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第二十五話 黒い小ビン
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「……い、ぇ……っ……」
身体中が痛みにきしむ。どこもかしこも。
特にケツは痛みがひどくて。身じろいだ瞬間に、あらぬ所から何かトロリとしたモノが漏れ出した。
「あ……あ、ぁ……っ」
後から後から溢れてくる、白濁した粘液。こんなにぶち込まれたら、男でも孕んでしまうのでは無いかと思うほどの量だ。
あれから、幾度犯されたのか。定かでは無い。
――ここ、どこ、だ……?
声に出して言ったつもりで、喉がかすれる。
ひゅうと吐息だけが、唇から漏れた。
「……んー? 目ぇ覚めたのかぁ?」
のんびりとした、低い声音。『暴食公』レオノ。その顔が見えた瞬間に、恐怖と吐き気がいっぺんに襲ってきて、泰樹は嘔吐いた。
「……ん、ぶ、っ……あ゛、あ、ぁ゛……お、ぇ……っ」
今は吐くモノが何も無いのか。胃液だけが喉を逆流する。
「おいおいぃ。そんなトコで吐くなよなぁ」
苦笑いのレオノは、泰樹の身体を軽々と持ち上げてバスルームに放り込む。
「う゛、あ゛、ぁあ゛……っう、!!」
泣きながら、吐けるだけ胃液を吐き出して、泰樹はバスルームの床に崩れ落ちた。
――俺、も、ダメ、かも……
心はとっくに折れていた。帰りたい。あの懐かしいアパートでも、イリスの屋敷でも。
布団にくるまって、眠りたい。これは夢だと、誰かに言って欲しい。
『大丈夫。大丈夫ですよ、タイキ様。貴方は大丈夫でございます』
ああ、なんで、こんな時にアイツの顔が思い浮かぶんだろう。アイツの、滑らかな絹のような声が聞こえるのだろう。自分を犯していたのは、アイツだって変わらないのに。
「……おおい。生きてるかぁ?」
のそりと、レオノがバスルームに入ってくる。
「……っひぃ、ぐ、っ!」
おびえきって身を引いた泰樹に向かって、レオノはにっと歯をむき出した。
「あーあ。すっかりビビっちまったなぁ。タイキちゃぁん。オマエはもうオレのモノだぁ。オレの形に馴染むまで、犯し尽くしてやるからさぁ……?」
コツリ。レオノの靴先に、何かが当たった。それは、いつの間にやら泰樹のポケットから転がり落ちていた、黒い小びん。
「なんだぁ? これぇ」
レオノはそれをつまみ上げた。
「あ、……やめろ……それ、返して、返してくれ……!!」
泰樹は慌てて、レオノの脚にすがりつく。
「それ、だいじ、大事なモノ、なんだ……返してくれ……!!」
「ふぅん。こんなちっこいビンがぁ?」
訝しげに、黒い小びんと泰樹を見比べるレオノ。その時、泰樹の脳裏に、微かに何かが閃いた。
「止めろ、それ、返して……『壊したり』しないでくれ……!!」
必死の形相で手を伸ばす泰樹に、レオノはサドっ気を隠せぬ様子で笑った。
「何だか解らねぇけどぉ。こんなモノに、いつまでも未練残してるんじゃねぇよぉ」
ぱりん。レオノの指先で、小びんが割れる。
――やったぜ!
