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愛とか恋とかストーカーとか
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◇
僕は惚れやすい。そして、その好意は少し歪んだ形で表に出る。
相手のことを、極端に知りたがってしまう────まぁ、俗に言うアレだ。ストーカー気質ってやつだ。
けれど、僕は世に蔓延るストーカーたちとは違う。少なくとも、相手に危害を加えたいとは思っていない。
なるべく自分の中で線引きをして、深く足を突っ込まないようにと自制しているのだ。
「でも、結局さ。他人から見たら他のストーカーとあんまり変わりねぇよ」
友人である飯田にそう言われ、僕は何も言い返せなかった。飯田は手元にあるコンビニで買ったサンドイッチを喰みながら、暑いなぁと呟き空を見上げる。ベンチに腰を下ろし、燦々と降り注ぐ太陽光に目を細めた彼は言葉を続ける。
「で? 前は結城加子をストーカーしてたよな」
「ストーカーはしてない。ちょっと、仕事先に行ったりしただけだ」
唇を尖らせ、飯田に反論する。彼は肩を竦めた。
「それをストーカーって言うんだよ」
「……みんな、好きになった人のことは知りたいでしょう」
「そりゃな。でも、大抵は踏みとどまるんだよ。良心が働いてな。それにお前と結城加子は赤の他人だろ。電車ですれ違うだけの関係性。そんな薄い間柄の男が職場にまで来たら、そりゃもうホラーだろ」
ごもっともだ。僕は何も言い返せない。
────結城加子。大学へ通う電車内でたまたま見かけた、社会人の女性だ。美しいスーツの着こなし、一つの乱れもない凛々しいポニーテールが特徴的だった。
それらの全てが、彼女の誠実な性格を如実に物語っていた。
通学時、彼女を見かけるたびに視線で追い、時には近くに乗ったりもした。(勿論、体などには触れていない。当たり前だ。卑劣な行為は言語道断だ)
そんな彼女の後を追い、会社にまで付いて行ったことがある。街中にある背の高いビルへ吸い込まれていった彼女は、大企業に勤めている────らしい。(なぜ、らしいと濁すのかというと、正直なところ、企業の名前を知らなかった。業界では有名でも、世間的には無名な会社だったのだと思う)
僕がなぜ彼女の名前を知っているのかというと理由は簡単。
彼女に接触したことがあるからだ。近くのカフェで一時的に働いていたことがある。
その時に彼女が訪れたのだ。
……意図的に働いていたことは事実だが、無理に接触して名前を聞き出したり、交際を迫ったりしようなどと思っていたわけではない。
単純に……そう、単純に、彼女の近くで働きたかったのだ。
それに、会社の近くにあるカフェで働いたからといって、彼女が訪れる確率は低い。
彼女がバイト先に来たのは、たまたまだ。
そう、たまたま。
だから、僕はストーカーではない。
話を戻そう。僕は会計時に彼女の首からぶら下がっている社員証を見たのだ。
結城加子。一瞬目にしたその名前を脳裏に焼き付け、僕は心の中で何度も繰り返した。
我ながら気持ち悪いとは思うが、それだけで僕は満足していた。
彼女の名を知れただけで、遠くから見るだけで、満足していた。
それ以上の接触を、僕は避けた。避けなければ、彼女に恐怖心を植え付けると思ったからだ。
それから数ヶ月後、彼女は僕の前から姿を消した。察するに、退職か寿退社。移動にでもなったのだろう。
それか、僕のような異常者に気がついて身の危険を案じ、乗る電車や訪れる場所を変えたか。
僕にとって、理由はどうでも良かった。
彼女がこの国のどこかで平和に暮らしてくれていたら、それで。
「で、今は隣人のおっさんをストーキングしてるって話か」
「前島さんはおっさんじゃないよ」
「はいはい」
「お前、男でも女でもどっちでもいいんだな」と飯田に言われ、浅く頷く。
僕はどうやら、どっちでもいけるみたいだ。
それは前島さんに惚れた時に初めて知った。今まで対象は女性ばかりだったけど、僕は両方好きらしい。
その情報を得ても、嫌な顔ひとつせず“ストーカー行為”だけを気持ち悪がる飯田はやっぱり良い奴だと思う。
「まぁ、通報されない程度にしとけよ。あとさ、今度お前の家に行ってもいい?」
「いいけど、なんで?」
「そのおっさんの顔を見てみたい」
