Promise

時谷 創

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2話 紫のアネモネ

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「あれ? 今日は大学が忙しくて店が開けられなかったのかな?」

最初はそのように思っていたが、店の様子を伺っていると、
周囲にはゴミが落ちており、最近掃いた形跡もない。

シャッターに挟まれたチラシもそのままになっている。 

何かあったのだろうか。

店の裏側が名草さんの居住スペースになっているので、
そちらに向かうと「紫のアネモネ」が置かれていた。

紫のアネモネ、「あなたを信じて待つ」か。

花言葉の好きな名草さんらしいな。

そんな事を思いながら、住居部分に辿り着くと、
窓越しに椅子に腰掛ける名草さんの姿を見つける。

名草さんはぼーっとした表情を浮かべていたため、
声をかけるか迷うが、名草さんが心配なので窓越しに声をかける。

「名草さーん。私です、木崎 結愛です。
 やっと日本に帰って来ることができました!」

しかし名草さんは何の反応も示さない。

聞こえていないって言うより、心ここにあらずって感じだ。

一体どうしたんだろう。

しばらくそのまま立っていると、名草さんがこちらに目を向けて
一瞬笑顔を浮かべかかるが、すぐに悲しげな表情に変わって、
奥に引っ込んでいってしまう。

名草さんどうしたんだろう…私、何かしちゃったのかな…。

名草さんの事が凄く気にかかったが、あの様子では今すぐ話すのは難しいと判断し、
今日は家に帰る事にした。

次の日。

興味津々に私の事を詮索してくる友達に笑顔を振りまきながらも、
私はずっと名草さんの事が気がかりで仕方がなかった。

私じゃ名草さんの相談相手にはなれないかもしれないけど、力になりたい。

そんな事を考えながら自宅へと足を運んでいると、
帰路の途中で花屋さんがある事に気づいた。

「こんな所に花屋さんがあるんだ」

そういえば名草さんの家にアネモネがあったな…と思い、
店の中を歩いていると、ゼラニウムの花が目についた。

「この花の花言葉は確か…」

自分の覚えている花言葉が合っているかを店員さんに確認し、
正しい事が分かると、ゼラニウムを買い、名草さんの店へと向かう事にした。
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