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愛とか恋とかストーカーとか
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◇
「で、そのお土産は?」
「昨日、全部食べた」
「ふざけんなよなぁ~!」。飯田がはちきれんばかりの声を上げる。
僕は彼を無視し、講義室のテーブルに肘を突く。
「美味しかったよ。フィナンシェっていうの? ご当地のキャラを模った焼き菓子だった。バターの芳醇な香りが強くて、仄かにアーモンドの風味もしてさ。八個入りだったんだけど、一瞬でなくなったよ」
「わざわざ詳細を俺に伝えんな」
頬を膨らませる飯田は、言っちゃ悪いが可愛くもない。
肩を竦めた僕に、彼はため息を漏らす。
「まぁ、いいや。でもさ、あんまり親しくもない隣人に出張土産を買ってくるような人が、大学時代に友達が少なかったなんて意外だな」
「だよねぇ。なんかミステリアスな人だなぁ」
「いいように言い換えるなよ。どうせあれだよ。エグい性癖とかあって、大学の女に手当たり次第ちょっかい出してたから仲間から嫌われたんだよ」
「なんだその妄想」。僕は吐き捨てるようにそう言った。
「あとは、そうだなぁ……お前に興味があって何か情報を聞き出そうとしてた、とか?」
「僕に興味? なんで?」
「知らん。でも、お前と俺の関係性を聞いてきたんだろ? っていうことは、何か知りたいことでもあったんじゃね。あ、俺とお前がデキてると思って、野次馬感覚で聞いてきたとか?」
「気持ち悪い。僕とお前がデキてるなんて想像もしたくない」。唇を曲げて抗議すると、飯田が「俺だってヤダよ」と舌を出して、吐くような仕草を見せた。
「……しかし、なんか引っかかるんだよな。お前の隣人。言い表せないけど、なんか変な感じがする」
飯田が真面目な声音でそう呟く。僕は彼を横目で見つつ、ため息を吐き出した。
「そんなこと言い出せば、僕なんてもっと「変な感じ」じゃん。ストーカーまがいのことをしてるんだし」
「……まぁ、それもそうか」
「そうだ。お土産の返し、何が良いか考えてよ」
「その辺の草でいいだろ」。適当に答えた飯田の頭を、手のひらで叩いた。
◇
僕は胸をドキドキと高鳴らせながら、前島さんの家の前に立っていた。
彼がすでに帰宅していることは把握済みである。
僕はチャイムへ手を伸ばしては、引っ込めるという行為を繰り返していた。
────あのあと、僕は飯田と悩みに悩んだ。同様の菓子類はどうだろうか、と言う僕の提案に飯田は「だめだ。ああ言う大人は甘いものが苦手だと思うから避けた方が良い」と遮った。
まぁ、確かにそんなイメージはある。僕は彼の意見に頷いた。
では、ネクタイなど身につけるものはどうだろうかと提案する。
僕のプレゼントしたものを身につけ、会社へ向かう前島さんを想像し、ニヤけてしまった。
が、それも却下された。理由はシンプル。身につけるモノは拘りだったり趣味があったりする。故に、渡したところでゴミ箱行きの可能性もある。
そんな僕らの導き出した結論は────。
「お礼だけで本当にいいのかな……」
飯田曰く、俺たちのような学生にお返しを期待する社会人はいない。だからこそ、心のこもったお礼の方が喜ばれる────だそうだ。
まぁ、一理ある。見返りを求めるために、前島さんは僕に土産を渡したわけではない。(と思う)
「精一杯、お礼を言われて嫌な思いするやつなんていないだろ」。飯田が語っていた言葉を思い出し、深呼吸を繰り返す。
チャイムを押し、前島さんが出てくるのを待つ。背中に汗が滲み、それが伝うのを感じながら高鳴る鼓動を収めるため、拳を握りしめた。
「おや、こんばんは」
数秒間を置き、ドアが開く。目の前に現れた前島さんが、驚いたように目を見開いていた。
「真辺くん。どうしたんですか?」
「あ、あの、あの。き、昨日は、その……お土産ありがとうございました。すごく美味しかったです」
前島さんはネクタイを外し、襟のボタンを緩めた格好をしている。昨日の格好も刺激的だったが、今の格好も僕の脳を破壊するには十分過ぎるほど刺激が強かった。
僕は礼を言い終えると、深々と頭を下げた。それを阻止するように前島さんが手を伸ばす。
肩に触れた手のひらが熱くて、思わず声を上げそうになってしまった。
「気を遣わせてしまったみたいで、申し訳ないな……でも、お口に合ったようで何よりです」
彼が口角をあげ、穏やかに微笑んでいる。僕は音を立てて唾液を嚥下し、言葉を続けた。
「そ、それで、その。お返しの品を渡したかったんですが……何が良いか分からず……」
「いいの、いいの。喜んでもらえただけで、十分ですよ」
「すみません、いただいたのにお礼だけで済ませてしまって」
「気にしないで────あ、そういえば」
