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オマケ
*そんな午後の話2
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「……タイキ様」
夜半。そろそろ眠ろうかと思っていた泰樹は、かろうじて気付くくらい控え目なノックに慌てて扉を開けた。そこに立っていたのは、いつになく緊張した面持ちのシーモスだった。
「……その……ゴメン!」
その顔を見た瞬間、開口一番に泰樹は謝罪する。
「アンタの気持ちとか、そう言うの全然考えもせずに、魔人になりたいとか、わがまま言って……ゴメン。でも、嘘じゃねえから! アンタとずっと一緒にいたいのはホントだから! だから……」
「タイキ様。私の方こそ、貴方をただ避けて……大人げございませんでした。申し訳ございません」
言い募ろうとする泰樹に、シーモスは深々と頭を下げる。
「ううん。良いんだ。……なあ、シーモス。今すぐ抱いてくれ、とは言わないからさ。せめて、話、させてくれ。アンタの声が聞きたい。アンタの顔がちゃんと見たいよ……」
素直に心の内を吐き出す泰樹は、今にも泣き出しそうに顔を歪ませている。
その頬に、シーモスはそっと手のひらを寄せた。
「お話が有ります。長いお話です、タイキ様。聞いて、下さいますか?」
「うん。全部、話してくれ」
二人がけのソファーに一緒におさまって、ぽつりぽつりと、シーモスは言葉を探しながら、昔話をする。
初恋の人に、手ひどく裏切られたこと。
それから、他人が言う恋だの愛だのと言った言葉が心からは信じられないこと。
誰かと身体を重ねることは、食事で有り遊びに過ぎないと思っていたこと。
それは多分、これからも変わらないこと。
泰樹が『魔の者』になれば、人間の食用奴隷を囲うようになること。
それが、心苦しいこと。
この島に来るまで、どんな生活をしていたのか。
長い長い、魔の者の生。楽しかったことも、苦しかったことも。
ようやく全てを言葉にして、シーモスはそっと息を吐き出した。
「……私は、長い間誰かに期待したことなどございませんでした。誰かを心から求めたことなどございませんでした。上辺だけの甘い言葉をささやいて……全ては私の手のひらの中、私の玩具。それで構わない、それで良いと思っておりました」
眼鏡の奥で、遊色の瞳が揺れている。それがシーモスのおびえる心を写していて。泰樹は何も言えずに、ぐっと眉を寄せた。
「……」
「でも、それでも。貴方は……タイキ様はそんな私と一緒にいたいと思って下さいます、か?」
うつむいて、シーモスは指を組んだ。褐色の肌が白っぽくなるほど、きつく、祈りを捧げるように。薄い肩が小さく震えている。
器用なようで不器用で、気が多いようで一途で、憶病な。そんな魔人が、今はとても小さく見える。
何も言葉に出来なかったから、泰樹はその代わりにぎゅっと目の前にいるシーモスを抱き寄せた。
「……うん。話してくれて、ありがと。でも、アンタが、『もう飽きた』って言っても、放してやらないから。アンタが不安なら、何度だってこう、するから。俺と一緒にいて。俺と一緒に生きて」
「……タイキ、様ぁ……っ」
温かい。その温もりに、勇気を与えられる。
気がつけば、遊色の瞳から大粒の涙がこぼれだしていた。手放したくない。いつまでもこうしていたい。この人と一緒に、ずっと一緒にいたい。
そっと、広い背中に手を伸ばす。抱き寄せてくれる、腕にいっそう温もりが点る。
「……信じて、よろしいのですか? 貴方を」
「うん。もし俺がアンタを裏切ったら、その時はアンタに……」