その瞬間。黒いモヤがもくもくと小びんから吹き上がる。それが次第に、レオノの顔の横で形をなしていく。
「なんだぁ?!」
驚愕するレオノ。その、一瞬の隙に。何かがレオノの顔に飛びかかる。黒い毛皮、ピンと立った耳、鋭いキバと爪。
黒い魔獣、アルダーがモヤから現れて、その爪でレオノの片目をえぐり、バスルームの床に降り立った。
「痛えぇ……! 痛えよぉぉぉ!!」
膝を突いたレオノに向かって、アルダーはぐるるる……とうなりを上げている。
ただでさえ大きな魔獣だというのに、アルダーの身体はいつもより三倍は大きい。それが、魔獣の能力なのか、シーモスの魔法によるモノなのかは解らない。アルダーは素早く後ろを振り返って、泰樹を難なく背中に乗せた。
アルダーが走り出す。部屋の扉を体当たりでぶち破り、階段を下りようとしたところで、ウサギ魔人と鉢合わせた。
「エサが、逃げる……!」
自分を止めようとするウサギ魔人に、アルダーはすり抜けざま噛みついた。容赦の無い一撃に、ウサギ魔人は階段を転がり落ちた。
その間、泰樹はアルダーから振り落とされないように掴まっているので精一杯。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた獣人たちをなぎ倒し、アルダーはレオノの別荘を飛び出した。
それから、十分ほど森の中を走っただろうか。ゆっくりと、アルダーはいつものサイズに戻っていった。
すでに、陽は傾いている。もう一時間もしないうちに、双子の月が昇り始めるだろう。
このまま、アルダーに乗り続けることは出来ない。泰樹はアルダーの背から降りて、地面にへたり込んだ。
「……あ、りがとう……!!……助けに、来てくれたんだな……!」
シーモスの切り札。それは、ボディーガードの魔獣だった。魔法で、アルダーを召喚するための小びん。それを、持たせていてくれたのだ。
大きな『犬』への恐怖など、どこかに吹き飛んでいた。アルダーの紫の眼はいつも通り優しく、抱き寄せると温かくて。泰樹を勇気づけるように、アルダーはぺろぺろと頬を舐めてくれる。
「ははっ! くすぐってえ! その、ホントにありがとよ、アルダー」
イリスがいつもそうしているように、アルダーの耳の後をかいてやる。くうん。と嬉しそうに魔獣は喉を鳴らした。
「……こんな所でぐすぐすしてらんねえな。もっとあの別荘から離れねえと」
泰樹は痛む身体をどうにか騙して、立ち上がる。その時、隣から低く優しい声がした。
「……ソれは、俺も、同感、ダ……」
身体中が痛みにきしむ。どこもかしこも。
特にケツは痛みがひどくて。身じろいだ瞬間に、あらぬ所から何かトロリとしたモノが漏れ出した。
「あ……あ、ぁ……っ」
後から後から溢れてくる、白濁した粘液。こんなにぶち込まれたら、男でも孕んでしまうのでは無いかと思うほどの量だ。
あれから、幾度犯されたのか。定かでは無い。
――ここ、どこ、だ……?
声に出して言ったつもりで、喉がかすれる。
ひゅうと吐息だけが、唇から漏れた。
「……んー? 目ぇ覚めたのかぁ?」
のんびりとした、低い声音。『暴食公』レオノ。その顔が見えた瞬間に、恐怖と吐き気がいっぺんに襲ってきて、泰樹は嘔吐いた。
「……ん、ぶ、っ……あ゛、あ、ぁ゛……お、ぇ……っ」
今は吐くモノが何も無いのか。胃液だけが喉を逆流する。
「おいおいぃ。そんなトコで吐くなよなぁ」
苦笑いのレオノは、泰樹の身体を軽々と持ち上げてバスルームに放り込む。
「う゛、あ゛、ぁあ゛……っう、!!」
泣きながら、吐けるだけ胃液を吐き出して、泰樹はバスルームの床に崩れ落ちた。
――俺、も、ダメ、かも……
心はとっくに折れていた。帰りたい。あの懐かしいアパートでも、イリスの屋敷でも。
布団にくるまって、眠りたい。これは夢だと、誰かに言って欲しい。
『大丈夫。大丈夫ですよ、タイキ様。貴方は大丈夫でございます』
