旦那様には気付かれたくない!

紫蘇

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恋する旦那様

【旦那様】はやる気持ち

 
「では、俺とウェラーは先に屋敷へ戻る。
 残りの視察も頼んだぞ」
「かしこまりました」
「お気をつけて!」

 俺は事務方3人と御者役のテッドに別れを告げ、ナコ村を後にした。
 しばらく進んだところで、ウェラーが聞いた。

「で、ワイルダー様。
 トマスから何か情報は得られましたか?」
「ふむ、将来は猫を飼いたいそうだ」
「は?」

 だから将来猫を飼う練習をせねばならん。
 屋敷についたら、ベリタスに早速手配させよう。
 有能な文官トマスを我が家につなぎ留められそうなものは多い方が良い。
 倉のネズミを捕まえるのにも使えるだろうし。

「いや、そういう事ではなく」
「嫁の件は、概ねジェリドからの報告と変わらん」

 腹立たしい話だが、ジェリドはトマスからしっかりと情報を聞き出していたらしい。
 その中で俺にだけ語った事といえば……

 ああ、そうだ。

「……フィッツラルドに関しては、もう少し突っ込んだ話をしたな」
「へえ、どんな?」
「ガルディオラの属国になるかもしれない、と」
「は?」

 ガルディオラ皇帝は、前フィッツラルド王と妹の間にできた子を、妹と一緒に呼び戻した。
 王位継承権を持ったままだ。

「継承権争いで、フィッツラルドの宮廷はぐちゃぐちゃだ。
 そんなところへ、今度は継承権第一位の王子が戻ってきたらどうなる?」
「大混乱待ったなしでしょうね」
「だろう?
 ただでさえ領土拡大に積極的な連中だ。
 獲れる国があれば抜け目なく奪いに来るだろう」

 現王がどう頑張っても、ガルディオラの侵攻は躱せまい。
 ガルディオラ側からはどんな難癖だってつけられる。難癖をつける必要すら無いと攻め込まれる可能性もある。

「王都から早馬が来る可能性もある。
 屋敷に戻って、出陣の準備をする」

 家にこもりきりだったトマスですらそう思うのだから、我らの『太陽』が想定に入れていないはずがない。

「……出るのですか」
「許可が下りればな。
 今、堂々と軍を連れてフィッツラルドに入れるのは俺だけだ。
 来ない嫁を捜索する、という名目でな」

 トマスは言った。
 フィッツラルドを捨てた自分が言う事ではないかもしれないが、祖国が無くなるのは悲しい、と。

「……我が国としても、フィッツラルドが無くなるのは困る」
「帝国が隣になりますからね」
「そうだ、今でさえ山賊のふりをして悪さをしてくるのに、隣に来たら大迷惑だ!」

 邪魔くさい。
 本当に邪魔くさい。
 こっちは魔物との戦いだってあるのに、人間とも戦わねばならんとは。

「……そう言えば、トマスが来た時、ちょうど山賊が出ていたな」
「ああ、そうでしたね」
「あれはもしや、政略結婚を阻止するために派遣された連中なのではないか?」
「……そうかもしれません」
「やつらは今、どうしてる」
「ザンバル山の強制労働所に」
「あそこか……さすがに遠いな」

 では、ザンバル山の所長に手紙でも出しておくか。
 この前捕まえた連中に、フィッツラルド貴族の馬車を襲ったかと聞いてくれ、と。

「そういえば、ルゴ村で『空を飛ぶ荷運びの道具』を作れないか聞くのを忘れたな」
「ああ、それでしたらレディに託しましたよ」
「さすがだなウェラー」
「これでも側近ですからね」

 うむ、やはり俺は部下に恵まれているな。
 有難い事だ。

 俺は少しだけ馬の速度を上げる。
 ウェラーが当たり前のように付いてくる。
 これだけの事とはいえ、何の合図もなくやれるのは長い付き合いのウェラーだからだ。

 そんなウェラーが、もう一つだけと聞く。

「ゼニス・シルヴァ殿の件は?」
「ああ、やはり何も知らんそうだ」
「そうでしたか……残念でしたね」
「元々、そこは期待していなかったがな」

 そもそも公爵家の令息といち文官が出会う可能性は無いに等しい。ベリタスが言うように、たとえ彼がもしどこかの領主だったとしてもだ。

 公爵というのはそのぐらい雲上人なのだ。

 大体トマスには、会った事のある人間の方が少ないだろう。屋敷の中に閉じ込められるようにして働いていたのだ。たった一人で、食事する暇すら与えられず、毎日、毎日……

「で、あるから、これからはそれを取り戻すべく、あちこちへ連れて行かねばならん」
「?」

 美しい歌や演奏を聞かせよう。
 楽しい劇も悲しい劇も見せよう。
 賑やかな街を歩くのも楽しかろう。
 珍しいものを見せよう。
 食べた事のないものを食べさせよう。

「知識しかないのは、寂しい。
 やはり何でも実際を見なければ」

 ただ魔物狩りに連れて行くのはもう少し後だ。
 あれはとても「素敵な光景」とは言えんからな。

「そのうち、王都へも連れて行かねば」
「猫も探してこなければなりませんしね」
「ああ、できれば毛が短い白黒の猫がいいらしい」

 この視察が良い刺激になればいい。
 そしてトマスがブンデビルド領を好きになってくれたら……。

「ウェラー!次の村まで競争だ!」
「はは、急にどうしたんです!」

 分からん。
 分からんが、とても心がはやるのだ。

 速く走りたい気分なのだ!

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