旦那様には気付かれたくない!

紫蘇

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【閑話】フィッツラルド王の苦難

隣国からの知らせに頭痛

 
 朝、頭痛と共に目を覚まし、体を引きずるように執務室へと向かう。

 それが新王・フォーゲルの日常だ。

 荒れた王都をどうするか。
 ウィアグランドとの友好関係をどうするか。
 借金をどうするか、どうやって外貨を稼ぐか。
 隣国のその向こうまで、自国の製品を売り込むにはどうしたら……

 だが、その通過点である「隣国」との関係は悪くなるばかりだ。

 執務室へ入り、王宮治癒師に頭痛を直してもらってから、王は側近に聞いた。

「……で、今日は何だ」
「はい、ウィアグランドから正式な抗議と申し入れが届いております」
「……だろうな」

 だって嫁が来ないんだもんな~。
 けど、うちも今それどころじゃないのよ。
 だってもう一つの隣国が攻めてきたんだもの。

「……助けは、呼べそうにないな」
「可能性は、低くなりました」
「……はぁ」

 王の頭痛は頂点に達していた。
 また治癒師を呼ばなければ……だが、今はそれどころではない。
 今は小競り合いで済んでいるが、向こうに死人が出たらそれを口実に本格的な戦争を挑まれるだろう。

 つまり、時間の問題。

「ガルディオラの件はもう送ったのだな?」
「送りました、が、まだ到着してないものと」
「まあ、王都と王都じゃ遠いからな……。
 で、申し入れとは?」
「ブンデビルド侯爵殿が、直々に『来ない花嫁』の件を捜査したいと」

 なるほど。
 ということは、捜査する権限と引き換えに、ブンデビルド家と友好を結べるかもしれない。
 彼は恐怖の大将軍らしいが、来ない嫁を心配する人間が恐ろしいだけの者であるはずがないだろう。
 であれば、何とか情に訴えて……。

「よし」

 王は決断した。
 ブンデビルド家を通して、ウィアグランド王家と仲良くなる。
 これしかない。
 例え自分の身を削ってでも……。

「ならば侯爵殿の屋敷へ『是非とも』と書簡を。
 王都までお越し頂ければ、こちらの捜査情報を全てお伝えすると」
「かしこまりました」
「できるだけ早い馬で、頼む」

 王はそれだけ言うと、次の懸案にとりかかった。

「では、特別税の廃止について、検討する」

 借金を返すためには、いくらかの税は残しておかなければならない。
 とはいえ、この国の貨幣で借金は返せない。
 外国からの借り入れは、相手国の通貨で返さなければならないのだ。
 つまり外貨が必要……。

 一発逆転、戦争の賠償金にかける手は使えない。
 そもそも、今の小競り合いですら綱渡りだ。
 であれば、どうやって外貨を得るべきか……

「……何か、売るものがあれば」

 外国の人間が欲しがるもの。
 ああ、何か資源の一つでもあれば……!


 ***


 その夜、王は少ない食事を取り、重い足取りで自室へと向かった。

 その様子に側近の男は何かを感じ、話しかけた。

「陛下、何をお考えに?」
「……この国の将来だ」
「その将来のために、ご自身を犠牲に?」
「ああ、俺には弟がいる。
 俺が王でなくなったとしても、あいつが」
「……良いのですか、それで?」
「良いも悪いも、もうこれしか……」

 王は静かに目を閉じた。
 側近はその金の瞳で、彼の顔を覗き込んだ。

「目の前の小競り合いを躱すためだけに、ご自身を差し出すと?」

 王は目を閉じたまま言った。

「……断られれば、仕舞いだがな」
「私との約束は、どうなります」
「……すまん」

 何もかもうまくいかない。
 父親の放蕩だけではない、祖父の代からの借金もある。
 ガルディオラとの戦争で作った借金が。

「……だが、あの時の様に、ウィアグランドにすがりつけたら、少しは」
「我が国は救われると?」
「他に方法はあるまい」

 フィッツラルドは、ウィアグランドとガルディオラとの間にある緩衝地帯として生まれた国だ。
 ガルディオラが欲しいのは、フィッツラルドではなくその先のウィアグランド。

「……フィッツラルドがガルディオラのものになれば、直接対決は免れない。まずはその事をブンデビルド候にお伝えし、協力を仰ぐ。
 その頃にはきっと、ウィアグランドの王都に小競り合いの件が届いているでしょう。
 ですから陛下、軽々しく御身を犠牲になさる事だけは」
「……そうだな」

 側近は静かに王から離れた。
 王は閉じていた目を開き、足早にその場を離れた。

 側近である彼は、王の背に一礼し……

「私も上手くいく方法を考えますから」

 と、小さく呟いた。

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