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Act08 ホックギール/グランベース(機動陸兵軍総統基地)/特殊作戦群ハンガー
Act08-01
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「お爺ーッ! 本当にこれは、置いてゆくんだねェッ!」
その声に振り返った男は、古の物理学者のように巻いた白髪と口髭を蓄えていたが、それが何かの実験に失敗したかのように、逆立っていた。
クリッとした目をしており、深く刻まれた皺は、その男が常に不機嫌そうな表情を湛えていることを物語っている。
そのまま、G&B(ギグス&ブレイク=イースタンポリス・プロレスリング)に出場できそうな身体にツナギを着込み、その上にホックギールのメンテナンスクルー(整備班)が着る濃紺にパッションピンクといったツートンカラーのブルゾンをまとっており、左肩にはストームボート(突撃艇)のマークと、その下側にSP4175という文字が刺繍されている。
それらの全てが、ただでさえ印象深いのだが――。
そんな彼をさらに印象づけているのが、腰にぶら下げている大きなハンマーであった。
名をボミー・アン・クライドと言い、筋金入りの整備士である。
その体裁と相俟って『ジャンク屋ボミー』の通り名は、一部の筋では霹靂のごとく轟いている。
《ジャンク屋》とは、ゼッパー(突撃艇乗り)のスラングで整備士、もしくは整備班を指すものであり、彼らがゼップチェイサー(人型突撃艇)を傷めて還ると『こんなジャンク(ガラクタ)にしやがって』や『こんなジャンクを持ち込みやがって』等々、よく文句を言われたことに基因している。
「ああッ! ゼップ(ゼップチェイサー)はハンガーに残したままで良いッ!」
ボミーは女に答えると、頷いて見せた。
辺りは、RHB(ロベルトハインツボール)が起動する音やら、チェーンを巻く音、そしてクレーンを稼動させる音等が響き、怒鳴らなければ会話が成立しないほど騒々しかった。
「わかったッ! じゃあ、あとはLH2(Liquid H2=液体水素)とLOX (Liquid Oxygen=液体酸素)……。あとッ、バッテリーポッドはッ!」
「ああッ、もう積んであるッ!」
「そうッ!」
女は叫ぶと、その大きな体には不似合いなほどの身軽さで、クレーンのアームをつたい降りてきた。
〝Tahm !〟
と、丸く爪先の張ったポックブーツ(整備汎用型の踝までのブーツ)の厚底を、メタルブロックのフロアーに響かせた。
ふんわりと浮いた前髪をかき上げた手には、フィンガーレスグローブがはめられており、紫色に輝く髪は後ろで束ねて三つ編に結い、その先端は尻にまで達している。その淡く輝く紫の色が、彼女の色黒の肌にはよく映えていた。
薄手のゴーグルを、今は頭の上に差しかけ、まるで陸上アスリートのようにピッタリとした丈の短いタンクトップと、同様に切れ込みの激しいレーシングパンツとを身につけ、その両者ともが、豊満な彼女の肉を毀れさせている。
腰には幅広のベルトが斜めにかけられており、そこにドライバーやら、レンチパッドといった工具がずらりと差し込まれ、スクリュウガンを古のウエスタン映画に観るガンマンよろしくロウライドのホルスターに納め、そのホルスターの先端を右の太腿に結びとめている。
露出した肌は、メンブラナスワックス(membranous wax=皮膜保護性ワックス)を塗布しているせいか、艶をなし輝いて見える。
この透明に輝く人口の皮膜が、オイルはもとより、科学化合物やある程度の熱、擦り傷といったものから体を守ってくれている。ほとんど人体に影響はなく、皮膚の角質再生を促す効果も備えており、一部医療や美容においても利用されるほどである。元々、兵士に配給されているものであるが、整備班においてもそれが支給され、使用を半ば強制されているのである。
それゆえ、彼女のように薄着で作業をするのが、最早、普通であり、やたらとかさばる格好をする者はほとんどおらず、ボミーのようにツナギを着る者などは、彼でなければ、ノスタルジアン(懐古趣味者)と言って笑われたであろう。
「コリーンッ! 解除コードぶっ込み用の、シュリンジケーブルも忘れるなッ!」
「わかったーッ! パティッ! LOXをお願いッ!」
彼女はテキパキと支持に従い、そして支持を捌いてゆく。名をコリオーネ・テュチュと言い、若いがボミーの片腕である。
普段はおっとりとしており、そこから誰が、こんな彼女の姿を想像できるであろうか。
