主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま

文字の大きさ
4 / 24

先立つものを手に入れる

しおりを挟む
 座っていた切り株から立ち上がり、舞は城下町らしき建物と人の中に向かっていった。
 黒髪は他にもいるが、舞のような格好(ロングTシャツにスキニー)をしている女性はいない。こんな言い方になるのは、男性だと似たような格好をしている者がいるからだ。

(黒髪は他にもいるみたいだけど、女性のズボン姿は皆無か……早く着替えた方が良いけど、その前にまずお金ね)

 通行人の言葉は解るし、看板などの文字は読める。
 とりあえず、悪目立ちしないように少し早足で目的地を目指して歩き出し――舞が辿り着いたのは、教会だった。そして黒い神父服っぽい格好の男性に、声をかけた。

「あの、すみません。外国から仕事を探しに来たのですが、財布を盗まれてしまって……質屋を探しているんですが」

 昔、舞の祖父母が質屋をしていた。亡くなると同時に店を閉じたが年に一度、会いに行った時に「外国では昔、教会が庶民救済の為に利益目的ではない質屋をやっていた」と聞いたことがある。
 異世界事情は解らないが、あればラッキー。駄目でも、仮にも聖職者なら質屋の場所くらいは教えて貰えるだろう。
 そう思い、恐縮した風を装って目を伏せると痩せた体を黒の長衣に包んだ男は慌てて言った。

「それは大変でしたね。幸い、教会ここで質屋をやっているのでよろしければ……」
「よっし!」
「え?」
「いえ、ありがとうございます」

 狙い通りの言葉を引き出せたことに、舞は思わず拳を握って声を上げた。
 そして誤魔化すようににっこり笑って見せると、舞は男に促されて礼拝堂の、質屋をやっている一角へとついていった。

(おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう)

 舞が売ろうとしているのは、ピアスとネックレスだ。どちらも純金製で、OL時代に給料を貯めて買ったものである。デザインが気に入っていて、工が赤ん坊の時以外はつけていたが――純金にしたのは、祖父母から「金なら値引きはされても確実に売れる」と言われていたからだ。異世界は想定していなかったが万が一、旅行先などで盗難被害にあった時、少しでも足しになればと思っていたので手放すことに躊躇はない。

「あまり大変なら、国に帰ることも視野に入れるので……ご迷惑でなければ、買い取って頂けませんか? あと、図々しいんですがこの格好だと目立つので、安く服を手に入れられる場所も教えて貰えれば……」
「よろしいですよ。あと服は、質草でしたが引き取りに来られなかった古着がありますので、それで良ければ」
「ありがとうございます!」

 神様仏様神父様ありがとう。
 舞が心の中で拝み倒していると、ここに来てあまり聞き慣れない単語が出てきた。

「仕事を探しているのなら、冒険者ギルドに行くと良いですよ」
「……ぼうけんしゃ、ぎるど?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された巫女は異世界と引き換えに日本に帰還する

白雪の雫
ファンタジー
何となく思い付いた話なので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合展開です。 聖女として召喚された巫女にして退魔師なヒロインが、今回の召喚に関わった人間を除いた命を使って元の世界へと戻る話です。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

現実的な異世界召喚聖女

章槻雅希
ファンタジー
 高天原の神々は怒っていた。理不尽な異世界召喚に日ノ本の民が巻き込まれることに。そこで神々は怒りの鉄槌を異世界に下すことにした。  神々に選ばれた広瀬美琴54歳は17歳に若返り、異世界に召喚される。そして彼女は現代日本の職業倫理と雇用契約に基づき、王家と神殿への要求を突きつけるのだった。

婚約破棄された聖女様たちは、それぞれ自由と幸せを掴む

青の雀
ファンタジー
捨て子だったキャサリンは、孤児院に育てられたが、5歳の頃洗礼を受けた際に聖女認定されてしまう。 12歳の時、公爵家に養女に出され、王太子殿下の婚約者に治まるが、平民で孤児であったため毛嫌いされ、王太子は禁忌の聖女召喚を行ってしまう。 邪魔になったキャサリンは、偽聖女の汚名を着せられ、処刑される寸前、転移魔法と浮遊魔法を使い、逃げ出してしまう。 、

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

処理中です...