ああ、なんで、こんな時にアイツの顔が思い浮かぶんだろう。アイツの、滑らかな絹のような声が聞こえるのだろう。自分を犯していたのは、アイツだって変わらないのに。
「……おおい。生きてるかぁ?」
のそりと、レオノがバスルームに入ってくる。
「……っひぃ、ぐ、っ!」
おびえきって身を引いた泰樹に向かって、レオノはにっと歯をむき出した。
「あーあ。すっかりビビっちまったなぁ。タイキちゃぁん。オマエはもうオレのモノだぁ。オレの形に馴染むまで、犯し尽くしてやるからさぁ……?」
コツリ。レオノの靴先に、何かが当たった。それは、いつの間にやら泰樹のポケットから転がり落ちていた、黒い小びん。
「なんだぁ? これぇ」
レオノはそれをつまみ上げた。
「あ、……やめろ……それ、返して、返してくれ……!!」
泰樹は慌てて、レオノの脚にすがりつく。
「それ、だいじ、大事なモノ、なんだ……返してくれ……!!」
「ふぅん。こんなちっこいビンがぁ?」
訝しげに、黒い小びんと泰樹を見比べるレオノ。その時、泰樹の脳裏に、微かに何かが閃いた。
「止めろ、それ、返して……『壊したり』しないでくれ……!!」
必死の形相で手を伸ばす泰樹に、レオノはサドっ気を隠せぬ様子で笑った。
「何だか解らねぇけどぉ。こんなモノに、いつまでも未練残してるんじゃねぇよぉ」
ぱりん。レオノの指先で、小びんが割れる。
――やったぜ!
その瞬間。黒いモヤがもくもくと小びんから吹き上がる。それが次第に、レオノの顔の横で形をなしていく。
「なんだぁ?!」
驚愕するレオノ。その、一瞬の隙に。何かがレオノの顔に飛びかかる。黒い毛皮、ピンと立った耳、鋭いキバと爪。
黒い魔獣、アルダーがモヤから現れて、その爪でレオノの片目をえぐり、バスルームの床に降り立った。
「痛えぇ……! 痛えよぉぉぉ!!」
膝を突いたレオノに向かって、アルダーはぐるるる……とうなりを上げている。
ただでさえ大きな魔獣だというのに、アルダーの身体はいつもより三倍は大きい。それが、魔獣の能力なのか、シーモスの魔法によるモノなのかは解らない。アルダーは素早く後ろを振り返って、泰樹を難なく背中に乗せた。
アルダーが走り出す。部屋の扉を体当たりでぶち破り、階段を下りようとしたところで、ウサギ魔人と鉢合わせた。
「エサが、逃げる……!」
自分を止めようとするウサギ魔人に、アルダーはすり抜けざま噛みついた。容赦の無い一撃に、ウサギ魔人は階段を転がり落ちた。
その間、泰樹はアルダーから振り落とされないように掴まっているので精一杯。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた獣人たちをなぎ倒し、アルダーはレオノの別荘を飛び出した。
それから、十分ほど森の中を走っただろうか。ゆっくりと、アルダーはいつものサイズに戻っていった。
すでに、陽は傾いている。もう一時間もしないうちに、双子の月が昇り始めるだろう。
このまま、アルダーに乗り続けることは出来ない。泰樹はアルダーの背から降りて、地面にへたり込んだ。
「……あ、りがとう……!!……助けに、来てくれたんだな……!」
シーモスの切り札。それは、ボディーガードの魔獣だった。魔法で、アルダーを召喚するための小びん。それを、持たせていてくれたのだ。
大きな『犬』への恐怖など、どこかに吹き飛んでいた。アルダーの紫の眼はいつも通り優しく、抱き寄せると温かくて。泰樹を勇気づけるように、アルダーはぺろぺろと頬を舐めてくれる。
「ははっ! くすぐってえ! その、ホントにありがとよ、アルダー」
イリスがいつもそうしているように、アルダーの耳の後をかいてやる。くうん。と嬉しそうに魔獣は喉を鳴らした。
「……こんな所でぐすぐすしてらんねえな。もっとあの別荘から離れねえと」
泰樹は痛む身体をどうにか騙して、立ち上がる。その時、隣から低く優しい声がした。
「……ソれは、俺も、同感、ダ……」
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