愛とか恋とかストーカーとか

なかあたま

文字の大きさ
8 / 15
愛とか恋とかストーカーとか

8

しおりを挟む


「────ということがあって……アレ、真辺くん大丈夫ですか?」

 前島さんとの晩酌は楽しかった。話はどれも興味深いもので、僕を惹きつけるには最高の餌だった。
 大好きな彼が僕のために繰り出す世間話を聞きつつ、ワインを半分まで飲んだ頃。急激な眠気に襲われた。
 意識が混濁し、目の前が霞む。指先にも力が入らなくなり、グラスを持つことさえ儘ならなくなっていた。
 異変に気がついたのは、向かいに座っていた前島さんだ。
 テーブルにうつ伏せになり、浅い呼吸を繰り返す僕に驚いたのか、席を立ち、肩を揺さぶった。
 ────あれ……こんなはずじゃ……。
 靄がかかった意識の中、僕はそんなことを考えていた。
 酒は得意じゃない。けれど、こんなに早く。それも急激に眠気に襲われることはない。
 加えて、ワインは苦手だから、ちまちまと飲んでいたのだ。なのに、なぜ。
 僕を心配する前島さんの声が、脳の奥で溶ける。霞んだ視界の中、うつ伏せにしていた顔をあげた。

「まえ、じまさ……すみませ……」
「シィ、喋らなくていい。すぐに寝室へ連れて行くから」

 思考が定まらない脳みそでも、僕はその言葉を聞き逃さなかった。
 寝室、寝室? 誰の? この家の主の? つまり、前島さんの? うそ。僕は今日、この家で眠るの? 本気で、言ってる?
 ぐるぐると言葉が駆け巡る。
 その間も、前島さんがまるで壊れ物のようにゆっくりと僕を抱き上げた。寝室まで移動し、僕をベッドへ下ろす。
 ふわりとした感覚が全身を包み、思わず吐息が漏れる。落ちかけている瞼をこじ開け、前島さんにお礼だけでも言おうと口を開いた。
 見上げた前島さんは薄暗がりの中、僕を無表情で見下ろしていた。
 その見たことのない顔に、心臓が跳ねる。

「まえ、じまさ……」
「……すごい。本当に、あの薬って効くんだ」

 感心したような声音を吐いた前島さんが、寝室の明かりをつける。目を焼く光に顔を伏せていると、ベッドが沈んだ。

「体、動いてないし。舌も回ってない。完璧だ」

 もう一度、目を開ける。僕の上には前島さんが覆い被さっていて、うっとりとした目で僕を見つめていた。

「可愛いねぇ」

 あはは、と笑う前島さんは、今まで見てきた彼とは別人のように感じた。緩やかに頬を撫でられ、その手の熱さに体が震える。
 蠱惑的に微笑んだ前島さんが、ぐったりとした僕の服に手をかけた。
 シャツが捲られ、手が侵入してくる。胸元に唇が寄せられた。
 なんだ、と声を上げる間もなく体がビクつく。彼に舐められていると気がついたのは、数秒後だった。遅れて伝達した刺激に、小さく喘ぐ。
 顔を背けた瞬間、不意に視界に何かが映り込んだ。

「え……」

 壁一面に貼られた写真。映っているのは僕だった。目を白黒させ、浅い呼吸を繰り返す僕を見て前島さんが肩を揺らし笑う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

好きって言ってるようなもの

鈴川真白
BL
好きなタイプを話したところで、って思ってた 一途な後輩 × 素直じゃない先輩

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

さよなら、永遠の友達

万里
BL
高校時代、バスケットボール部のキャプテン・基樹と、副部長として彼を支える冷静な舜一。対照的な二人は親友であり、マネージャーの結子を含めた三人は分かちがたい絆で結ばれていた。しかし舜一は、基樹への決して報われない恋心を隠し続けていた。 卒業を控え、基樹との「ずっと一緒にバスケをする」という約束を破り、舜一は逃げるように東京の大学へ進学する。基樹を突き放したのは、彼が結子と結ばれる幸せを近くで見届ける自信がなかったからだ。 10年後。孤独に生きる舜一のもとに、基樹から「結子が事故で亡くなった」という絶望の電話が入る。ボロボロになった親友の悲痛な叫びを聞いた瞬間、舜一の中にあった想いが目を覚ます。仕事もキャリアも投げ出し、舜一は深夜の高速をひた走る。

処理中です...