前島さんが思い出したかのようにパッと顔を上げた。やがて申し訳なさそうな顔になり、眉を八の字にする。
「……お礼の代わりと言ってはなんだけど、ちょっと手伝ってもらえないかな?」
「で、そのお土産は?」
「昨日、全部食べた」
「ふざけんなよなぁ~!」。飯田がはちきれんばかりの声を上げる。
僕は彼を無視し、講義室のテーブルに肘を突く。
「美味しかったよ。フィナンシェっていうの? ご当地のキャラを模った焼き菓子だった。バターの芳醇な香りが強くて、仄かにアーモンドの風味もしてさ。八個入りだったんだけど、一瞬でなくなったよ」
「わざわざ詳細を俺に伝えんな」
頬を膨らませる飯田は、言っちゃ悪いが可愛くもない。
肩を竦めた僕に、彼はため息を漏らす。
「まぁ、いいや。でもさ、あんまり親しくもない隣人に出張土産を買ってくるような人が、大学時代に友達が少なかったなんて意外だな」
「だよねぇ。なんかミステリアスな人だなぁ」
「いいように言い換えるなよ。どうせあれだよ。エグい性癖とかあって、大学の女に手当たり次第ちょっかい出してたから仲間から嫌われたんだよ」
「なんだその妄想」。僕は吐き捨てるようにそう言った。
「あとは、そうだなぁ……お前に興味があって何か情報を聞き出そうとしてた、とか?」
「僕に興味? なんで?」
「知らん。でも、お前と俺の関係性を聞いてきたんだろ? っていうことは、何か知りたいことでもあったんじゃね。あ、俺とお前がデキてると思って、野次馬感覚で聞いてきたとか?」
「気持ち悪い。僕とお前がデキてるなんて想像もしたくない」。唇を曲げて抗議すると、飯田が「俺だってヤダよ」と舌を出して、吐くような仕草を見せた。
「……しかし、なんか引っかかるんだよな。お前の隣人。言い表せないけど、なんか変な感じがする」
飯田が真面目な声音でそう呟く。僕は彼を横目で見つつ、ため息を吐き出した。
「そんなこと言い出せば、僕なんてもっと「変な感じ」じゃん。ストーカーまがいのことをしてるんだし」
「……まぁ、それもそうか」
「そうだ。お土産の返し、何が良いか考えてよ」
「その辺の草でいいだろ」。適当に答えた飯田の頭を、手のひらで叩いた。
◇
僕は胸をドキドキと高鳴らせながら、前島さんの家の前に立っていた。
彼がすでに帰宅していることは把握済みである。
僕はチャイムへ手を伸ばしては、引っ込めるという行為を繰り返していた。
────あのあと、僕は飯田と悩みに悩んだ。同様の菓子類はどうだろうか、と言う僕の提案に飯田は「だめだ。ああ言う大人は甘いものが苦手だと思うから避けた方が良い」と遮った。
まぁ、確かにそんなイメージはある。僕は彼の意見に頷いた。
では、ネクタイなど身につけるものはどうだろうかと提案する。
僕のプレゼントしたものを身につけ、会社へ向かう前島さんを想像し、ニヤけてしまった。
が、それも却下された。理由はシンプル。身につけるモノは拘りだったり趣味があったりする。故に、渡したところでゴミ箱行きの可能性もある。
そんな僕らの導き出した結論は────。
「お礼だけで本当にいいのかな……」
飯田曰く、俺たちのような学生にお返しを期待する社会人はいない。だからこそ、心のこもったお礼の方が喜ばれる────だそうだ。
まぁ、一理ある。見返りを求めるために、前島さんは僕に土産を渡したわけではない。(と思う)
「精一杯、お礼を言われて嫌な思いするやつなんていないだろ」。飯田が語っていた言葉を思い出し、深呼吸を繰り返す。
チャイムを押し、前島さんが出てくるのを待つ。背中に汗が滲み、それが伝うのを感じながら高鳴る鼓動を収めるため、拳を握りしめた。
「おや、こんばんは」
数秒間を置き、ドアが開く。目の前に現れた前島さんが、驚いたように目を見開いていた。
「真辺くん。どうしたんですか?」
「あ、あの、あの。き、昨日は、その……お土産ありがとうございました。すごく美味しかったです」
前島さんはネクタイを外し、襟のボタンを緩めた格好をしている。昨日の格好も刺激的だったが、今の格好も僕の脳を破壊するには十分過ぎるほど刺激が強かった。
僕は礼を言い終えると、深々と頭を下げた。それを阻止するように前島さんが手を伸ばす。
肩に触れた手のひらが熱くて、思わず声を上げそうになってしまった。
「気を遣わせてしまったみたいで、申し訳ないな……でも、お口に合ったようで何よりです」
彼が口角をあげ、穏やかに微笑んでいる。僕は音を立てて唾液を嚥下し、言葉を続けた。
「そ、それで、その。お返しの品を渡したかったんですが……何が良いか分からず……」
「いいの、いいの。喜んでもらえただけで、十分ですよ」
「すみません、いただいたのにお礼だけで済ませてしまって」
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