殺されても良いよ。そう、続けようとした言葉は、不意打ちのキスにかき消された。
微笑み交わす。口付けを重ねて、場所を移すことすらもどかしくて。狭いソファーの上に、倒れこむ。
手探りで、衣服の留め具を探す。はだけた胸元に、何度も跡を刻む。
「……んっ……は、ぁ……っ」
どこをどうしたら、泰樹が悦ぶのか。シーモスには全て解っている。快楽に頓着していなかった身体に、繰り返し教え込んだのは自分、なのだから。
「ああ……」
「……もっと。もっと、触って……俺はアンタのモノだから。アンタに触ってもらえて、いま、めちゃくちゃうれしい……」
泰樹が差し伸べる腕におさまって、シーモスは胸元に顔を埋めた。
柔らかな胸の奥で高鳴る、泰樹の鼓動が耳をくすぐる。
「……私のモノ、だと、貴方はずっとそうおっしゃっていましたね」
「うん。俺、もうアンタだけのモノだから……ひどくしても良いから……何も言わずに手放さないで」
シーモスの頬に、おずおずと手のひらが添えられる。そっと顔を引き寄せて、愛しむように頬に額に唇が触れる。
「ひどくされても、よろしいんですか?」
「……うん。俺がおかしくなるくらい気持ち良くて溺れてるの、アンタは好き、だろ?」
「……はい。大好き、でございます」
ふっと浮かべたシーモスの微笑みは、とてもうれしそうだった。
「……はっ、ぁ、あ、あ、あぁっ……!」
ぐちゅ、ぐちゅりと淫猥な水音が響く。
シーモスの整えられた指先が、良く馴染んだ泰樹の内壁を引っかく度に、泰樹の口から艶めいた声が上がる。
「んぅ、あっ! そこぉ……っ」
「ここですね?」
「ひうっ!? あ、あっ……ソコ、だめぇ……っ」
びくんと背をそらせて、泰樹はシーモスの愛撫を待ちわびる。
先走りが止まらない性器を、根元から先端に向けて強く扱かれる。同時に前立腺を押し込まれれば、泰樹は呆気なく達してしまう。
「タイキ様……」
「ア、アンタがぜんぜん触ってくんねーから、その……溜まってたんだよ!」
「……すみません。少し意地悪をしたくなりまして」
恥ずかしさに耐えられずに目をそらす泰樹を、シーモスは優しく抱きしめた。
「シーモ……ス……?」
「……私もですよ。寂しかった……」
シーモスの指先は、すっかり硬く張りつめた泰樹の陰茎をなぞっていた。
指先で弄ぶようにして、射精したばかりの泰樹を刺激していく。
「ん、ちょ、ちょっと待って……今イッたばっかで……」
「タイキ様のお好きなやり方で、たくさんイカせてさしあげます……」
「ちが、そういう意味じゃねえ、から……っ!!」
抗議の声を上げようと開いた口を、シーモスは自らのそれで塞いだ。
舌同士が絡み合い、互いの唾液を交換するような深い口付けを繰り返す。
その間も、シーモスの手は泰樹の敏感になった部分を的確に攻め立てる。
「ン……っ……ふ、ぁ……ん、んっ」
鼻から抜ける息すらも甘い。
一度精を放った泰樹のそこは、またすぐに頭を持ち上げていた。
「……はぁ……タイキ様」
名残惜しげに唇を離して、シーモスは膝立ちになって泰樹を見下ろした。
熱っぽく潤んだ遊色の瞳に見据えられて、泰樹の心臓が大きく跳ねる。
「あ……」
「挿れてもよろしいですか? 貴方と一つになりたい……」
耳元にささやく、甘く滑らかな声。それだけで、全身にさざ波のような喜びが広がる気がした。
「いいよ……来て」
泰樹の言葉を受けて、シーモスはその褐色の肌をさらしていく。
華奢な肢体が露わになる頃には、泰樹は無意識のうちに腰を揺らめかせて、シーモスを誘っていた。
「そんなに急かさなくても、大丈夫です」
苦笑を浮かべて、シーモスは自らの先端を泰樹の後孔にあてがった。
「っ……は、ァ……」
期待感から、泰樹の喉がごくりと上下する。
