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第1章

ようこそ花嫁殿、魔界(愛の巣)へ!!-上-

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 約束の日、レチェルは玉座の間に一人で椅子に座っていた。

 リヴァンリヌスから、レチェル以外の者は玉座の間に来るなと言われていて、レチェルは1人数刻前から迎えを待っているのである。

「ん……」

 自分はもう魔王のモノになる、そう決めた筈なのにまだ心の奥底ではチリチリと畏怖の感情が燃え残り胸を焦がし続けている。

 ひどく喉が渇いてくる、何度も何度も横に置かれた瓶から水を汲み口に運び喉を潤すが一向に喉の渇きは止まってくれず。 すでにお腹はタプタプと音を立てている。

「ぅう……す~は~」

 気持ちを落ち着かせようと深く深呼吸し、顔を下げ息を深く深く吐き出した後、息を深く吸おうと顔を上げたとき、そこに思いもよらない顔があった。

「迎えに来たわよ、愛しい人♪」

 唇と唇が触れ合うギリギリの所に魔王リヴァンリヌスの顔があった。

「ひゃぅん!?」

 レチェルはいきなりの事に驚き慌て、後方に激しく倒れ込んでしまった。

「危ない!!」

 レチェルの倒れた反動で椅子は後ろに大きく傾き、後頭部から大理石でできた床の上に落ちようとした。

「っ!?」

 グラリと揺らぎ後ろに椅子ごと倒れこむ感覚と少しばかりの浮遊感にレチェルはとっさに目を瞑り、襲いくるであろう痛み待った。

 しかし、くるはずの痛みはなく代わりに顔には包み込むような柔らかい感触と甘い果実のような匂いをレチェルは感じた。

「あ、れ……痛くない」

 何が起こったのか理解できないレチェルは、ただ目を白黒させるばかりである。

「フフ、危なかったですヨ~」

 その時、レチェルの背後から艶のある声が聞こえてきた。後ろに意識を向け振り返るとレチェルを抱き抱えるようにして犬耳の美女が立っていた。

「あ、ありがと……んっ!?」

 レチェルが我に返りお礼を言おうとした瞬間、いきなりの犬耳の美女はレチェルの唇を奪った。

「んっ、ちゅう……フフ、美味しい味がしますワ~さすが魔王様がお選びになった奥方様ですわネ♪食べちゃいたイ」

 犬耳の美女は唇を離すと恍惚な表情を浮かべ、まるで好物を食べた後のような表情を浮かべながらレチェルの頬をぺろぺろと舐めた。

「コ、コラァ!!私の嫁になにをしてるのよ!!このバカイヌ!!」

 部下のいきなりの裏切り行為に一瞬、凍りついたようになったリヴァンリヌスだが、すぐに我に返り、レチェルを奪い取るかのように抱き寄せ部下の犬耳美女を蹴り飛ばした。

「ぁん、魔王様申し訳ありませン」

 犬耳の美女は蹴り倒されたというのに、大理石の床の上で瞳を潤ませ、艶やかにウットリと微笑みを浮かべながら舌舐めずりをしている。

「あ……ぁ、あぅ」

 一方、キスをされたばかりか頬まで舐められたレチェルは、あまりの出事に理解が追いつかず軽く放心状態になりピクピクと小刻みに震えている。

「あ~もう……私のモノなんだからな、んちゅう~♪」

 リヴァンリヌスは懐からハンカチを取り出し、レチェルの唇を優しい手付きで念入りに拭いた後口直しとばかりにキスをした。

「んっ!?むぅ、んんっ……」

 本日二度目で先程とは比べ物にならない濃厚なキスにレチェルは思考を処理し切れず、そのまま気絶してしまった。

「あら……気絶しちゃった、クスクス……そんなに私のキスが良かったのね!んっ~魔界に行ったら毎日してあげるわよ」

 すっかり自分のキスが良過ぎて気絶したものだと勘違いしたリヴァンリヌスは、気分良く気を失ったレチェルをお姫様抱っこし頬に軽くキスをした。

「あー、ズルいですヨォ……私も私モ~」

「うるさいわね、シェンリル早く魔道を開けなさい!!」

 レチェルにキスしたいとねだってくるシェンリルを払いのけ、リヴァンリヌスは魔界への道である魔道を開くように言いつけた。

「お断りしまス、キスさせてくださらないのなら嫌でス」

 しかしシェンリルは顔を背け、要求が通らなければ主であってもリヴァンリヌスの言うことを聞かないとばかりにその場に座り込んでしまった。

「ちょっと!私は魔王よ、貴女のご主人様なのよ?言うことを聞きなさい!!」

 ゴネる部下にリヴァンリヌスはイラっとし、座り込んでいるシェンリルの頭に強めのチョップをした。

「痛っ!?あー、叩きましたネ?キスもダメ!暴力は振るう!もう絶対に魔道開いてあげませン!!」

 シェンリルはすっかり臍を曲げてしまい、言う事は聞かないぞとばかりにその場にふて寝してしまい動かなくなってしまった。

「貴女、本気で私を怒らせる気?いいのかしら、私を本気で怒らせてさ……」

「えー、魔王様は私に勝てるんデスか??パッドのく……ギャン!?」

 シェンリルがパッドと言った瞬間、リヴァンリヌスは何もしていないのにシェンリルは地面にめり込む程の衝撃を受け動けなくなった。

「誰が……貧乳、パッドですって??ねぇ、誰が、なのぉ??」

 リヴァンリヌスの瞳は真っ赤な紅色に染まり、笑顔を浮かべているのに人間くらいなら即死しそうなくらい、目に見えるドス黒い殺気を放っている。

「あグゥ……貧、乳……とは、言ってない、デス」

 シェンリルはプルプルと右手を上げ小さな白旗をパタパタと振り降参の意を伝えた。

「貴女、しばらく休んでなさいよ♪」

 白旗など意味ないとはがりにリヴァンリヌスは優しく微笑んだ後、無慈悲にシェンリルの後頭部を踏みつけた。

「ふぎゅ!?」

 踏みつけられたシェンリルは大理石の床に顔をめり込ませピクピクと小刻みに痙攣しながら失神してしまった。

「まったく……翠嵐すいらん居るわね?」

 ピクピクと小刻みに痙攣するシェンリルを無視し、リヴァンリヌスはさも隣にいるでしょとばかりに違う部下の名前を呼んだ。

「やっと呼んだか、女帝様」

 次の瞬間、リヴァンリヌスの影から青い髪の美女翠嵐は扇子をパチリと鳴らしながら現れた。

「やっぱり私の影に潜んでたのね。仕事よ、魔道を開きなさい」

「理解した、ほれ」

 翠嵐が扇子で軽く何もない空間を掻き回すようにすると、何もなかったはずの空間に歪みが現れ薄暗い霧のようなモノが現れた。

「開いたぞよ、ほい」

 翠嵐はまず床に頭が埋まって気絶したシェンリルを軽々と片手で引き抜くと、上手く繋がったかのテストじゃ、とシェンリルを霧のようなモノの中に投げ込んだ。

「どう?繋がってる?」

「うむ、繋がったようであるな。では行こうか女帝様」

 安全なのを確認した後、翠嵐はリヴァンリヌスより先に霧のようなモノの中に入って行った。

「私の可愛いレチェル、さぁ魔界に行くわよ」

 それに続くようにリヴァンリヌスも抱きかかえているレチェルに優しげに微笑み、頬に軽くキスをした後、胸元から取り出した布に包み込むと一気に霧の中にへと入っていった。

 こうして、レチェルは知らぬうちに魔界へと行くこととなったのであった。


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