12 / 25
12.世界の崩壊(2)
しおりを挟む
ルディグナは、地上での暮らしでは足枷などで不自由な思いをしてきた分、水底の宮殿では自由に泳ぎまわりたかった。願ったことはただそれだけ。
けれど、そんなささやかな願いさえももう叶わない。
(ーーこれまでの自分の人生はいったい何だったのだろう?)
ルディグナは、絶望感に包まれていた。
「姫様、どうなされました?」
大巫女が尋ねても、少女は何も答えなかった。否、答えることができなかった。
(わたしはただ美しい尾ビレが欲しかった。それで水のなかを泳いでみたかった。決して大勢の侍女を従えて、贅沢な暮らしをしたいわけではなかったのに……)
ルディグナは、ショックのあまり、言葉を失っていた。
けれど、大巫女は、少女の内心の葛藤も知らず、彼女を落ち着かせようとするかのように優しい声で話しかけた。
「姫様は、何もなさらずとも良いのです。これまでも、そしてここれからも。河の神の花嫁たるあなたさまはただそこにいらしてくださるだけで良いのです。」
大巫女の口から出てきた言葉に、ルディグナは、さらに呆然となった。
ルディグナの育ての親といっても過言ではない大巫女は、いつも彼女が喉が乾いたと思う前に冷たい水を持ってきてくれたし、新しい服が履き心地が悪いと思ったら直ぐに別の服を用意してくれていた。
そんな生活のおかげで、ルディグナは、大巫女ならば、自分のことを何でもわかってくれているという錯覚に陥っていた。自分でも気がつかないうちに、大巫女に依存していたのだということに、ようやく彼女は気がついた。
自分の御守役である大巫女ならば、ルディグナが口に出さずとも、あの夜、見知らぬ侵入者によってこの身を辱しめられたことをわかってくれると思い込んでいた。
けれどそれは単なる甘えにしか過ぎなかったのだ。
結局、人は他人の心の中まではわからないものなのだということに、ルディグナは生まれてはじめて気がつかされた。
黙りこんでいるルディグナに対し、大巫女は問いかけた。
「わかりましたか、姫様」
「…………」
ルディグナは、まるで赤子をあやすかのような大巫女の言葉に対して返事をすることができなかった。
そのことに気がついた大巫女は、今度は厳しい口調で少女に問いかけた。
「なにゆえ、そのように強情をはられるのですか?!」
ルディグナは、自分の思いを上手く言葉にすることができず唇を噛み締めた。
それを反抗の意思ととらえたのか、大きなため息を一つつくと、大巫女は言った。
「外の景色が見たいとおっしゃるならば、輿を用意させましょう。ーー姫様はただお申し付けくだされば良いのです。さすれば、いつだって望みは叶うことでしょう。」
大巫女は、まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調でそう言った。
ーー違う、とルディグナは、叫びたかった。
(わたしは自分が楽をするために誰かの力を借りて生活したいわけではない。ただ水底の宮殿で尾ビレがもらえなくなってしまった以上、せめて自分の足で歩きたいと思っただけなのだ。
けれど、わたしにはそんな願いを持つことすら許されぬことだというのか!?)
ルディグナは、それまで自分のまわりにあった確かな手応えのあった世界が、がらがらと音を立てて崩れていくのを感じていた。
けれど、そんなささやかな願いさえももう叶わない。
(ーーこれまでの自分の人生はいったい何だったのだろう?)
ルディグナは、絶望感に包まれていた。
「姫様、どうなされました?」
大巫女が尋ねても、少女は何も答えなかった。否、答えることができなかった。
(わたしはただ美しい尾ビレが欲しかった。それで水のなかを泳いでみたかった。決して大勢の侍女を従えて、贅沢な暮らしをしたいわけではなかったのに……)
ルディグナは、ショックのあまり、言葉を失っていた。
けれど、大巫女は、少女の内心の葛藤も知らず、彼女を落ち着かせようとするかのように優しい声で話しかけた。
「姫様は、何もなさらずとも良いのです。これまでも、そしてここれからも。河の神の花嫁たるあなたさまはただそこにいらしてくださるだけで良いのです。」
大巫女の口から出てきた言葉に、ルディグナは、さらに呆然となった。
ルディグナの育ての親といっても過言ではない大巫女は、いつも彼女が喉が乾いたと思う前に冷たい水を持ってきてくれたし、新しい服が履き心地が悪いと思ったら直ぐに別の服を用意してくれていた。
そんな生活のおかげで、ルディグナは、大巫女ならば、自分のことを何でもわかってくれているという錯覚に陥っていた。自分でも気がつかないうちに、大巫女に依存していたのだということに、ようやく彼女は気がついた。
自分の御守役である大巫女ならば、ルディグナが口に出さずとも、あの夜、見知らぬ侵入者によってこの身を辱しめられたことをわかってくれると思い込んでいた。
けれどそれは単なる甘えにしか過ぎなかったのだ。
結局、人は他人の心の中まではわからないものなのだということに、ルディグナは生まれてはじめて気がつかされた。
黙りこんでいるルディグナに対し、大巫女は問いかけた。
「わかりましたか、姫様」
「…………」
ルディグナは、まるで赤子をあやすかのような大巫女の言葉に対して返事をすることができなかった。
そのことに気がついた大巫女は、今度は厳しい口調で少女に問いかけた。
「なにゆえ、そのように強情をはられるのですか?!」
ルディグナは、自分の思いを上手く言葉にすることができず唇を噛み締めた。
それを反抗の意思ととらえたのか、大きなため息を一つつくと、大巫女は言った。
「外の景色が見たいとおっしゃるならば、輿を用意させましょう。ーー姫様はただお申し付けくだされば良いのです。さすれば、いつだって望みは叶うことでしょう。」
大巫女は、まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調でそう言った。
ーー違う、とルディグナは、叫びたかった。
(わたしは自分が楽をするために誰かの力を借りて生活したいわけではない。ただ水底の宮殿で尾ビレがもらえなくなってしまった以上、せめて自分の足で歩きたいと思っただけなのだ。
けれど、わたしにはそんな願いを持つことすら許されぬことだというのか!?)
ルディグナは、それまで自分のまわりにあった確かな手応えのあった世界が、がらがらと音を立てて崩れていくのを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~
村雨 妖
恋愛
森で1人のんびり自由気ままな生活をしながら、たまに王都の冒険者のギルドで依頼を受け、魔物討伐をして過ごしていた”最強の魔法使い”の女の子、リーシャ。
ある依頼の際に彼女は3匹の小さな黒竜と出会い、一緒に生活するようになった。黒竜の名前は、ノア、ルシア、エリアル。毎日可愛がっていたのに、ある日突然黒竜たちは姿を消してしまった。代わりに3人の人間の男が家に現れ、彼らは自分たちがその黒竜だと言い張り、リーシャに自分たちの”番”にするとか言ってきて。
半信半疑で彼らを受け入れたリーシャだが、一緒に過ごすうちにそれが本当の事だと思い始めた。彼らはリーシャの気持ちなど関係なく自分たちの好きにふるまってくる。リーシャは彼らの好意に鈍感ではあるけど、ちょっとした言動にドキッとしたり、モヤモヤしてみたりて……お互いに振り回し、振り回されの毎日に。のんびり自由気ままな生活をしていたはずなのに、急に慌ただしい生活になってしまって⁉ 3人との出会いを境にいろんな竜とも出会うことになり、関わりたくない竜と人間のいざこざにも巻き込まれていくことに!※”小説家になろう”でも公開しています。※表紙絵自作の作品です。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる