100 / 113
第二章
それぞれの前進
しおりを挟む
新入生歓迎会の後、アリアは自分を好きになってくれた女生徒達に頭を下げたそうだ。
「申し訳ない……今まで、皆の恋を応援するつもりだった。好きになって貰えたから、出来る限り応えたいと思っていたけれど……エドガー様が、好きなんだ」
だからこれ以上、男装は続けられない。そう言って、アリアはもう一度「申し訳ない」と言ったそうだ。そして確かに『男性として』アリアに憧れていた者達は離れたが、大部分はアリアの恋を見守り応援するようになったらしい。
……以上、エマからの情報である。
クラスメイト達から聞いたと言うが、仮にも王太子妃にそういう話をするのかちょっと疑問だ。とは言え、その翌日からアリアは女子用の制服を着て登校するようになったので、噂になると言えばなるかもしれない。
(元々、中性的な顔立ちだから男装すれば美少年に、女装……は、女性に失礼か。普通に制服を着たら、美少女になるのよね)
髪型こそ男装の時と同じ高く一つに結い上げているが、今はそこに脳筋の色である赤いリボンが結ばれている。そしてアリアは脳筋に会うと、自分から挨拶するようになっていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「朝練、お疲れ様です……それでは、ごきげんよう」
「ああ、じゃあな。グラン嬢」
とは言え、殿下に言われて女生徒達に優しくしていたが、基本、脳筋なので会話を自分から膨らませたり名前を覚えたりはしない。そこで頑張れず遠巻きに見守られることが多いので結果、アリアは脳筋に認識されるようになっている。
(アリアの粘り勝ちね)
出勤の時に見かけた、アリアと脳筋の様子を眺めながら、私はそう結論付けた。
そして今日の寄り添いを終えた後、いつものようにラウルさんと向き合って馬車に乗ると――いつもと違って、ラウルさんの方から話しかけてきた。
「聖女様。新入生歓迎会、お疲れ様。頑張ったな」
「あ、ありがとうございます」
「遅くなって、申し訳ない……あの後、考えたんだが」
確かにあれから一週間くらい経っているが、全く気にならない。労いの言葉が嬉しくてドキドキしていると、ラウルさんが一旦、言葉を切った。
何を言われるのかと別の意味でドキドキしていると、ラウルさんが言葉を続けた。
「今回のように、聞くだけなら出来るから……何かあれば、これからも俺に話してくれ」
「ラウルさん……」
「勿論、言い難いことを無理にとは言わない。ただ今回のように、話すだけで楽になったり、整理出来たりするだろう?」
「それは……でも、ラウルさんにご迷惑じゃ……」
嬉しい。だが私の話を聞く立場になったら、それこそラウルさんの話は誰が聞くのか。前世などの話を、おいそれと人に話すと思えないので、ラウルさんの負担が大きい気がする。
躊躇する私の目を真っ直ぐに見つめて、ラウルさんが口を開いた。
「俺は、聖女様に会うまでは神兵……いや、神と修道院の為の剣でしかなかった」
「……ラウルさん」
「それが、あなたの生活魔法のおかげで『人間』になれたんだ」
「それは……だから、私のと言うより前世の知識でっ」
「知識もある意味、剣だ。使い方次第で凶器に変わるが……あなたは、その知識で俺を救ってくれた。俺にとっては、それが事実で真実だ」
「…………」
クロエ様から聞いてはいたが、どうやら私がしたことはラウルさんにとって、とても大きなことだったらしい。
何と言っていいか解らず、黙ってしまった私にラウルさんが続ける。
「もし『私ばかり』と思うのなら、俺も何かあれば聖女様に相談する。それなら公平で、対等じゃないか?」
「えっ……と」
「俺は生涯、あなたを守る。だからあなたも、どうか俺を導いてくれ」
「……っ!」
ラウルさんの言葉に、カッと頬に血が集まったのを感じた――ラウルさんはそこまで考えていないかもしれないが、今の言葉はまるで。
(生涯って……それもう、プロポーズっ!)
(カナさん、おめでとう!)
(あ、ありがとう、イザベル……)
脳内で思わず絶叫した私に、現世の私(イザベル)が弾んだ声で言う。
それにお礼を返しながら、私も真っ直にラウルさんの目を見返して言った。
「かしこまりました……これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
完治しない人見知りと緊張のあまり、目が潤んでしまったが――そんな私を安心させるように、ふ、とラウルさんは深い緑色の目元を緩めて、頷いてくれたのだった。
※
第二章完結しました。
番外編や続きを書くかもですが、時期が未定ですので完結とします。ここまでのお付き合い、本当にありがとうございます!
「申し訳ない……今まで、皆の恋を応援するつもりだった。好きになって貰えたから、出来る限り応えたいと思っていたけれど……エドガー様が、好きなんだ」
だからこれ以上、男装は続けられない。そう言って、アリアはもう一度「申し訳ない」と言ったそうだ。そして確かに『男性として』アリアに憧れていた者達は離れたが、大部分はアリアの恋を見守り応援するようになったらしい。
……以上、エマからの情報である。
クラスメイト達から聞いたと言うが、仮にも王太子妃にそういう話をするのかちょっと疑問だ。とは言え、その翌日からアリアは女子用の制服を着て登校するようになったので、噂になると言えばなるかもしれない。
(元々、中性的な顔立ちだから男装すれば美少年に、女装……は、女性に失礼か。普通に制服を着たら、美少女になるのよね)
髪型こそ男装の時と同じ高く一つに結い上げているが、今はそこに脳筋の色である赤いリボンが結ばれている。そしてアリアは脳筋に会うと、自分から挨拶するようになっていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「朝練、お疲れ様です……それでは、ごきげんよう」
「ああ、じゃあな。グラン嬢」
とは言え、殿下に言われて女生徒達に優しくしていたが、基本、脳筋なので会話を自分から膨らませたり名前を覚えたりはしない。そこで頑張れず遠巻きに見守られることが多いので結果、アリアは脳筋に認識されるようになっている。
(アリアの粘り勝ちね)
出勤の時に見かけた、アリアと脳筋の様子を眺めながら、私はそう結論付けた。
そして今日の寄り添いを終えた後、いつものようにラウルさんと向き合って馬車に乗ると――いつもと違って、ラウルさんの方から話しかけてきた。
「聖女様。新入生歓迎会、お疲れ様。頑張ったな」
「あ、ありがとうございます」
「遅くなって、申し訳ない……あの後、考えたんだが」
確かにあれから一週間くらい経っているが、全く気にならない。労いの言葉が嬉しくてドキドキしていると、ラウルさんが一旦、言葉を切った。
何を言われるのかと別の意味でドキドキしていると、ラウルさんが言葉を続けた。
「今回のように、聞くだけなら出来るから……何かあれば、これからも俺に話してくれ」
「ラウルさん……」
「勿論、言い難いことを無理にとは言わない。ただ今回のように、話すだけで楽になったり、整理出来たりするだろう?」
「それは……でも、ラウルさんにご迷惑じゃ……」
嬉しい。だが私の話を聞く立場になったら、それこそラウルさんの話は誰が聞くのか。前世などの話を、おいそれと人に話すと思えないので、ラウルさんの負担が大きい気がする。
躊躇する私の目を真っ直ぐに見つめて、ラウルさんが口を開いた。
「俺は、聖女様に会うまでは神兵……いや、神と修道院の為の剣でしかなかった」
「……ラウルさん」
「それが、あなたの生活魔法のおかげで『人間』になれたんだ」
「それは……だから、私のと言うより前世の知識でっ」
「知識もある意味、剣だ。使い方次第で凶器に変わるが……あなたは、その知識で俺を救ってくれた。俺にとっては、それが事実で真実だ」
「…………」
クロエ様から聞いてはいたが、どうやら私がしたことはラウルさんにとって、とても大きなことだったらしい。
何と言っていいか解らず、黙ってしまった私にラウルさんが続ける。
「もし『私ばかり』と思うのなら、俺も何かあれば聖女様に相談する。それなら公平で、対等じゃないか?」
「えっ……と」
「俺は生涯、あなたを守る。だからあなたも、どうか俺を導いてくれ」
「……っ!」
ラウルさんの言葉に、カッと頬に血が集まったのを感じた――ラウルさんはそこまで考えていないかもしれないが、今の言葉はまるで。
(生涯って……それもう、プロポーズっ!)
(カナさん、おめでとう!)
(あ、ありがとう、イザベル……)
脳内で思わず絶叫した私に、現世の私(イザベル)が弾んだ声で言う。
それにお礼を返しながら、私も真っ直にラウルさんの目を見返して言った。
「かしこまりました……これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
完治しない人見知りと緊張のあまり、目が潤んでしまったが――そんな私を安心させるように、ふ、とラウルさんは深い緑色の目元を緩めて、頷いてくれたのだった。
※
第二章完結しました。
番外編や続きを書くかもですが、時期が未定ですので完結とします。ここまでのお付き合い、本当にありがとうございます!
50
あなたにおすすめの小説
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜
水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。
そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。
母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。
家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。
そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。
淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。
そんな不遇な少女に転生した。
レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。
目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。
前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。
上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎
更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる