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恋する旦那様
【旦那様】帰路につく
用事が済んだので、さっさと王都を離れて帰路につく。
姉や妹に王都へ来ている事がばれたら敵わん。
「まあ、見合いを勧められる事は無いだろうがな」
「……そうでしょうか」
「やめろウェラー、本当になりそうで怖い」
甥っ子姪っ子はかわいいと思う。
だが、それに付属する親はちっとも可愛くない。
あいつらに会うのは年に一回でいい。
いや、5年に一度でもいい。
「宰相の嫁に、大商人の嫁……か」
どちらも、並の神経で勤まる座ではない。
つまり奴らの神経は太く図々しい。
奴らが俺を女装させて茶会へ送り出した日の事は一生忘れない。
「何が『女の気持ちを知れば恋人はすぐできる』だ」
「女装しただけで女の気持ちが分かったら苦労しませんよね」
「その通りだ!」
それに、この「金の瞳」がある限り、俺に恋人など出来ん。
……ならばこの目で見定めるのは
いつ冷めるともしれぬ仮初の恋ではなく
決して消える事の無い、愛の光……
はっ!?
「……飛ばすぞ、ウェラー」
「かしこまりました」
こっぱずかしい詩など詠んでいる場合か。
さっさと帰って、隣国へ調査にいく準備をせねばならん。
「ゼニス殿を見つけて差し上げなければ」
「ええ、許可が下り次第出られるように」
本当は許可など待たず今すぐにでも出たいが、国同士の関係を悪化させかねないとなれば我慢するしかない。
「早く許可が下りれば良いが」
「それまでの間だけでも、溜まった書類に目を向けてやってください」
「何を言う、書類などより……いや、書類も大事か」
あの3人が、後は内容を確認してサインをするだけの状態にしてくれているはずだ。
ディータと、ジェリドと、トマ……
トマスか。
ふむ。
「ウェラー、トマスはフィッツラルドから来たんだったな」
「ええ、そうです」
「ならばまず、彼に聞いてみよう」
つい勢いで飛び出してきたが、考えてみれば先にそうしてから来れば良かった。
そうすれば、王の話にいちいち驚いたりせずに済んだかもしれないのに……
というかあいつ、俺の方が年上だって事完全に忘れてるだろ。
まあ、王が臣下に敬語を使うもんではないかもしれんが、ちょっとムカつく。
昔はあんなに可愛かったのに……。
「王都に来ると、無駄に疲れる」
「え、何ですって!?」
「何でもない!ただの独り言だ!!」
さっさと帰ろう。
そして皆に土産を配って、それからトマスに話を聞こう。
書類を確認してサインをしたら、憂さ晴らしに魔物退治に行こう。
それでいい。
「やはり俺にはブンデビルドが合う」
「え、何ですって!?」
「何でもない!ただの独り言だ!!」
いちいち独り言に反応しなくてもいいのに、律儀な奴だな。
「俺は良い側近を持ったな!!」
「え!何ですって!?」
「何でもない!気にするな!」
***
我が領で育った馬は優秀だ。
肺も心臓も強いから、長い距離を速く走れる。
「見えて来たぞ、我が家が!」
「ああ、ようやくですね!」
それでも、王都からここまで18日だ。
行きは謁見申請の紙を追いかける形になるから、どうしても25日はかかる……ん?
「……申請書を持っていって王都の郵便に頼んだら、その方が早いのでは」
「確かに?」
なぜ今まで気付かなかったのだ。
次からそうしよう。
「本当は、自分で持っていく事が許されれば一番良いんだがな」
「そういう決まりですから、仕方がありません」
自分で持ってくることが許されていた時代、申請を早く通すため処理する人間に賄賂を渡すのが横行したとかで、今は王への陳情その他申し入れ等々は郵便で出すことが義務づけられている。
こういう不便を持ち込むのは、いつも善性を忘れた人間だ。
「馬より早く手紙を運ぶ方法は無いものかな」
「空を飛ぶしかないのでは?」
「では、空を飛ぶものを作るか……」
そうだ、ルゴ村の職人たちを集めて考えさせれば、何か良い案が思い浮かぶかもしれん。
うむ。
「では、我が家に戻り、トマスから話を聞き、書類を片付けたら、ルゴ村へ向かおう」
「フィッツラルドの件はどうします」
「ふむ……」
王都からの早馬が向こうへ着くのに1ヶ月半。
向こうから返事が即日返って来たとして、それにも1ヶ月半。
ここに着くのは更に1ヶ月。
俺が王都を出るのと同時に手紙も出たから、今国境を越えたあたりだろうか。
つまり2ヶ月程度は余裕がある。
ここからルゴ村まで一気に駆け抜ければ7日程度。
そこから戻りに7日程度……ふむ。
「では、我が家に戻り、トマスから話を聞いたらルゴ村へ向かおう」
「……書類は?」
「悪いが後回しだ!」
どうしてもというなら、持っていけばいい。
宿にでも立ち寄った時に処理しよう。
そうだ、執務室にいなけりゃならんから嫌なのだ。
外でやった方が捗るかもしれん。
これは良い案だ!
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