水底の宮殿~まだ恋知らぬ姫巫女は~

夏眠

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12.世界の崩壊(2)

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 ルディグナは、地上での暮らしでは足枷などで不自由な思いをしてきた分、水底の宮殿では自由に泳ぎまわりたかった。願ったことはただそれだけ。
 けれど、そんなささやかな願いさえももう叶わない。

(ーーこれまでの自分の人生はいったい何だったのだろう?)
 ルディグナは、絶望感に包まれていた。

「姫様、どうなされました?」
 大巫女が尋ねても、少女は何も答えなかった。否、答えることができなかった。

(わたしはただ美しい尾ビレが欲しかった。それで水のなかを泳いでみたかった。決して大勢の侍女を従えて、贅沢な暮らしをしたいわけではなかったのに……)
 ルディグナは、ショックのあまり、言葉を失っていた。

 けれど、大巫女は、少女の内心の葛藤も知らず、彼女を落ち着かせようとするかのように優しい声で話しかけた。
「姫様は、何もなさらずとも良いのです。これまでも、そしてここれからも。河の神の花嫁たるあなたさまはただそこにいらしてくださるだけで良いのです。」
 大巫女の口から出てきた言葉に、ルディグナは、さらに呆然となった。

 ルディグナの育ての親といっても過言ではない大巫女は、いつも彼女が喉が乾いたと思う前に冷たい水を持ってきてくれたし、新しい服が履き心地が悪いと思ったら直ぐに別の服を用意してくれていた。

 そんな生活のおかげで、ルディグナは、大巫女ならば、自分のことを何でもわかってくれているという錯覚に陥っていた。自分でも気がつかないうちに、大巫女に依存していたのだということに、ようやく彼女は気がついた。

 自分の御守役である大巫女ならば、ルディグナが口に出さずとも、あの夜、見知らぬ侵入者によってこの身を辱しめられたことをわかってくれると思い込んでいた。
 けれどそれは単なる甘えにしか過ぎなかったのだ。

 結局、人は他人の心の中まではわからないものなのだということに、ルディグナは生まれてはじめて気がつかされた。

 黙りこんでいるルディグナに対し、大巫女は問いかけた。
「わかりましたか、姫様」

「…………」
 ルディグナは、まるで赤子をあやすかのような大巫女の言葉に対して返事をすることができなかった。
 そのことに気がついた大巫女は、今度は厳しい口調で少女に問いかけた。
「なにゆえ、そのように強情をはられるのですか?!」

 ルディグナは、自分の思いを上手く言葉にすることができず唇を噛み締めた。
 それを反抗の意思ととらえたのか、大きなため息を一つつくと、大巫女は言った。

「外の景色が見たいとおっしゃるならば、輿を用意させましょう。ーー姫様はただお申し付けくだされば良いのです。さすれば、いつだって望みは叶うことでしょう。」
 大巫女は、まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調でそう言った。

 ーー違う、とルディグナは、叫びたかった。
(わたしは自分が楽をするために誰かの力を借りて生活したいわけではない。ただ水底の宮殿で尾ビレがもらえなくなってしまった以上、せめて自分の足で歩きたいと思っただけなのだ。
 けれど、わたしにはそんな願いを持つことすら許されぬことだというのか!?)

 ルディグナは、それまで自分のまわりにあった確かな手応えのあった世界が、がらがらと音を立てて崩れていくのを感じていた。
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