シーモスは泰樹の呼吸に合わせて、ゆっくりと自身を沈めていった。
「あっ……すご……ぃ……っ」
待ち望んだ質量に、泰樹は思わず歓喜の吐息を漏らした。
「タイキ様の中、とても熱いですね。それに、すごく締め付けてきて……ああ、そんなに欲しかったのですね」
「ん……っ……だって……ずっと……っ」
「ええ。寂しくさせてしまって申し訳ありませんでした」
「ひっ、やあぁっ……!」
深く突き上げられて、泰樹はシーモスの首筋にすがりついた。
「はぁ……すごい……中、溶けそうになっていますね……」
「言うな……って……!」
「どうして?」
「なんか、恥ずかしい、から……」
「恥ずかしいところも、全部見せてくださいませ」
「ひゃああっ!?」
ぐりっと奥を突かれて、泰樹は悲鳴じみた声を上げた。
そのまま激しく抽挿を繰り返されて、泰樹の理性はすぐに飛んでしまう。
「あ、あ、あ、あ、あ、あぅっ……! だめ、やだぁ……!! 激し……すぎ……る……ッ!」
「駄目、ですか?」
「だめじゃない、けどぉ……! きもちよすぎ、て、おかしくなりそ……だからぁ……!」
「ふふふ。それは良いことをお聞きしました」
「なんで、笑うんだよぉ……!」
「いえ、うれしいんですよ。私は」
シーモスは泰樹の頬に手を添えて、優しく微笑んでみせた。
「貴方は正直な方だから。素直なお気持ちを聞かせていただけると、私はとてもうれしくて、しあわせになれるのです」
「そ、か……よかった……ぁ……っ」
シーモスの笑顔を見て安心したのか、泰樹はふわりと微笑んだ。
「アンタのこと、好きだ……こうして、気持ちいいこと、してくんなくても……きっと、ずっと……好きぃ。アンタがいてくれれば、俺はそれでいいから……っ……んぅ!?」
シーモスは泰樹の言葉を聞くと、貪るように唇を塞いでしまった。
「んぅ……っ……は、んむっ……」
言葉など要らない。そんな不確かなモノより、こうして繋がっている肌の温もりの方が何倍も愛おしいと思える。
「タイキ様……!」
「あっ……!? あっ、あっ、あっ、あっ……!」
激しい動きに翻弄されながらも、泰樹はシーモスにしがみついて懸命に応えた。
「だめ……だめぇ……! またイクぅ……!!」
びゅくりと白濁を吐き出しながら絶頂を迎えると同時に、体内がぎゅうううっと収縮する。その強烈な刺激に耐えきれず、シーモスも泰樹の中に熱情を注ぎ込んだ。
「はぁ……ぁ……あつ……ぃ……」
体内に注がれる感覚に身震いし、泰樹は甘えるようにシーモスにしがみつく腕の力を強める。
「タイキ様」
優しく名を呼ばれて顔を上げると、額に口づけられる。それから、優しく頭を撫でられた。
「ん……シーモス……」
「……私は、今でも言葉と言うモノを完全には信じておりません。貴方の仰ることは全て幻だと心のどこかで思うことを止められません」
「うん……」
シーモスが紡ぐ言葉を遮らずに、泰樹はただ静かに聞いていた。
「それでも、私は……私の心は、どうしようもなく貴方を求めてしまう」
「……うん」
「だから、私は……怖い。とても怖い。貴方に捨てられたく無い。貴方の心変わりを一番恐れている。……もしそうなってしまったら、私はもう正気では居られないでしょう」
「……ばーか」
泰樹は笑って、不意にシーモスの鼻先を摘まんだ。シーモスは驚いて、眼を見はる。
「俺、何もかもを捨てて、ここに帰ってきたんだぜ? それはアンタと一緒にいるためだよ。それがわかってるくせに、そんなこと言ってんじゃねえよ」
「はい……」
「それに、もしもさ。アンタの心配するとおり、俺たちがいつか別れる日が来るとする。絶対なんて、きっと無いから。でもさ、そんな未来のこと、いま考える必要あるか?」
