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第十一話 ……だけでございますよ?
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「食事がお済みになったら、私の工房にいらっしゃいませんか? タイキ様」
イリスが食事に気を取られている隙を狙って、シーモスが耳打ちしてくる。
「……アンタと二人きりはイヤだ」
思い切りイヤそうな顔で告げる泰樹に、シーモスは苦い笑いをもらした。
「私も、昼間から『食欲』を持て余したりはいたしませんから」
「……信用できない」
「はあ……あの時は、私もどうかしていたのでございます。あまりにも、その……タイキ様が美味しそうでしたので」
うっとりと、耳元にささやく吐息が何となくぬるい。泰樹はますます表情を険しくする。
「……」
「ん? なあに? 二人で内緒話?」
ワイングラスに入った赤い液体を飲み干して、イリスは口元を袖で拭った。
「いえ、タイキ様を私の工房にお誘いしていたのですよ。それと、ナプキンをお使い下さい、イリス様」
「んー。わかった。今度はそうする。あー、もう、お腹いっぱい。ご飯はしばらくいらない」
満足げに、イリスはふうと息を吐いて、椅子の背もたれに身をあずける。確かにイリスは少食のようだ。赤い液体はグラスの半分に満たなかった。
「所でタイキ様、景色を撮しとる魔具のような機械をお持ちだとか。イリス様からうかがいました」
あっさりと話題を変えてくるシーモスの変わり身の早さに、泰樹はあきれを通り越して感心してしまう。
「……あー? スマホのことか?」
「はい。その機械、私にも見せてはいただけないでしょうか?」
「それは、構わねえけどよ。壊したり分解したりしないって約束するか?」
スマホは今の所、家族の写真を見るための大切なツールだ。電池が切れるまでは大切に扱いたい。
「はい。それは確かにお約束いたします。まずは拝見させていただいて、複製できるようでしたら複製させて下さい」
「ん。わかった。ほら、これだ。ここをこうしてここを押すと写真が見れる」
――これを複製するのは難しそうだが。半信半疑で、シーモスにスマホの操作を教える。
シーモスは「なるほど」「ふんふん」と何度もうなずきながら、スマホを観察した。
「精密な写生でございますね。生き生きとして直ぐそこに対象物が存在するような……おや、イリス様も。これを、魔力の助け無しに描くことが出来るとは……」
シーモスは感心しきりである。自分の手柄では無いが、泰樹はどこか誇らしいような気分で胸を張る。
「……わかりました。構成材質はそう珍しいモノでは無いようです。これなら複製出来そうですね」
そう言って、シーモスはスマホを掌にのせた。
『金の王、銀の女王、石の王。勇ましき雷霆の王に運命と記録の麗しき女王よ。この具、この器を紡ぎ編み出し、双子の合わせ鏡。この手に現し給え……』
謡うように。シーモスは、何か呪文のようなモノを唱える。すると、スマホを持っていなかった方の掌に、光の粒が集まって何かがゆっくりと姿を現した。
「……!」
黒くつるつるとした表面、画面もカメラもボタンも。泰樹の仕事用スマホにそっくりなスマホがシーモスの掌にのっている。
「ふう。中身も確かめてみてくださいませ、タイキ様。そっくり複製出来ていますかと」
差し出された、複製スマホの電源ボタンを押す。画面はちゃんと点る。壁紙にしている家族の写真も、操作した感覚も普段のスマホと変わらない。
「……すげーな。本物とそっくりだ。データもちゃんと入ってる」
「この機械、雷を使用して作動しているようですね。それが、だいぶ少なくなっているようです。このままだと直ぐに動かなくなってしまいます」
そんなことまでわかるのか。シーモスのヤツ、意外と出来るヤツ、なのか?
