リバース!

渡里あずま

文字の大きさ
60 / 73
リバース!2

確かに、魔力はあるけれど1

しおりを挟む
 魔法、と聞いて浮かぶものの一つに『転移』があると思う。
 始点と終点、二点間の空間を一瞬で飛び越えて移動する。これはテルスの魔法の中にもあって、デメリットとしては術者の行ったところにしか飛べないことだ――普通なら。

(魔法自体が、イメージが実現するものだからな。知らない場所に行くって、イメージし難いよな)

 普通なら、と注釈がつくのは俺と椿もガキの頃に試したからだ。
 まずは近場でってことで、神社に上がっていく階段の下から、椿のいるいつもの木の根元まで。距離としては、百メートルくらいだろうか?

(あの場所を、引き寄せて……飛び込んで……)

 一応、左右に人がいないことを確かめてから目を閉じ、頭の中でイメージをして、えいやっと体を傾けて。すぐに「おい」と目の前の椿に声をかけられて、成功したと解ったが。
 ……次の瞬間、俺は血の気が引く感覚と吐き気に耐えられず、その場にしゃがみ込んだ。
 最悪、吐くのは免れたがその後も、距離や体調に関係なく『転移』酔いは克服出来なかった。同じ距離でも、風で跳躍した状態だと全く問題ないのにだ。

「乗り物酔いの原因は、平衡感覚情報のずれらしいが……お前のコレにも、当てはまるのかもな」
「平衡感覚情報……?」
「つまり体の認識と、目から入ってくる状況とのズレだな。浮遊だとそれが一致しているが、転移だとどうしてもズレてしまう」

 椿の説明に、なるほどと思う。
 後でポモナに聞いてみると、転移は高度な魔法で(確かに義父さんは使えたが、ギルドでも使える人間は限られていた)発動しないことはあるらしいが、体調を崩すのは珍しいそうだ。
 ……もしかしたら、とその時、俺は思った。
 俺の魔力は、ポモナが与えてくれた『借り物』だ。だから、こういう形で拒否反応が出てしまうんじゃないかって。
 長くなったが、そんなこともあって俺は自分の魔力についてあまり信じていなかった。暴走させない、コントロールすることしか考えていなかった。
 そんな俺の魔力を、俺ごと信じてくれたのが椿で――だから俺も、椿を信じるように俺の魔力を信じようって思ったんだが。

「……っし!」

 かけ声と共に、風をまとわせた右足で、俺は部屋のドアを蹴り飛ばした。

「なかなか派手だが、ここは転移を使ってトラウマ解消の流れじゃないのか?」
「だから、心を読むなって……一人ならともかくお前がいるし、どうせ素直に帰して貰えねぇだろうから、ゲロってられねぇだろうが」
「そうよ、帰さないんだからねっ」

 廊下に出て、階段を降りようとした俺達に、背後から声がかけられる。
 それに振り返りながら、椿の前に飛び出すと――刹那、突風が叩きつけられて俺の髪や制服のスカートを翻した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...