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嫁は隠れて活躍する
視察へ出発!
「それでは、行ってきます!」
「おお、気を付けてな!」
視察のお知らせを発送して5日後。
何の書簡も届かなくなったのを確認して、僕とディータさんとジェリドさんはブンデビルド家を出発した。
「軽々自転車を積めるなんて、大きい馬車ですね」
「これより大きい馬車もあるぞ!
兵団のやつだけど、30人ぐらい乗れる」
「そんなに!?」
さすがブンデビルド家、とんでもないものをお持ちだ。
今度どんなのか見せてもらおう。
「昼頃には最初の視察先に着くから、飯はそこで食おう」
「はい、楽しみにしてます!」
「トマス、食い意地が張ってきたな」
「ブンデビルドのご飯美味しいですもん」
「そりゃ良かった!」
御者は副兵団長のテッドさん。
交代要員兼護衛は第1分隊長のレディさん。
護衛が一人でも大丈夫なのかと聞いたら、村と村の間の護衛に各村から自警団の人が出てくれるらしい。
「そうやって、ブンデビルド家の兵団と村の自警団の交流が行われてるんですね」
「そうそう、あと将来有望そうなのをスカウトしたりとかな!」
「すごい、一石三鳥ですね」
「全部の村回るのなんて年に1、2回だからな。
ついでに出来る事はなんでもするんだ、ただし魔物退治以外だがな!」
ディータさんとジェリドさんが声を上げて笑う。
ははは、と御者席からも笑い声が聞こえる。
僕もつられてハハハと笑う。
『気持ちの良い笑い声が聞こえる場所は
良い場所だよ、ゼニス』
……ふと、父さんの声が聞こえた気がした。
***
出発からおよそ1ヶ月。
視察は順調に進み、ついに折返しに入った。
「次はルゴ村、ですね」
「あ、そうそう!そのルゴ村に、自転車に興味持ってる職人がいるんだ」
「そういえば出発前に仰ってましたね!
……でも、正直ブンデビルド領の地形だと、厳しくないですか?」
ここまでで一番身に染みたのは、ブンデビルドが山の多い場所だってことだ。
資料で「領地の約7割が山林」と読んだから頭では分かっていたけど、実際に見ると本当に……自然豊かと言えば聞こえはいいけれど、それってつまりは人が住めない場所が多いって事だと分かる。
「あの坂を自転車でとなると……」
村は比較的なだらかな場所を選んで作られている。
それでも、自転車で走るのは結構きつかった。
農地はほとんどが段々畑だ。
見る分には綺麗でも農作業はきつそうだ、って素人の僕が思うぐらいに、急な坂が多い。
「ブンデビルドの人たちの足腰がいくら強いと言っても、さすがに……」
「でもトマスは国境の峠を越えて来たんだろ?」
「いやいや、僕は魔法でズルしてますから」
ちなみに、農地は村より高い位置に作るのが原則らしい。
仕事して疲れた体で坂を登るより下る方が楽だもんね。
「自転車……役に立つかなぁ」
「まあまあ、行ってみればわかるさ」
「……ですかね」
先入観や思い込みは良くない。
見たいっていうなら見せればいいだけ。
だけど……
「役に立たないなんて言われたら、嫌だなぁ……」
僕は自転車が好きだ。
父さんの形見だって理由だけじゃなく、これに乗って颯爽と走る父さんがかっこよかったから。
その姿を見ている母さんの顔が楽しそうだったから。
乗れるまで、ちょっと練習は必要だけど、乗れるようになったら楽しいから。
だから、みんなに自転車のことをもっと知って欲しい。
だけど自転車で坂を登るのはきつい。
楽しくなるまえに「しんどい」がきちゃうと、誰だって乗りたくなくなる……
「……山道も楽々走れる自転車があったらいいのに」
「でも、魔法で何とかなるんなら、魔道具で何とかなるかもしれないだろ」
「……ペダルを回す力を補助してくれるような?」
「そうそう!
魔道具職人に聞いてみたらいいじゃん、ルゴ村には魔道具職人もいるし」
「そっか、ルゴ村は職人村ですもんね!」
山道でも楽々走れたら、きっと楽しい。
身体強化魔法が使えなくても、峠を越えられる力を、自転車そのものに……
「……すごい発明になったらどうしよう」
「ははっ、いいじゃねぇか、ブンデビルドが儲かってさ!」
「俺らの仕事だって、出荷品に新しい項目が一個増えるだけだしな!」
「「ははは!」」
どうしよう、逆にすごく楽しみになってきたかも。
よーし、何としても自転車を売り込もう!
頑張るぞ!
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