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愛とか恋とかストーカーとか
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◇
前島さんの部屋は僕と同じ造りをしていた。けれど、清潔感があり殺風景な印象を与える。
リビングに置かれた大きめの本棚の端を二人で持ち上げ、隅へ寄せた。床へ置くと、ミシっと軋む音が聞こえる。
理想的な位置に設置できたことに満足なのか、前島さんが見たことがないほどの笑みを浮かべ、僕に礼を言った。
「ありがとう、助かりました。この本棚、すごく重くて……。模様替えしたくても、中々できなかったんです。協力してもらえて良かった」
額の汗を拭う彼に見惚れつつ、僕は前のめりになった。
「こんなことでよければ、いつでも僕を呼んでください。なんでもします」
「なんでもって……」
前島さんが笑う。
「じゃ、ちょっとだけ晩酌に付き合ってもらおうかな」
僕はその言葉に、脳天を突かれたような感覚に襲われた。
家に上がりこめた事実さえ飲み込むので精一杯なのに、さらに晩酌にまで付き合えるとは。僕はニヤケそうになる口元を押さえつつ首を大きく縦に振った。
前島さんはリビングに置かれたダイニングチェアを引き、座るように促した。
「じゃ、準備するからちょっと待っててね。あ、お酒は飲める年齢ですよね?」
僕は勢いよく返事をする。
しかし、だ。僕は酒が弱い。飲めはするものの、グラス一杯で顔が赤く染まり眠気に襲われる。
故に、大学の飲み会などでは無理に飲まされてすぐに寝てしまうことが多かった。
前島さんの前で失態を晒したくはないという理性と、前島さんと晩酌を楽しめるという誘惑が対決をする。
────大丈夫。一杯程度なら、大丈夫。
自分にそう言い聞かせ、椅子に腰をかけた。準備に取り掛かる前島さんの背中を見て、急に実感が湧き上がってくる。
────僕は今……前島さんの家に上がり込んでいるのだ。
そう考えると胸がドキドキと脈打つ。
部屋をぐるりと見渡す。自宅と同じ造りをしているはずなのだが、なぜか全く違う部屋に見えた。全ての家具がシンプルで、色があるとすればカーテンのモスグリーンだけだ。
「お待たせ。これ、おつまみ」
テーブルの上に置かれたのは、皿の上に乗せられたチーズだ。
お洒落な店で提供される品物みたいに美しい盛り付けをされたそれに見惚れていると、彼がグラスを置く。中にはすでに朱色の液体が入っていた。
中身はきっと、ワインだろう。僕は引き攣った頬を悟られぬように下手な笑みを浮かべる。
「わ、わぁ……美味しそう」
僕は酒類の中で最もワインが苦手だ。赤でも白でも苦手なのだ。飲めるかどうか危ういな、と考えつつ形のいいグラスを眺める。
────苦手だから、きっと飲みすぎるなんてことはない。むしろ、こっちの方が好都合かも。
向かいに座った前島さんがグラスを掲げる。それにつられて、僕も慌ててグラスを掴んだ。
前島さんの部屋は僕と同じ造りをしていた。けれど、清潔感があり殺風景な印象を与える。
リビングに置かれた大きめの本棚の端を二人で持ち上げ、隅へ寄せた。床へ置くと、ミシっと軋む音が聞こえる。
理想的な位置に設置できたことに満足なのか、前島さんが見たことがないほどの笑みを浮かべ、僕に礼を言った。
「ありがとう、助かりました。この本棚、すごく重くて……。模様替えしたくても、中々できなかったんです。協力してもらえて良かった」
額の汗を拭う彼に見惚れつつ、僕は前のめりになった。
「こんなことでよければ、いつでも僕を呼んでください。なんでもします」
「なんでもって……」
前島さんが笑う。
「じゃ、ちょっとだけ晩酌に付き合ってもらおうかな」
僕はその言葉に、脳天を突かれたような感覚に襲われた。
家に上がりこめた事実さえ飲み込むので精一杯なのに、さらに晩酌にまで付き合えるとは。僕はニヤケそうになる口元を押さえつつ首を大きく縦に振った。
前島さんはリビングに置かれたダイニングチェアを引き、座るように促した。
「じゃ、準備するからちょっと待っててね。あ、お酒は飲める年齢ですよね?」
僕は勢いよく返事をする。
しかし、だ。僕は酒が弱い。飲めはするものの、グラス一杯で顔が赤く染まり眠気に襲われる。
故に、大学の飲み会などでは無理に飲まされてすぐに寝てしまうことが多かった。
前島さんの前で失態を晒したくはないという理性と、前島さんと晩酌を楽しめるという誘惑が対決をする。
────大丈夫。一杯程度なら、大丈夫。
自分にそう言い聞かせ、椅子に腰をかけた。準備に取り掛かる前島さんの背中を見て、急に実感が湧き上がってくる。
────僕は今……前島さんの家に上がり込んでいるのだ。
そう考えると胸がドキドキと脈打つ。
部屋をぐるりと見渡す。自宅と同じ造りをしているはずなのだが、なぜか全く違う部屋に見えた。全ての家具がシンプルで、色があるとすればカーテンのモスグリーンだけだ。
「お待たせ。これ、おつまみ」
テーブルの上に置かれたのは、皿の上に乗せられたチーズだ。
お洒落な店で提供される品物みたいに美しい盛り付けをされたそれに見惚れていると、彼がグラスを置く。中にはすでに朱色の液体が入っていた。
中身はきっと、ワインだろう。僕は引き攣った頬を悟られぬように下手な笑みを浮かべる。
「わ、わぁ……美味しそう」
僕は酒類の中で最もワインが苦手だ。赤でも白でも苦手なのだ。飲めるかどうか危ういな、と考えつつ形のいいグラスを眺める。
────苦手だから、きっと飲みすぎるなんてことはない。むしろ、こっちの方が好都合かも。
向かいに座った前島さんがグラスを掲げる。それにつられて、僕も慌ててグラスを掴んだ。
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