愛とか恋とかストーカーとか

なかあたま

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愛とか恋とかストーカーとか

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「二十一時を回ったけど、まだ?」
「……まだ、みたいだね」

 ゲームに飽きた飯田が、デリバリーで頼んだピザの空き箱を指先で弄りながら僕を見つめた。
 前島さんが帰宅した頃合いを見計らい、姿を確認しようとしているらしい。飯田は欠伸を繰り返していた。

「時々、帰りが遅くなる時はあるけど……もしかしたら今日は帰らないのかも」
「えぇー。なんだよ、期待させといてー」

 窓の外はもうすっかり闇に包まれている。今まで彼の帰宅を監視(この言い方は遺憾だが、他に適切な言葉が見つからない)をしてきて、帰りが遅くなることはあった。
 けれど、ここまで時間がずれたことはまずない。彼は規則正しく出勤し、規則正しく帰宅する。まるでロボットのような人間なのだ。
 ────もしかして、恋人の家に行ってるとか……。

「もしかして、恋人の家にでも行ってるんじゃね?」

 同じことを考えていた飯田が口走る。言葉にされると絶望感が半端ではない。僕は肩を落とし、項垂れた。
 そうだ。あれだけ素敵な男性なのだ。恋人がいて当然だ。むしろ、いない方がおかしい。
 落胆している僕の肩を、飯田が強く叩く。

「げ、元気出せよ。どうせ、おっさんなんかストーカーしても実らないって。次に行こうぜ、次に」

 明るい声を上げた飯田が帰宅の準備をし始める。と、同時に聞き慣れた革靴の音が耳に届いた。
 僕はすかさず立ち上がり、飯田へ早く身支度をするように促す。

「え、何も聞こえなかったけど……」
「いいから、早く」

 彼の手を掴み、急いで玄関へ向かう。鍵を取り出す音、鍵穴へ挿入する音を確認し、勢いよく廊下へ飛び出た。

「こ、こんばんは」
「こんばんは、真辺くん。おや、隣の子はお友達かな?」

 廊下の蛍光灯の下、前島さんが清らかな笑みを浮かべる。そのまま、隣で硬直していた飯田を横目にチラリと見た。

「彼は飯田です。同じ大学に通ってる友達で……」
「へぇ。前島です、こんばんは」
「こ、こんばんは……」

 目元を緩めた前島さんに見惚れつつ、会釈をしてその場を去る。廊下を歩み、階段を降りるまで飯田は何も言わなかった。
 マンション前の道路へ出た途端、飯田がこちらへ振り返る。

「……駅まで送ろっか?」
「全然おっさんじゃねぇじゃん。なんか、いいところのコンシェルジュみてぇ」

 その例えが上手いか上手くないかと言われたら、首を捻るところだ。人の感性はそれぞれだからなんとも言い難い。
 ただ、前島さんのイメージを払拭できて光栄だ。僕は鼻を高くして笑う。

「でしょう?」

 「いやーなんかもっと面白い感じのおっさんかと思ってたのに拍子抜けだよ、つまんねぇ」と、肩を竦める飯田を睨む。

「でもなんか、ああいう人がこんなマンションに住んでるの意外じゃね?」
「え?」
「だってここ、内装は綺麗だけど外装はお世辞にも綺麗だとは言えないし、オートロックとかでもないだろ? なんか、ああいう出来る大人が住むにはちょっと見窄らしいというか」
「……別に、誰がどこに住んでてもいいだろ。それに、人の家を見窄らしいなんていうなよ」
「そうだな。人の家のレベルを気にするのは下品だよな」

 ヘラヘラと笑う彼の頬が、電柱の光に照らされる。群がっている蟲が羽音を立てた。その音がやけに大きく聞こえる。道路を歩む度に、飯田のスニーカーが擦れた。
 ────確かにその通りだ。
 僕は前々から抱いていた疑問を飯田に言い当てられ、少し驚いていた。
 前島さんは、察するに良い会社に勤めている。身なりも綺麗だし、乗っている車もそれなりに高級な部類のものだ。
 パッと見、このマンションには不釣り合いな人物に見える。
 けれど、考えすぎだ。きっと、住処に執着がないタイプの人間なのだろう。僕はそう言い聞かせ、モヤモヤを解消した。

「……意外と貢ぎ癖があったり、ギャンブル依存症だったりするんだぜ。あぁいう外見がいい男は」

 ボソリと意地悪げに呟く飯田の横腹を、肘で強く突いた。
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