「だから、前島さんはおっさんじゃないって」
「ハイハイ」と鬱陶しそうに肩を竦めた飯田を睨み、手に持っていたおにぎりを食んだ。
僕は惚れやすい。そして、その好意は少し歪んだ形で表に出る。
相手のことを、極端に知りたがってしまう────まぁ、俗に言うアレだ。ストーカー気質ってやつだ。
けれど、僕は世に蔓延るストーカーたちとは違う。少なくとも、相手に危害を加えたいとは思っていない。
なるべく自分の中で線引きをして、深く足を突っ込まないようにと自制しているのだ。
「でも、結局さ。他人から見たら他のストーカーとあんまり変わりねぇよ」
友人である飯田にそう言われ、僕は何も言い返せなかった。飯田は手元にあるコンビニで買ったサンドイッチを喰みながら、暑いなぁと呟き空を見上げる。ベンチに腰を下ろし、燦々と降り注ぐ太陽光に目を細めた彼は言葉を続ける。
「で? 前は結城加子をストーカーしてたよな」
「ストーカーはしてない。ちょっと、仕事先に行ったりしただけだ」
唇を尖らせ、飯田に反論する。彼は肩を竦めた。
「それをストーカーって言うんだよ」
「……みんな、好きになった人のことは知りたいでしょう」
「そりゃな。でも、大抵は踏みとどまるんだよ。良心が働いてな。それにお前と結城加子は赤の他人だろ。電車ですれ違うだけの関係性。そんな薄い間柄の男が職場にまで来たら、そりゃもうホラーだろ」
ごもっともだ。僕は何も言い返せない。
────結城加子。大学へ通う電車内でたまたま見かけた、社会人の女性だ。美しいスーツの着こなし、一つの乱れもない凛々しいポニーテールが特徴的だった。
それらの全てが、彼女の誠実な性格を如実に物語っていた。
通学時、彼女を見かけるたびに視線で追い、時には近くに乗ったりもした。(勿論、体などには触れていない。当たり前だ。卑劣な行為は言語道断だ)
そんな彼女の後を追い、会社にまで付いて行ったことがある。街中にある背の高いビルへ吸い込まれていった彼女は、大企業に勤めている────らしい。(なぜ、らしいと濁すのかというと、正直なところ、企業の名前を知らなかった。業界では有名でも、世間的には無名な会社だったのだと思う)
僕がなぜ彼女の名前を知っているのかというと理由は簡単。
彼女に接触したことがあるからだ。近くのカフェで一時的に働いていたことがある。
その時に彼女が訪れたのだ。
……意図的に働いていたことは事実だが、無理に接触して名前を聞き出したり、交際を迫ったりしようなどと思っていたわけではない。
単純に……そう、単純に、彼女の近くで働きたかったのだ。
それに、会社の近くにあるカフェで働いたからといって、彼女が訪れる確率は低い。
彼女がバイト先に来たのは、たまたまだ。
そう、たまたま。
だから、僕はストーカーではない。
話を戻そう。僕は会計時に彼女の首からぶら下がっている社員証を見たのだ。
結城加子。一瞬目にしたその名前を脳裏に焼き付け、僕は心の中で何度も繰り返した。
我ながら気持ち悪いとは思うが、それだけで僕は満足していた。
彼女の名を知れただけで、遠くから見るだけで、満足していた。
それ以上の接触を、僕は避けた。避けなければ、彼女に恐怖心を植え付けると思ったからだ。
それから数ヶ月後、彼女は僕の前から姿を消した。察するに、退職か寿退社。移動にでもなったのだろう。
それか、僕のような異常者に気がついて身の危険を案じ、乗る電車や訪れる場所を変えたか。
僕にとって、理由はどうでも良かった。
彼女がこの国のどこかで平和に暮らしてくれていたら、それで。
「で、今は隣人のおっさんをストーキングしてるって話か」
「前島さんはおっさんじゃないよ」
「はいはい」
「お前、男でも女でもどっちでもいいんだな」と飯田に言われ、浅く頷く。
僕はどうやら、どっちでもいけるみたいだ。
それは前島さんに惚れた時に初めて知った。今まで対象は女性ばかりだったけど、僕は両方好きらしい。
その情報を得ても、嫌な顔ひとつせず“ストーカー行為”だけを気持ち悪がる飯田はやっぱり良い奴だと思う。
「まぁ、通報されない程度にしとけよ。あとさ、今度お前の家に行ってもいい?」
「いいけど、なんで?」
「そのおっさんの顔を見てみたい」
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