「……」
「もしそんな事になっても、それまでは一緒にいようぜ? そのために、俺はやっぱり魔人になりたい。アンタに反対されてもさ。……それじゃ、だめかな?」
「そう、ですね……」
シーモスは温かな、泰樹の身体を抱き寄せた。
未来なんてきっと誰にも解らない。でも、泰樹の言葉に、嘘は無い。信じたい。信じてみたい。何もかも捨てて、身一つで戻ってきてくれた泰樹を。初めて、シーモスは心からそう思った。
「……でも、今はもう少し、人間でいてください。もっと貴方を味わいたいのです。もっと貴方を感じたいのです。そして、私に『献血』してくださいませ! 私に全てを捧げてくださいませ!」
吹っ切れたように、魔人は笑う。それから、シーモスは泰樹の頬を引き寄せて口付けた。泰樹は慌てて、目を丸くする。
「さあ! 続きを。始めましょう?」
「ちょっ……まだやんのかよ!?」
「まだまだ足りません。貴方を避けていた分も、もっともっと貴方を愛でたいのです。どうかお付き合いくださいませ!」
「あっ……やめっ……! ちょっと待っ……あああっ!」
結局、二人の交わりは、明け方になっても互いに満ち足りるまで続いた。
「アルダー!」
数日後。私室の前で仕事終わりのアルダーを待っていたのは、満面の笑みを浮かべた泰樹だった。
「ありがと! アイツに話してくれたんだろ?」
「ああ。話はしておいた。……その様子だと上手く話はまとまったんだな」
泰樹の様子に、アルダーはふっと表情を柔らかくする。
「うん! 魔人になる話はもう少し待って欲しいって言われちゃったけどな。でも、根っから反対って感じじゃ無くなった」
「そうか。それなら一段落だな」
「うん! それに……それに、たくさん、シてくれた、し……」
「そうか……良かったな」
恥ずかしげに目をそらす泰樹に、アルダーは内心でため息をついた。腕を組み、遠い目でうなずく。恋人たちのいざこざは、魔獣も食わない。やれやれ。
「それで? 今日はそれを報告しに来たのか?」
「あ、うん。それもある、けど、今日はコレ。色々聞いて貰ったから、お礼に持ってきたんだ」
泰樹は赤い包みを差し出す。そのパッケージには、コーヒー豆とコーヒーカップが描かれている。
「これ、ブラジルってとこのコーヒー豆。深煎り。多分アンタの好みだと思う」
「ブラジル……初めて聞く名だな。有り難う」
コーヒー豆の包みを受け取って、アルダーは早速封を切った。薫り高い豆を一粒つまみだし、鼻で嗅いでみてから口に放り込む。
「……うむ。なるほど。確かにこれは美味いな。早速淹れてみよう。お前も飲んでいくか?」
「あ、うん! 飲んでみたい! あ、そーだ。シーモスとイリスも呼んで良いか? 後、シャルも」
「……シャル、も?」
泰樹の口から飛び出した名前に、アルダーは驚いたように瞬いた。
「うん。だって、あんたら付き合ってるだろ?」
「……は、ぁ?! そ、それは、だな……?!」
確かに、シャルとは身体をつなげる関係が続いている。好きだとも、何度も言われている。泰樹はそれを気付いていて、嬉しそうに笑う。
ああ、こいつの笑い顔を見ていると、色々なことがどうでも良くなる。泰樹の顔をまじまじと見つめて、アルダーは自然と微笑んでいた。
「……ああ、そうだな。あいつのことは嫌いじゃ無い。わかった。いいぞ。人数分用意してやるから、早く呼んでこい。……ああ、なんなら庭で茶会にでもするか?」
「うん! それ楽しそう! ありがとな!」
泰樹はうなずいて、うれしそうに駆けだして行く。アルダーはほんの少しだけ苦笑して、私室の扉を開けた。
END
あニキさんにいただいた、完結記念のイラストです!