◆8時間前のこと――
そんな彼女が、パンプキンパイを焼こうと思い、その生地を練り始めた時である。
その声に振り返った男は、古の物理学者のように巻いた白髪と口髭を蓄えていたが、それが何かの実験に失敗したかのように、逆立っていた。
クリッとした目をしており、深く刻まれた皺は、その男が常に不機嫌そうな表情を湛えていることを物語っている。
そのまま、G&B(ギグス&ブレイク=イースタンポリス・プロレスリング)に出場できそうな身体にツナギを着込み、その上にホックギールのメンテナンスクルー(整備班)が着る濃紺にパッションピンクといったツートンカラーのブルゾンをまとっており、左肩にはストームボート(突撃艇)のマークと、その下側にSP4175という文字が刺繍されている。
それらの全てが、ただでさえ印象深いのだが――。
そんな彼をさらに印象づけているのが、腰にぶら下げている大きなハンマーであった。
名をボミー・アン・クライドと言い、筋金入りの整備士である。
その体裁と相俟って『ジャンク屋ボミー』の通り名は、一部の筋では霹靂のごとく轟いている。
《ジャンク屋》とは、ゼッパー(突撃艇乗り)のスラングで整備士、もしくは整備班を指すものであり、彼らがゼップチェイサー(人型突撃艇)を傷めて還ると『こんなジャンク(ガラクタ)にしやがって』や『こんなジャンクを持ち込みやがって』等々、よく文句を言われたことに基因している。
「ああッ! ゼップ(ゼップチェイサー)はハンガーに残したままで良いッ!」
ボミーは女に答えると、頷いて見せた。
辺りは、RHB(ロベルトハインツボール)が起動する音やら、チェーンを巻く音、そしてクレーンを稼動させる音等が響き、怒鳴らなければ会話が成立しないほど騒々しかった。
「わかったッ! じゃあ、あとはLH2(Liquid H2=液体水素)とLOX (Liquid Oxygen=液体酸素)……。あとッ、バッテリーポッドはッ!」
「ああッ、もう積んであるッ!」
「そうッ!」
女は叫ぶと、その大きな体には不似合いなほどの身軽さで、クレーンのアームをつたい降りてきた。
〝Tahm !〟
と、丸く爪先の張ったポックブーツ(整備汎用型の踝までのブーツ)の厚底を、メタルブロックのフロアーに響かせた。
ふんわりと浮いた前髪をかき上げた手には、フィンガーレスグローブがはめられており、紫色に輝く髪は後ろで束ねて三つ編に結い、その先端は尻にまで達している。その淡く輝く紫の色が、彼女の色黒の肌にはよく映えていた。
薄手のゴーグルを、今は頭の上に差しかけ、まるで陸上アスリートのようにピッタリとした丈の短いタンクトップと、同様に切れ込みの激しいレーシングパンツとを身につけ、その両者ともが、豊満な彼女の肉を毀れさせている。
腰には幅広のベルトが斜めにかけられており、そこにドライバーやら、レンチパッドといった工具がずらりと差し込まれ、スクリュウガンを古のウエスタン映画に観るガンマンよろしくロウライドのホルスターに納め、そのホルスターの先端を右の太腿に結びとめている。
露出した肌は、メンブラナスワックス(membranous wax=皮膜保護性ワックス)を塗布しているせいか、艶をなし輝いて見える。
この透明に輝く人口の皮膜が、オイルはもとより、科学化合物やある程度の熱、擦り傷といったものから体を守ってくれている。ほとんど人体に影響はなく、皮膚の角質再生を促す効果も備えており、一部医療や美容においても利用されるほどである。元々、兵士に配給されているものであるが、整備班においてもそれが支給され、使用を半ば強制されているのである。
それゆえ、彼女のように薄着で作業をするのが、最早、普通であり、やたらとかさばる格好をする者はほとんどおらず、ボミーのようにツナギを着る者などは、彼でなければ、ノスタルジアン(懐古趣味者)と言って笑われたであろう。
「コリーンッ! 解除コードぶっ込み用の、シュリンジケーブルも忘れるなッ!」
「わかったーッ! パティッ! LOXをお願いッ!」
彼女はテキパキと支持に従い、そして支持を捌いてゆく。名をコリオーネ・テュチュと言い、若いがボミーの片腕である。
普段はおっとりとしており、そこから誰が、こんな彼女の姿を想像できるであろうか。
◆8時間前のこと――
そんな彼女が、パンプキンパイを焼こうと思い、その生地を練り始めた時である。
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