異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています!R18版

水野酒魚。

文字の大きさ
11 / 73

第十一話 ……だけでございますよ?

しおりを挟む
「食事がお済みになったら、わたくしの工房にいらっしゃいませんか? タイキ様」

イリスが食事に気を取られている隙を狙って、シーモスが耳打ちしてくる。

「……アンタと二人きりはイヤだ」

 思い切りイヤそうな顔で告げる泰樹たいきに、シーモスは苦い笑いをもらした。

「私も、昼間から『食欲』を持て余したりはいたしませんから」
「……信用できない」
「はあ……あの時は、私もどうかしていたのでございます。あまりにも、その……タイキ様が美味しそうでしたので」

 うっとりと、耳元にささやく吐息が何となくぬるい。泰樹はますます表情を険しくする。

「……」
「ん? なあに? 二人で内緒話?」

 ワイングラスに入った赤い液体を飲み干して、イリスは口元をそでぬぐった。

「いえ、タイキ様を私の工房にお誘いしていたのですよ。それと、ナプキンをお使い下さい、イリス様」
「んー。わかった。今度はそうする。あー、もう、お腹いっぱい。ご飯はしばらくいらない」

 満足げに、イリスはふうと息を吐いて、椅子の背もたれに身をあずける。確かにイリスは少食のようだ。赤い液体はグラスの半分に満たなかった。

「所でタイキ様、景色を撮しとる魔具のような機械をお持ちだとか。イリス様からうかがいました」

 あっさりと話題を変えてくるシーモスの変わり身の早さに、泰樹はあきれを通り越して感心してしまう。

「……あー? スマホのことか?」
「はい。その機械、私にも見せてはいただけないでしょうか?」
「それは、構わねえけどよ。壊したり分解したりしないって約束するか?」

 スマホは今の所、家族の写真を見るための大切なツールだ。電池が切れるまでは大切にあつかいたい。

「はい。それは確かにお約束いたします。まずは拝見させていただいて、複製できるようでしたら複製させて下さい」
「ん。わかった。ほら、これだ。ここをこうしてここを押すと写真が見れる」

 ――これを複製するのは難しそうだが。半信半疑で、シーモスにスマホの操作を教える。

 シーモスは「なるほど」「ふんふん」と何度もうなずきながら、スマホを観察した。

「精密な写生でございますね。生き生きとして直ぐそこに対象物が存在するような……おや、イリス様も。これを、魔力の助け無しに描くことが出来るとは……」

 シーモスは感心しきりである。自分の手柄では無いが、泰樹はどこか誇らしいような気分で胸を張る。

「……わかりました。構成材質はそう珍しいモノでは無いようです。これなら複製出来そうですね」

 そう言って、シーモスはスマホを掌にのせた。

『金の王、銀の女王、石の王。勇ましき雷霆らいていの王に運命と記録の麗しき女王よ。この、このを紡ぎ編み出し、双子の合わせ鏡。この手に現し給え……』

 うたうように。シーモスは、何か呪文のようなモノを唱える。すると、スマホを持っていなかった方の掌に、光の粒が集まって何かがゆっくりと姿を現した。

「……!」

 黒くつるつるとした表面、画面もカメラもボタンも。泰樹の仕事用スマホにそっくりなスマホがシーモスの掌にのっている。

「ふう。中身も確かめてみてくださいませ、タイキ様。そっくり複製出来ていますかと」

 差し出された、複製スマホの電源ボタンを押す。画面はちゃんと点る。壁紙にしている家族の写真も、操作した感覚も普段のスマホと変わらない。

「……すげーな。本物とそっくりだ。データもちゃんと入ってる」
「この機械、雷を使用して作動しているようですね。それが、だいぶ少なくなっているようです。このままだと直ぐに動かなくなってしまいます」

 そんなことまでわかるのか。シーモスのヤツ、意外と出来るヤツ、なのか?

「そう言うときは充電すればいいんだけどな。でも、ここにはコードもねえし、コンセントもねえ。どうしたら良い?」

 途方に暮れる泰樹に、シーモスは自信をのぞかせる微笑みを浮かべてみせる。

「では、こちらの複製品は魔力で動くように手を加えましょう。それならば補給は容易ですから。それから、安全に雷を補給する術を考えついたら、元の機械も『充電』いたします」

『食欲』に負けていない時のシーモスは、中々頼もしい。
 イリスが、確かな信頼を寄せるだけのことはあった。

「ねえ、シーモス。僕にもそれ、作って欲しい。僕も『写真』って言うの欲しいから!」
「はい。よろしゅうございますよ。作って差し上げますね」
「やったー!!」

 シーモスはスマホをもう1台複製する。泰樹が写真の撮り方を教えてやると、イリスは早速泰樹とシーモスの写真を撮った。

「あ、ここ押すとカメラが切り替わって、自分の写真も撮れるからな」
「ホントだ! 僕が写ってるね!」

 うれしそうに笑って、色々な写真を撮るイリスを、泰樹とシーモスは穏やかに見守った。

「……所で、さっきはなんで工房?に来いとか何とか言ってたんだ?」

 泰樹が訊ねると、シーモスはふっと微笑んで見せる。

「ああ、それは、『写真』の機械を見せていただきたかった、……だけでございますよ?」

 怪しい。その間が限りなく怪しい。

 ――少しでも感心した俺がバカだった……

 コイツには、もっと用心しなくては。けして二人きりにはなるまい。そう、泰樹は決意を新たにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...