夜半。そろそろ眠ろうかと思っていた泰樹は、かろうじて気付くくらい控え目なノックに慌てて扉を開けた。そこに立っていたのは、いつになく緊張した面持ちのシーモスだった。
「……その……ゴメン!」
その顔を見た瞬間、開口一番に泰樹は謝罪する。
「アンタの気持ちとか、そう言うの全然考えもせずに、魔人になりたいとか、わがまま言って……ゴメン。でも、嘘じゃねえから! アンタとずっと一緒にいたいのはホントだから! だから……」
「タイキ様。私の方こそ、貴方をただ避けて……大人げございませんでした。申し訳ございません」
言い募ろうとする泰樹に、シーモスは深々と頭を下げる。
「ううん。良いんだ。……なあ、シーモス。今すぐ抱いてくれ、とは言わないからさ。せめて、話、させてくれ。アンタの声が聞きたい。アンタの顔がちゃんと見たいよ……」
素直に心の内を吐き出す泰樹は、今にも泣き出しそうに顔を歪ませている。
その頬に、シーモスはそっと手のひらを寄せた。
「お話が有ります。長いお話です、タイキ様。聞いて、下さいますか?」
「うん。全部、話してくれ」
二人がけのソファーに一緒におさまって、ぽつりぽつりと、シーモスは言葉を探しながら、昔話をする。
初恋の人に、手ひどく裏切られたこと。
それから、他人が言う恋だの愛だのと言った言葉が心からは信じられないこと。
誰かと身体を重ねることは、食事で有り遊びに過ぎないと思っていたこと。
それは多分、これからも変わらないこと。
泰樹が『魔の者』になれば、人間の食用奴隷を囲うようになること。
それが、心苦しいこと。
この島に来るまで、どんな生活をしていたのか。
長い長い、魔の者の生。楽しかったことも、苦しかったことも。
ようやく全てを言葉にして、シーモスはそっと息を吐き出した。
「……私は、長い間誰かに期待したことなどございませんでした。誰かを心から求めたことなどございませんでした。上辺だけの甘い言葉をささやいて……全ては私の手のひらの中、私の玩具。それで構わない、それで良いと思っておりました」
眼鏡の奥で、遊色の瞳が揺れている。それがシーモスのおびえる心を写していて。泰樹は何も言えずに、ぐっと眉を寄せた。
「……」
「でも、それでも。貴方は……タイキ様はそんな私と一緒にいたいと思って下さいます、か?」
うつむいて、シーモスは指を組んだ。褐色の肌が白っぽくなるほど、きつく、祈りを捧げるように。薄い肩が小さく震えている。
器用なようで不器用で、気が多いようで一途で、憶病な。そんな魔人が、今はとても小さく見える。
何も言葉に出来なかったから、泰樹はその代わりにぎゅっと目の前にいるシーモスを抱き寄せた。
「……うん。話してくれて、ありがと。でも、アンタが、『もう飽きた』って言っても、放してやらないから。アンタが不安なら、何度だってこう、するから。俺と一緒にいて。俺と一緒に生きて」
「……タイキ、様ぁ……っ」
温かい。その温もりに、勇気を与えられる。
気がつけば、遊色の瞳から大粒の涙がこぼれだしていた。手放したくない。いつまでもこうしていたい。この人と一緒に、ずっと一緒にいたい。
そっと、広い背中に手を伸ばす。抱き寄せてくれる、腕にいっそう温もりが点る。
「……信じて、よろしいのですか? 貴方を」
「うん。もし俺がアンタを裏切ったら、その時はアンタに……」
殺されても良いよ。そう、続けようとした言葉は、不意打ちのキスにかき消された。
微笑み交わす。口付けを重ねて、場所を移すことすらもどかしくて。狭いソファーの上に、倒れこむ。
手探りで、衣服の留め具を探す。はだけた胸元に、何度も跡を刻む。
「……んっ……は、ぁ……っ」
どこをどうしたら、泰樹が悦ぶのか。シーモスには全て解っている。快楽に頓着していなかった身体に、繰り返し教え込んだのは自分、なのだから。
「ああ……」
「……もっと。もっと、触って……俺はアンタのモノだから。アンタに触ってもらえて、いま、めちゃくちゃうれしい……」
泰樹が差し伸べる腕におさまって、シーモスは胸元に顔を埋めた。
柔らかな胸の奥で高鳴る、泰樹の鼓動が耳をくすぐる。
「……私のモノ、だと、貴方はずっとそうおっしゃっていましたね」
「うん。俺、もうアンタだけのモノだから……ひどくしても良いから……何も言わずに手放さないで」
シーモスの頬に、おずおずと手のひらが添えられる。そっと顔を引き寄せて、愛しむように頬に額に唇が触れる。
「ひどくされても、よろしいんですか?」
「……うん。俺がおかしくなるくらい気持ち良くて溺れてるの、アンタは好き、だろ?」
「……はい。大好き、でございます」
ふっと浮かべたシーモスの微笑みは、とてもうれしそうだった。
「……はっ、ぁ、あ、あ、あぁっ……!」
ぐちゅ、ぐちゅりと淫猥な水音が響く。
シーモスの整えられた指先が、良く馴染んだ泰樹の内壁を引っかく度に、泰樹の口から艶めいた声が上がる。
「んぅ、あっ! そこぉ……っ」
「ここですね?」
「ひうっ!? あ、あっ……ソコ、だめぇ……っ」
びくんと背をそらせて、泰樹はシーモスの愛撫を待ちわびる。
先走りが止まらない性器を、根元から先端に向けて強く扱かれる。同時に前立腺を押し込まれれば、泰樹は呆気なく達してしまう。
「タイキ様……」
「ア、アンタがぜんぜん触ってくんねーから、その……溜まってたんだよ!」
「……すみません。少し意地悪をしたくなりまして」
恥ずかしさに耐えられずに目をそらす泰樹を、シーモスは優しく抱きしめた。
「シーモ……ス……?」
「……私もですよ。寂しかった……」
シーモスの指先は、すっかり硬く張りつめた泰樹の陰茎をなぞっていた。
指先で弄ぶようにして、射精したばかりの泰樹を刺激していく。
「ん、ちょ、ちょっと待って……今イッたばっかで……」
「タイキ様のお好きなやり方で、たくさんイカせてさしあげます……」
「ちが、そういう意味じゃねえ、から……っ!!」
抗議の声を上げようと開いた口を、シーモスは自らのそれで塞いだ。
舌同士が絡み合い、互いの唾液を交換するような深い口付けを繰り返す。
その間も、シーモスの手は泰樹の敏感になった部分を的確に攻め立てる。
「ン……っ……ふ、ぁ……ん、んっ」
鼻から抜ける息すらも甘い。
一度精を放った泰樹のそこは、またすぐに頭を持ち上げていた。
「……はぁ……タイキ様」
名残惜しげに唇を離して、シーモスは膝立ちになって泰樹を見下ろした。
熱っぽく潤んだ遊色の瞳に見据えられて、泰樹の心臓が大きく跳ねる。
「あ……」
「挿れてもよろしいですか? 貴方と一つになりたい……」
耳元にささやく、甘く滑らかな声。それだけで、全身にさざ波のような喜びが広がる気がした。
「いいよ……来て」
泰樹の言葉を受けて、シーモスはその褐色の肌をさらしていく。
華奢な肢体が露わになる頃には、泰樹は無意識のうちに腰を揺らめかせて、シーモスを誘っていた。
「そんなに急かさなくても、大丈夫です」
苦笑を浮かべて、シーモスは自らの先端を泰樹の後孔にあてがった。
「っ……は、ァ……」
期待感から、泰樹の喉がごくりと上下する。
シーモスは泰樹の呼吸に合わせて、ゆっくりと自身を沈めていった。
「あっ……すご……ぃ……っ」
待ち望んだ質量に、泰樹は思わず歓喜の吐息を漏らした。