「そう言うときは充電すればいいんだけどな。でも、ここにはコードもねえし、コンセントもねえ。どうしたら良い?」
途方に暮れる泰樹に、シーモスは自信をのぞかせる微笑みを浮かべてみせる。
「では、こちらの複製品は魔力で動くように手を加えましょう。それならば補給は容易ですから。それから、安全に雷を補給する術を考えついたら、元の機械も『充電』いたします」
『食欲』に負けていない時のシーモスは、中々頼もしい。
イリスが、確かな信頼を寄せるだけのことはあった。
「ねえ、シーモス。僕にもそれ、作って欲しい。僕も『写真』って言うの欲しいから!」
「はい。よろしゅうございますよ。作って差し上げますね」
「やったー!!」
シーモスはスマホをもう1台複製する。泰樹が写真の撮り方を教えてやると、イリスは早速泰樹とシーモスの写真を撮った。
「あ、ここ押すとカメラが切り替わって、自分の写真も撮れるからな」
「ホントだ! 僕が写ってるね!」
うれしそうに笑って、色々な写真を撮るイリスを、泰樹とシーモスは穏やかに見守った。
「……所で、さっきはなんで工房?に来いとか何とか言ってたんだ?」
泰樹が訊ねると、シーモスはふっと微笑んで見せる。
「ああ、それは、『写真』の機械を見せていただきたかった、……だけでございますよ?」
怪しい。その間が限りなく怪しい。
――少しでも感心した俺がバカだった……
コイツには、もっと用心しなくては。けして二人きりにはなるまい。そう、泰樹は決意を新たにした。
イリスが食事に気を取られている隙を狙って、シーモスが耳打ちしてくる。
「……アンタと二人きりはイヤだ」
思い切りイヤそうな顔で告げる泰樹に、シーモスは苦い笑いをもらした。
「私も、昼間から『食欲』を持て余したりはいたしませんから」
「……信用できない」
「はあ……あの時は、私もどうかしていたのでございます。あまりにも、その……タイキ様が美味しそうでしたので」
うっとりと、耳元にささやく吐息が何となくぬるい。泰樹はますます表情を険しくする。
「……」
「ん? なあに? 二人で内緒話?」
ワイングラスに入った赤い液体を飲み干して、イリスは口元を袖で拭った。
「いえ、タイキ様を私の工房にお誘いしていたのですよ。それと、ナプキンをお使い下さい、イリス様」
「んー。わかった。今度はそうする。あー、もう、お腹いっぱい。ご飯はしばらくいらない」
満足げに、イリスはふうと息を吐いて、椅子の背もたれに身をあずける。確かにイリスは少食のようだ。赤い液体はグラスの半分に満たなかった。
「所でタイキ様、景色を撮しとる魔具のような機械をお持ちだとか。イリス様からうかがいました」
あっさりと話題を変えてくるシーモスの変わり身の早さに、泰樹はあきれを通り越して感心してしまう。
「……あー? スマホのことか?」
「はい。その機械、私にも見せてはいただけないでしょうか?」
「それは、構わねえけどよ。壊したり分解したりしないって約束するか?」
スマホは今の所、家族の写真を見るための大切なツールだ。電池が切れるまでは大切に扱いたい。
「はい。それは確かにお約束いたします。まずは拝見させていただいて、複製できるようでしたら複製させて下さい」
「ん。わかった。ほら、これだ。ここをこうしてここを押すと写真が見れる」
――これを複製するのは難しそうだが。半信半疑で、シーモスにスマホの操作を教える。
シーモスは「なるほど」「ふんふん」と何度もうなずきながら、スマホを観察した。
「精密な写生でございますね。生き生きとして直ぐそこに対象物が存在するような……おや、イリス様も。これを、魔力の助け無しに描くことが出来るとは……」
シーモスは感心しきりである。自分の手柄では無いが、泰樹はどこか誇らしいような気分で胸を張る。
「……わかりました。構成材質はそう珍しいモノでは無いようです。これなら複製出来そうですね」
そう言って、シーモスはスマホを掌にのせた。
『金の王、銀の女王、石の王。勇ましき雷霆の王に運命と記録の麗しき女王よ。この具、この器を紡ぎ編み出し、双子の合わせ鏡。この手に現し給え……』
謡うように。シーモスは、何か呪文のようなモノを唱える。すると、スマホを持っていなかった方の掌に、光の粒が集まって何かがゆっくりと姿を現した。
「……!」
黒くつるつるとした表面、画面もカメラもボタンも。泰樹の仕事用スマホにそっくりなスマホがシーモスの掌にのっている。
「ふう。中身も確かめてみてくださいませ、タイキ様。そっくり複製出来ていますかと」
差し出された、複製スマホの電源ボタンを押す。画面はちゃんと点る。壁紙にしている家族の写真も、操作した感覚も普段のスマホと変わらない。
「……すげーな。本物とそっくりだ。データもちゃんと入ってる」
「この機械、雷を使用して作動しているようですね。それが、だいぶ少なくなっているようです。このままだと直ぐに動かなくなってしまいます」
そんなことまでわかるのか。シーモスのヤツ、意外と出来るヤツ、なのか?
「そう言うときは充電すればいいんだけどな。でも、ここにはコードもねえし、コンセントもねえ。どうしたら良い?」
途方に暮れる泰樹に、シーモスは自信をのぞかせる微笑みを浮かべてみせる。
「では、こちらの複製品は魔力で動くように手を加えましょう。それならば補給は容易ですから。それから、安全に雷を補給する術を考えついたら、元の機械も『充電』いたします」
『食欲』に負けていない時のシーモスは、中々頼もしい。
イリスが、確かな信頼を寄せるだけのことはあった。
「ねえ、シーモス。僕にもそれ、作って欲しい。僕も『写真』って言うの欲しいから!」
「はい。よろしゅうございますよ。作って差し上げますね」
「やったー!!」
シーモスはスマホをもう1台複製する。泰樹が写真の撮り方を教えてやると、イリスは早速泰樹とシーモスの写真を撮った。
「あ、ここ押すとカメラが切り替わって、自分の写真も撮れるからな」
「ホントだ! 僕が写ってるね!」
うれしそうに笑って、色々な写真を撮るイリスを、泰樹とシーモスは穏やかに見守った。
「……所で、さっきはなんで工房?に来いとか何とか言ってたんだ?」
泰樹が訊ねると、シーモスはふっと微笑んで見せる。
「ああ、それは、『写真』の機械を見せていただきたかった、……だけでございますよ?」
怪しい。その間が限りなく怪しい。
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