愛とか恋とかストーカーとか

なかあたま

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愛とか恋とかストーカーとか

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 部屋中にあるゴミを袋へ捩じ込む。口を固く結び、取っ手を掴んだ僕は急いで玄関へ向かった。
 扉に耳を押し付け、呼吸を鎮める。鍵が開いた音を確認すると同時に、玄関先に放置してあるスリッパに足を通す。
 ドアノブへ手を掛け、回す。勢いよくドアを開け、廊下へ飛び出た。

「あ」
「っ、お、おはようございます」

 ちょうど自宅前の廊下にいた隣人────前島さんとぶつかりそうになり、僕は仰け反る。
 ゴミ袋を持った前島さんはいつも通りの綺麗な笑みを浮かべたまま、僕の挨拶に、同じ言葉を返した。

「おはようございます。大丈夫ですよ、真辺くん。まだ、収集車は来てません」

 シワひとつないスーツに、艶やかな靴。少し年季の入ったビジネスバッグ。短く切り揃えられた黒髪は、彼の清潔感と誠実さを表している。
 仄かに香る香水の匂いが、眠気の残った脳を刺激する。
 柑橘系のそれを肺いっぱいに吸い込み、彼に会釈をする。

「まだ、来てませんか。良かったです」

 えへへ、と媚びるように笑い後頭部を掻く。前島さんの後を追い、廊下を歩んだ。
 後ろから彼の頭部を眺める。形の良いそこに触れたくなり、踏みとどまった。
 ふと、自分の臭いが気になり服を摘んで確認した。ヨレヨレのTシャツとスウェットで出てきたが、ちょっとだらしない格好かもしれない。
 そんなことを考えながら、階段を降りる。彼の持つゴミ袋へ視線が向かう。
 いけないと分かっているのに、半透明の袋越しに見える日用品の名前が、脳に焼き付いた。
 シャンプーはあのメーカーのものを使っているのか。意外と、冷凍食品も食べるのか。
 そんな不埒なことを考えてしまい、僕は頭を振った。
 マンション敷地内に設置されたゴミ捨て場は、天井にカラス避けのネットが張られた小屋だ。
 扉を開け、前島さんが中へ入る。中から生臭い匂いが漏れ、思わず顔を顰めた。

「はい」

 不意に、前島さんが手を伸ばす。ゴミ袋を渡せとジェスチャーした。
 僕は首を横に振り、彼を拒む。

「いえ、いえ。あの、大丈夫ですから」
「あはは、そこに放り投げるだけですし。ほら、渡して?」

 白い歯を見せ笑う彼に、体が火照る。
 これがゴミ置き場でなければ。持っているものがゴミ袋でなければ。とてもロマンティックなのに。
 僕は乙女のようなことを考えながら、彼にゴミ袋を渡した。受け取った前島さんは、そのままゴミ置き場へ袋を投げ扉を閉めた。

「あの、ありがとうございます」
「いえいえ。では、行ってきますね」

 彼が手を振り、去っていく。
 彼の後ろ姿を見送り、数秒遅れて僕も手を振り返した。
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