弟子と師匠と下剋上?

紫蘇

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第三章/家と土地

厳しい…! ~フェルディナンド校長視点~

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「校長先生、ご相談があるのですが」

タビト師匠がそう改まって言うものだから、俺も妙に緊張して校長室で居住まいを正した。
それから咳払いをして気合を入れ、聞いた。

「…ご相談とは?」
「妊娠したので、産休と育休が欲しいのですが」

……は?

「に、妊娠って、師匠が?」
「はい」
「ど、どうやって…?」
「ケンプファー筆頭魔導師の魔法で」
「まほうっ!!?」

な、なんだその魔法!
聞いたことねえぞ!?

「こ、こどもって、せ、精霊が勝手に産みつけるやつじゃなくて?」
「はい」
「え、エルデの、子どもって事…?」
「はい」

師匠は当たり前みたいに言うが、俺には全く理解が出来ん。
だって男が子ども産めるなんて聞いた事ねえし…
っていうか、師匠が子ども産めるってなったら、約一名暴走しそうなお方が。

「この話、まだ俺にしかしてない?」
「いえ、学友の皆様にはお手紙でお知らせしました」

と き す で に お そ し 。

「ざ、ザイン様にも……?」
「はい」
「なんてこった」

っていうか……、、結婚は?

「け、結婚式とかは」
「式は全く考えてません。
 そもそも結婚自体するかどうか分からないし」
「えっ」
「子どもは産みますけど、自分がケンプファー筆頭魔導師様が伴侶足りえるかはまた別の話ですし」
「ええー…」

シ ビ ア !!

考え方がシビアすぎない!?
結婚なんて勢いでするもんじゃないの!?
そんでもって喧嘩して浮気して隠し子作ったり托卵されたり…

あっ…
そういう事か。

「その…、エルデは浮気したりしないと思うんですけど」
「浮気云々じゃなくても、『こんなはずじゃなかった』とか『こんな人だとは思わなかった』とか、幻想がひどい分そういう事がありそうで…」
「で、でも、どんな師匠も好きだと…」
「結婚したら長所が短所になることもあるでしょ?
 今全部長所に見えてたら後々短所ばかりになるかもしれないでしょ」
「ええー……」
「子どもが出来たら、僕は子どもが一番になると思うし…
 そうなったら子どもが邪魔になったりするかもしれないでしょ」

確かに、そういう夫婦がいるのは分かる。
うちの家も、姉や妹は大事にされたけど、男の俺は邪魔者扱いだったし…
逆に男だけ大事にして、女はぞんざいに扱うような家もあるし。

というか、師匠の塾に住込みしてたやつらはそういうのばっかりだ。
親から必要とされなかった子の集まり…
だからこそ、師匠の優しさとかが心に染みて、初恋が師匠になる子は相当数いたと思う。
その中でもエルデは特別に師匠の事が好きで…

それが分かってるから、俺もみんなもエルデを応援してやろうかって気にもなるわけで。

だけど、そんな俺の気持ちとは逆に、師匠は更に結婚できない理由を挙げていく。

「あと、生活能力がどうみても低すぎるし」
「それは確かに?」
「領地持ちになった自覚もないし」
「えっ、領地あるんですか」
「様々な観点から、ケンプファー筆頭魔導師様は結婚に向いていない気がするので、だったら最初からひとり親のほうがすっきりしてて良いかなと」

あいつ領地なんか持ってたんだな…
ってことは領主様ってことじゃん。
すげー出世してるな…
まあ、筆頭魔導師だし、実績見たらそのくらい当然か。

だったら玉の輿だし、結婚しちまえば良いと思うんだけどなあ。
同性婚だって禁止されてるわけじゃないしさ。
子どもだって出来るんなら、何の問題もなさそうだけど。

「一緒に生活するつもりなんですよね?」
「うん、でも独り身のほうが簡単に出て行けるでしょ?
 結婚すると離婚が大変だからね…それに、男が子ども産むって誰も信じないでしょ」
「それはまあ…確かに?」
「子どもの事を考えると、表向きは女の人が産んだ事にしたほうが良くない?」

あー、子どもの事かあ。
師匠の性格だと、子どもの事最優先になるか…。
でもなあ。

「ってことは、師匠がどっかの女と結婚するって事?」
「いや?どう考えたって、エルデ君の子どもになる方が有利なんだから、エルデ君が結婚するほうでしょ」
「でも、そうなるとお相手の女性の立場とか…」
「そこは理解のある子に頼むか、女性が好きな女性とか…
 まあ、どっちにも旨味があれば、偽装結婚の話も出来なくはないかなって」

お、おお…。
師匠にしては非人道的な発言だな。
シビアだ…。

「それで、エルデの隣を開けとくって事ですか」
「うん、あまりに突飛な話だし、今後妊娠出産できる男の人が出て来るとは思えないから…
 言わなきゃいけない人には言うけど、世間に大々的に言う事ではないかなって」

そうか、あくまで子どもの為を考えると、師匠の中では「結婚=自分たちのエゴ」って感じになっちゃうのか…。

「…でも、そうなるとエルデの名誉に傷が…」
「結婚する前に子ども作ったんだから、それくらいは甘んじて受け入れて貰わないと」
「…ですよね…」
「まあ、そういう名誉とか気にするタイプじゃないと思うから良いんじゃないかな」
「…そういうとこは、ちゃんと分かるんですね」

一応、脈なしって事でも無いらしい。

「とりあえず、産休と育休ですね…
 予定日が分かったら教えて下さい、乳母の用意をしておきますので」
「そっか、授業のときは預けなきゃ駄目だもんね…
 ごめんね、迷惑かけて」

うふふ…と笑う師匠。
普段の姿からは想像できないしたたかさを見て…
俺は、やっぱりこのひとには敵わないな、と思った。


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