、手分けして回るってのが出来ないしさ」
どうやら、たっぷり夕方まで時間がかかりそう。
今日はどこへもお手伝いにいけそうにないな。
「ま、トマスにはちょうどいいだろ?
実際どんなとこかを見るのも大事だし」
「あの……その間の書類仕事は?」
「そのへんは心配しなくて大丈夫!」
視察の期間と視察ルートを各所にお知らせすれば、その間書類事が停まるってことをみんな知っているらしい。
だから、視察に来るタイミングで報告書や申請・嘆願を提出するところも多いんだとか。
「そういう慣例が出来てるんですね」
「だな、もう何代も前からそうなってる」
「そしてどの代でも、税金計算はちょっと遅れる」
「それって、遅れるように仕組まれているんじゃ……」
「いや、単に代々そういうのが苦手なだけ」
「ええ……」
武に振り切った家だからこそ、じっと机に座って書類に目を通すのが苦手なんだそうで……。
もしかして、代々受け継いでいるスキルがあったりして、その影響とかかも。
「それに、ブンデビルド家以外のとこは遅れてないんだから、言い訳できないだろ」
「それはそうですね」
でも、この領ってほんと色々な収入源があるし、その分問題も多岐に渡るから、それをまとめるだけでも大変だ。
これを2人で回してるのは凄いと思う。
「今回急ぎは特にないから、近くの村から順繰りで良さそうだけど」
「暴かなきゃいけない悪事も今のとこ見当たらないしな~」
まあちょっと税金をちょろまかしてるやつはいるけどな、とジェリドさん。
ちょっとの額なら泳がしておくのがブンデビルド家の流儀らしい。
叔父一家の財政もそれぐらいの余裕があったら、なんて……あ~あ、今どうなってるんだろうな~。
急に「代わりに嫁げ」なんて言われてさ。
おまけに「馬車に自転車を積むなんて!」って言うから、仕方なく予定より早く出発することになっちゃって、引継ぎなんて何にもしてないんだよね。
ま、暇があったとしても引継ぎなんかしないけどね。
僕の事を「無能」だとか何とか言ってたぐらいだから、いなくなって困る事なんてないでしょ?
「そういやトマス、自転車持ってく?」
「え、馬車で行くんじゃないんですか」
「いや、行った先で使えたら便利だろ?
自転車に興味持ってる職人もいるし、ついでに見せてやって欲しいんだけど……駄目か?」
「いえ、そう言う事なら全然!」
どうやらブンデビルド家の御者は「馬車が汚れるから」って積むのを拒否した奴らとは格が違うらしい。
さすがだ。
「そういえばトマス、兵団の奴から聞いたんだけど、お前魔法使えるんだって?」
「いやぁ、使えるというほどでは……
弱い魔物なら倒せるかも、って程度で」
「いやいや、それでも心強いよ!
俺もディータもあんま強くないからさ」
いやいや、僕の魔法に頼るぐらいならお二人の剣に期待する方が何倍もマシですが?
「……魔物除けの香、いっぱい持ってきましょう」
「そりゃもちろんそうなんだけどさぁ……」
「あてにしないでください、本当に」
「でもさぁ……」
「でもじゃありません!!」
独学だし、実戦経験皆無だし、無理なものは無理。
人の命は預かれません!!
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