タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま

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一寸光陰

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 数百年前、魔物や国を害しようとする輩から国を守ろうと張られた結界が、一瞬で消えた頃。
 グリフォンにより王都を出たアガタは、かつて己が住んでいた国境近くの森へと降り立っていた。

「すごい。まだ綺麗に残ってた」
「愛し子様、この小屋は?」
「わたしが生まれ育った家。父さんが陶芸家で、集中して作りたいからって人のいない森で暮らしてたの……誰もいなくなったから荒れてるか、取り壊されたと思ってたけど」

 子供だっただけでなく、盗賊に両親を殺された(貯蔵庫で隠れているように言われたので、直接は見ていないが)ショックで家に鍵をかけることを忘れていた。だが、中に入ってみると多少の埃はあるが、家具や服などがそのまま残っていて驚いた。
 そこであることに気が付いて、慌てて外に出る。

「あ、ごめん。その大きさだと、家の中に入れないよね?」
「問題ありません」
「!?」

 グリフォンとは翼と上半身が金色の鷲で、下半身が白い獅子と言う伝説の生き物だ。サイズは、アガタが背中に乗っても余裕がある、小型トラックサイズである。
 だがアガタの言葉に答えたかと思うと、グリフォンは見る間に小さくなり、目の前で小鳥サイズになった。驚いて薄茶の瞳をまん丸くしていると、そんなアガタの茶色い頭に小さくなった分、よりモフモフ感が増したグリフォンが乗っかってきた。

「大きさ、変えられるのね」
「ええ。元々が実体のない精霊なので、何でもありです……なるほど」
「ん?」
「愛し子様の結界が張られていますね、この家の辺りには」
「……えっ?」
「無意識だったかもしれませんが……だから魔物や、害意を持つ者は近づけなかったのでしょう」

 アガタに、結界は見えない。ただ不思議と結界を張ることは出来るし、無くなれば空気が変わるので体感は出来る。
 だから、言われてみれば変に風通しが良すぎる感じはしないので――グリフォンの言葉に、驚きつつも納得する。あの頃はまだ結界の張り方などは習っていなかったが、確かにいつかは帰ってきたいと思っていたので、その可能性は高い。

「……どうせなら、盗賊が来る前に出来たら良かったのに」
「愛し子様……」
「仕方ないよね! 屋根の下で休めるだけ、ありがたいもの! あ、ベッド使えるかしら……」

 ぽつり、と呟くと――アガタは気持ちを切り替えるようにそう言って、両親と共に休んでいた寝室へと向かった。そして十分、寝られる状態だったのでアガタは着ていた簡素なワンピースを脱いで下着姿になり、グリフォンと一緒にベッドへ潜り込んだ。

「おやすみ……グリフォン?」
「お好きなように。おやすみなさいませ、愛し子様」

 おやすみ、と言い合えるなんて両親が死んでから初めてだ。
 胸が温まるのを感じつつも、アガタは今更だが引っかかったことを口にした。

「……名前で呼んでくれる? あなたの名前は、起きたらちゃんと考えるから」

 そんなアガタの言葉に、パチリと金色の目をまん丸くすると――次いで、グリフォンはその瞳を笑みに細めた。

「かしこまりました、アガタ様」
「うん」

 その笑顔と言葉につられ、アガタは丸い頬を緩めて頷いた。
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