旦那様には気付かれたくない!

紫蘇

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恋する旦那様

【閑話】作戦会議

 
 その日、ナコ村で唯一の宿は異様な空気に包まれていた。

「……なあ、みんな、どうする」
「どうするって……なあ、レディ」
「副団長に出来ん事が俺に出来る訳ねぇっす」
「25年以上の付き合いがある俺でも、こればっかりは」
「っすよねぇ……」

 小さな宿の小さな食堂に、4人の男のため息が同期する。

「「はぁ……」」

 彼らを悩ませているもの。
 それは、主人である「ワイルダー・ブンデビルドの奇行」である。

 貴族学校からの付き合いであるジェリド。
 10年以上共に戦場を駆け抜けてきたテッド。
 幼い頃から背中を追ってきたレディ。
 そして、乳兄弟として共に育ったウェラー。

 彼らがそれぞれに、ここに来てからの「ワイルダー・ブンデビルド」の言動その他から出した結論。

  【旦那様はトマスの事が好き】

 当然その「好き」は恋愛的な意味でだ。
 接点など碌に持たせなかったなずなのに、何処でそんな感情を抱いたのかは謎だが……
 とにかく、間違いない。

「……トマスの方は、どうなんだ」
「悪い印象は無いみたいです。
 モテない理由が分からない、とかお優しい方、とか言ってたので」
「俺らも聞きました。
 慈悲深い将軍様だと思ってる、って」
「困ったなぁ……」

 ジェリドは頭を抱えた。
 旦那様とトマスの接点は極限まで減らしたつもりだったのに……。

「どうしてこんな事に……」
「なあ、トマスを愛人として囲うってのは駄目なのか?」
「絶対に駄目」
「なんでよ」
「……トマスが不憫すぎるだろ」
「でも、不憫かどうかは、俺らがどう付き合ってくかで変えられるんじゃないすか?」
「いやいや絶対ダメ、絶対無理」
「だがしかし、その方向も考えた方が……」

 その時だ。
 がたり、と宿の扉が空き、一人の男が入ってきた。
 村長の家から戻ってきたディータだ。
 その姿を見てジェリドは跳ねるように立ち上がり、彼に駆け寄った。

「ディータ!」
「えっ、ジェリド?」

 ディータは驚いて声を上げた。
 ジェリドの顔は蒼白だった。

「……どうしよう、ディータ」
「どうしようって、お前……いきなり、何だよ」

 そのただならぬ様子に、ディータは困惑した。
 だが、その次に聞かされた言葉は、その困惑をさらに深めるものだった。

「旦那様が、トマスに、あーんしてる」
「……は?」


 ***


 ちょっと2人で話がある、と言って部屋に引きこもったディータとジェリドは、彼らの元へ戻って沈痛な面持ちで一つの事実を告げた。

「今までずっと黙っていたんですが……
 トマスは『福音の子』なんです」

 本人がいないところで、第一級の個人情報を他人に暴露するのは気が引けた。
 だが、彼らの協力なしにこの先トマスを守っていけるか?と言われれば答えはNOだ。

「って事は、男同士でも子どもが出来る?」
「だったらいっそ嫁にすればいいのでは」
「いや、政略結婚の話自体が無くなったわけじゃないからな」

 ややお気楽な副団長テッドと第一分隊長レディの言葉に、ディータが問題の深さを説明する。

「ってことは、あちらさんの事情が落ち着けば、今度はまともな嫁がやってくる可能性が高い」
「……ってことは、その嫁さんにとっても愛人なんて居ない方がいいっすよね」
「そうだ、どちらにとっても不幸しかない。
 やってくる嫁がクソ女だったら別だろうが……」

 そこまで言うと、テッドとレディにも事の重大さが伝わったらしく、かれらもまた渋い表情になって言う。

「友好の証として来るんすもんね」
「ああ、今度こそまともでしっかりした嫁が来ると想定される」
「困ったなぁ……」

 ディータの説明に、ジェリドも補足を入れる。

「トマスには長く働いてもらいたいんだ。
 だから俺たちは、トマスを大切にしたい。
 入ってまだ半年も経ってないけど、あいつ無しで繁忙期を迎えるなんて考えられない」
「……っすよね」

 それは事務方の偽らざる本音だった。
 せめて自分たちが働いているうちは、ずっと働いていて欲しい。
 ちょっと遅くなっても家に帰れる喜びは、何物にも代えがたいのだ。

 そんな2人の切実な思いを感じ取り、テッドとレディもトマスは大事な仲間だと頷き合う。

「何をやっても器用にこなす、って、整備係も褒めてたしな」
「料理長もジャガイモ料理を教えてやるんだって、やる気出してるし」
「あいつ厨房の手伝いもしてるのか?」
「ああ、だって基礎錬に参加してる理由が『厨房の床ですべらないため』だしな」
「あ、基礎錬で思い出したけど、トマスって治癒魔法も使えるんだ」
「まじか!!
 それ、魔物狩りに連れてく口実もばっちりじゃねーか」
「いよいよ困ったな……」

 そうして4人が仲良く項垂れる中、ワイルダーの乳兄弟であるウェラーだけは別の事を考えていた。

「……もしかしたら、何とかなるかもしれん」
「え?」
「いや、何でもない」

 なんでも器用にこなせる。
 だが、その道の一流には敵わない。

 そんなスキルを、ウェラーは知っていた。
 ただ、貴族でこのスキルを持っている人間など聞いた事がない。
 人を使う側の人間にはおよそ必要のないスキル。

「器用貧乏……」

 もし「福音の子」であるトマスが「スキルを持っている」とするなら、だ。
 それはある人物の特徴と一致する。

 我儘娘の身代わりにされた、悲しき若公爵。

 その姿を見た事があるのは、数人の使用人のみ。
 なら、スキルを持っていることは知られていても、その内容を知るものは限られているはずだ。

 で、あるならば……。

「とにかく今は、二人を見守る以外にない。
 旦那様の片思いで終わる可能性も充分にある……
 ただし、見つめ合わなければ」
「っすよねぇ」

 それが難しいんじゃん、とウェラー以外の4人がこぼす。
 いっそ旦那様にも彼が福音の子であると伝えてみるのはどうだ、と誰かが言いだす。
 そんな事したらトマスが働きづらくなるだろ、と誰かが返す……

 結論は出ない。
 結局、成り行きに任せるしか……

「見つめ合わなくてすむ道具とかねぇんすかね」
「あっ、それだ!!」

 ……ん?
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