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愛とか恋とかストーカーとか
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◇
「────ということがあって……アレ、真辺くん大丈夫ですか?」
前島さんとの晩酌は楽しかった。話はどれも興味深いもので、僕を惹きつけるには最高の餌だった。
大好きな彼が僕のために繰り出す世間話を聞きつつ、ワインを半分まで飲んだ頃。急激な眠気に襲われた。
意識が混濁し、目の前が霞む。指先にも力が入らなくなり、グラスを持つことさえ儘ならなくなっていた。
異変に気がついたのは、向かいに座っていた前島さんだ。
テーブルにうつ伏せになり、浅い呼吸を繰り返す僕に驚いたのか、席を立ち、肩を揺さぶった。
────あれ……こんなはずじゃ……。
靄がかかった意識の中、僕はそんなことを考えていた。
酒は得意じゃない。けれど、こんなに早く。それも急激に眠気に襲われることはない。
加えて、ワインは苦手だから、ちまちまと飲んでいたのだ。なのに、なぜ。
僕を心配する前島さんの声が、脳の奥で溶ける。霞んだ視界の中、うつ伏せにしていた顔をあげた。
「まえ、じまさ……すみませ……」
「シィ、喋らなくていい。すぐに寝室へ連れて行くから」
思考が定まらない脳みそでも、僕はその言葉を聞き逃さなかった。
寝室、寝室? 誰の? この家の主の? つまり、前島さんの? うそ。僕は今日、この家で眠るの? 本気で、言ってる?
ぐるぐると言葉が駆け巡る。
その間も、前島さんがまるで壊れ物のようにゆっくりと僕を抱き上げた。寝室まで移動し、僕をベッドへ下ろす。
ふわりとした感覚が全身を包み、思わず吐息が漏れる。落ちかけている瞼をこじ開け、前島さんにお礼だけでも言おうと口を開いた。
見上げた前島さんは薄暗がりの中、僕を無表情で見下ろしていた。
その見たことのない顔に、心臓が跳ねる。
「まえ、じまさ……」
「……すごい。本当に、あの薬って効くんだ」
感心したような声音を吐いた前島さんが、寝室の明かりをつける。目を焼く光に顔を伏せていると、ベッドが沈んだ。
「体、動いてないし。舌も回ってない。完璧だ」
もう一度、目を開ける。僕の上には前島さんが覆い被さっていて、うっとりとした目で僕を見つめていた。
「可愛いねぇ」
あはは、と笑う前島さんは、今まで見てきた彼とは別人のように感じた。緩やかに頬を撫でられ、その手の熱さに体が震える。
蠱惑的に微笑んだ前島さんが、ぐったりとした僕の服に手をかけた。
シャツが捲られ、手が侵入してくる。胸元に唇が寄せられた。
なんだ、と声を上げる間もなく体がビクつく。彼に舐められていると気がついたのは、数秒後だった。遅れて伝達した刺激に、小さく喘ぐ。
顔を背けた瞬間、不意に視界に何かが映り込んだ。
「え……」
壁一面に貼られた写真。映っているのは僕だった。目を白黒させ、浅い呼吸を繰り返す僕を見て前島さんが肩を揺らし笑う。
「────ということがあって……アレ、真辺くん大丈夫ですか?」
前島さんとの晩酌は楽しかった。話はどれも興味深いもので、僕を惹きつけるには最高の餌だった。
大好きな彼が僕のために繰り出す世間話を聞きつつ、ワインを半分まで飲んだ頃。急激な眠気に襲われた。
意識が混濁し、目の前が霞む。指先にも力が入らなくなり、グラスを持つことさえ儘ならなくなっていた。
異変に気がついたのは、向かいに座っていた前島さんだ。
テーブルにうつ伏せになり、浅い呼吸を繰り返す僕に驚いたのか、席を立ち、肩を揺さぶった。
────あれ……こんなはずじゃ……。
靄がかかった意識の中、僕はそんなことを考えていた。
酒は得意じゃない。けれど、こんなに早く。それも急激に眠気に襲われることはない。
加えて、ワインは苦手だから、ちまちまと飲んでいたのだ。なのに、なぜ。
僕を心配する前島さんの声が、脳の奥で溶ける。霞んだ視界の中、うつ伏せにしていた顔をあげた。
「まえ、じまさ……すみませ……」
「シィ、喋らなくていい。すぐに寝室へ連れて行くから」
思考が定まらない脳みそでも、僕はその言葉を聞き逃さなかった。
寝室、寝室? 誰の? この家の主の? つまり、前島さんの? うそ。僕は今日、この家で眠るの? 本気で、言ってる?
ぐるぐると言葉が駆け巡る。
その間も、前島さんがまるで壊れ物のようにゆっくりと僕を抱き上げた。寝室まで移動し、僕をベッドへ下ろす。
ふわりとした感覚が全身を包み、思わず吐息が漏れる。落ちかけている瞼をこじ開け、前島さんにお礼だけでも言おうと口を開いた。
見上げた前島さんは薄暗がりの中、僕を無表情で見下ろしていた。
その見たことのない顔に、心臓が跳ねる。
「まえ、じまさ……」
「……すごい。本当に、あの薬って効くんだ」
感心したような声音を吐いた前島さんが、寝室の明かりをつける。目を焼く光に顔を伏せていると、ベッドが沈んだ。
「体、動いてないし。舌も回ってない。完璧だ」
もう一度、目を開ける。僕の上には前島さんが覆い被さっていて、うっとりとした目で僕を見つめていた。
「可愛いねぇ」
あはは、と笑う前島さんは、今まで見てきた彼とは別人のように感じた。緩やかに頬を撫でられ、その手の熱さに体が震える。
蠱惑的に微笑んだ前島さんが、ぐったりとした僕の服に手をかけた。
シャツが捲られ、手が侵入してくる。胸元に唇が寄せられた。
なんだ、と声を上げる間もなく体がビクつく。彼に舐められていると気がついたのは、数秒後だった。遅れて伝達した刺激に、小さく喘ぐ。
顔を背けた瞬間、不意に視界に何かが映り込んだ。
「え……」
壁一面に貼られた写真。映っているのは僕だった。目を白黒させ、浅い呼吸を繰り返す僕を見て前島さんが肩を揺らし笑う。
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