「タイキ様の中、とても熱いですね。それに、すごく締め付けてきて……ああ、そんなに欲しかったのですね」
「ん……っ……だって……ずっと……っ」
「ええ。寂しくさせてしまって申し訳ありませんでした」
「ひっ、やあぁっ……!」
深く突き上げられて、泰樹はシーモスの首筋にすがりついた。
「はぁ……すごい……中、溶けそうになっていますね……」
「言うな……って……!」
「どうして?」
「なんか、恥ずかしい、から……」
「恥ずかしいところも、全部見せてくださいませ」
「ひゃああっ!?」
ぐりっと奥を突かれて、泰樹は悲鳴じみた声を上げた。
そのまま激しく抽挿を繰り返されて、泰樹の理性はすぐに飛んでしまう。
「あ、あ、あ、あ、あ、あぅっ……! だめ、やだぁ……!! 激し……すぎ……る……ッ!」
「駄目、ですか?」
「だめじゃない、けどぉ……! きもちよすぎ、て、おかしくなりそ……だからぁ……!」
「ふふふ。それは良いことをお聞きしました」
「なんで、笑うんだよぉ……!」
「いえ、うれしいんですよ。私は」
シーモスは泰樹の頬に手を添えて、優しく微笑んでみせた。
「貴方は正直な方だから。素直なお気持ちを聞かせていただけると、私はとてもうれしくて、しあわせになれるのです」
「そ、か……よかった……ぁ……っ」
シーモスの笑顔を見て安心したのか、泰樹はふわりと微笑んだ。
「アンタのこと、好きだ……こうして、気持ちいいこと、してくんなくても……きっと、ずっと……好きぃ。アンタがいてくれれば、俺はそれでいいから……っ……んぅ!?」
シーモスは泰樹の言葉を聞くと、貪るように唇を塞いでしまった。
「んぅ……っ……は、んむっ……」
言葉など要らない。そんな不確かなモノより、こうして繋がっている肌の温もりの方が何倍も愛おしいと思える。
「タイキ様……!」
「あっ……!? あっ、あっ、あっ、あっ……!」
激しい動きに翻弄されながらも、泰樹はシーモスにしがみついて懸命に応えた。
「だめ……だめぇ……! またイクぅ……!!」
びゅくりと白濁を吐き出しながら絶頂を迎えると同時に、体内がぎゅうううっと収縮する。その強烈な刺激に耐えきれず、シーモスも泰樹の中に熱情を注ぎ込んだ。
「はぁ……ぁ……あつ……ぃ……」
体内に注がれる感覚に身震いし、泰樹は甘えるようにシーモスにしがみつく腕の力を強める。
「タイキ様」
優しく名を呼ばれて顔を上げると、額に口づけられる。それから、優しく頭を撫でられた。
「ん……シーモス……」
「……私は、今でも言葉と言うモノを完全には信じておりません。貴方の仰ることは全て幻だと心のどこかで思うことを止められません」
「うん……」
シーモスが紡ぐ言葉を遮らずに、泰樹はただ静かに聞いていた。
「それでも、私は……私の心は、どうしようもなく貴方を求めてしまう」
「……うん」
「だから、私は……怖い。とても怖い。貴方に捨てられたく無い。貴方の心変わりを一番恐れている。……もしそうなってしまったら、私はもう正気では居られないでしょう」
「……ばーか」
泰樹は笑って、不意にシーモスの鼻先を摘まんだ。シーモスは驚いて、眼を見はる。
「俺、何もかもを捨てて、ここに帰ってきたんだぜ? それはアンタと一緒にいるためだよ。それがわかってるくせに、そんなこと言ってんじゃねえよ」
「はい……」
「それに、もしもさ。アンタの心配するとおり、俺たちがいつか別れる日が来るとする。絶対なんて、きっと無いから。でもさ、そんな未来のこと、いま考える必要あるか?」
「……」
「もしそんな事になっても、それまでは一緒にいようぜ? そのために、俺はやっぱり魔人になりたい。アンタに反対されてもさ。……それじゃ、だめかな?」
「そう、ですね……」
シーモスは温かな、泰樹の身体を抱き寄せた。
未来なんてきっと誰にも解らない。でも、泰樹の言葉に、嘘は無い。信じたい。信じてみたい。何もかも捨てて、身一つで戻ってきてくれた泰樹を。初めて、シーモスは心からそう思った。
「……でも、今はもう少し、人間でいてください。もっと貴方を味わいたいのです。もっと貴方を感じたいのです。そして、私に『献血』してくださいませ! 私に全てを捧げてくださいませ!」
吹っ切れたように、魔人は笑う。それから、シーモスは泰樹の頬を引き寄せて口付けた。泰樹は慌てて、目を丸くする。
「さあ! 続きを。始めましょう?」
「ちょっ……まだやんのかよ!?」
「まだまだ足りません。貴方を避けていた分も、もっともっと貴方を愛でたいのです。どうかお付き合いくださいませ!」
「あっ……やめっ……! ちょっと待っ……あああっ!」
結局、二人の交わりは、明け方になっても互いに満ち足りるまで続いた。
「アルダー!」
数日後。私室の前で仕事終わりのアルダーを待っていたのは、満面の笑みを浮かべた泰樹だった。
「ありがと! アイツに話してくれたんだろ?」
「ああ。話はしておいた。……その様子だと上手く話はまとまったんだな」
泰樹の様子に、アルダーはふっと表情を柔らかくする。
「うん! 魔人になる話はもう少し待って欲しいって言われちゃったけどな。でも、根っから反対って感じじゃ無くなった」
「そうか。それなら一段落だな」
「うん! それに……それに、たくさん、シてくれた、し……」
「そうか……良かったな」
恥ずかしげに目をそらす泰樹に、アルダーは内心でため息をついた。腕を組み、遠い目でうなずく。恋人たちのいざこざは、魔獣も食わない。やれやれ。
「それで? 今日はそれを報告しに来たのか?」
「あ、うん。それもある、けど、今日はコレ。色々聞いて貰ったから、お礼に持ってきたんだ」
泰樹は赤い包みを差し出す。そのパッケージには、コーヒー豆とコーヒーカップが描かれている。
「これ、ブラジルってとこのコーヒー豆。深煎り。多分アンタの好みだと思う」
「ブラジル……初めて聞く名だな。有り難う」
コーヒー豆の包みを受け取って、アルダーは早速封を切った。薫り高い豆を一粒つまみだし、鼻で嗅いでみてから口に放り込む。
「……うむ。なるほど。確かにこれは美味いな。早速淹れてみよう。お前も飲んでいくか?」
「あ、うん! 飲んでみたい! あ、そーだ。シーモスとイリスも呼んで良いか? 後、シャルも」
「……シャル、も?」
泰樹の口から飛び出した名前に、アルダーは驚いたように瞬いた。
「うん。だって、あんたら付き合ってるだろ?」
「……は、ぁ?! そ、それは、だな……?!」
確かに、シャルとは身体をつなげる関係が続いている。好きだとも、何度も言われている。泰樹はそれを気付いていて、嬉しそうに笑う。
ああ、こいつの笑い顔を見ていると、色々なことがどうでも良くなる。泰樹の顔をまじまじと見つめて、アルダーは自然と微笑んでいた。
「……ああ、そうだな。あいつのことは嫌いじゃ無い。わかった。いいぞ。人数分用意してやるから、早く呼んでこい。……ああ、なんなら庭で茶会にでもするか?」
「うん! それ楽しそう! ありがとな!」
泰樹はうなずいて、うれしそうに駆けだして行く。アルダーはほんの少しだけ苦笑して、私室の扉を開けた。
END
あニキさんにいただいた、完結記念のイラストです!
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