色を、

Virgo_hyla

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プロローグ

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まだ物心つき始めてすぐ位の頃の記憶である。
僕は夏の間、年の離れた妹が産まれるのに備え祖父の家に預けられていた。

あの夏はとにかく美しかった。

今思えば、僕がこの半生を送る都市部特有の-セミの声が反響して陽炎になり、アスファルトの鉄板の上でジリジリとウェルダンまで焼かれていく-うざったい夏とは違い、祖父の家は緑と水が溢れていて、命の楽園であったような気すらする。

その中でも特に気に入ったのが、倉である。昔ながらの日本家屋で、倉もまた、下半分を白黒の格子で覆われて、まあるい不思議な装飾のついた典型的なやつであったが、あのひっそりとした涼しさが心地よかった。ちとカビ臭くもあったが、それは幼い僕の好奇心を刺激するスパイスでもあった。

倉の中は、当然祖父母の昔の持ち物や仕舞い込んである宝物、有象無象のガラクタで混沌としていたが、気まぐれにも倉は、幼い僕に恐らくその倉の持てる最高の宝を差し出したのである。

果たしてそれは一枚の地図であった。幼い僕はそれを「ちず」と呼ぶ事は知っていたが、日本がどこで、北はどっちでという事はぼんやりと聞きかじりの知識で知っているに過ぎなかった。故にこれが何を意味するどんなものなのか、僕は急いで祖父に聞きにいった。

祖父は勿体ぶって咳をして、懐かしげに黄ばんだそれを撫ぜた。
「ちずというやつでしょう。なにがかいてあるの?」
蝉の声に促されて僕は急かした。
「また懐かしいものを持ってきたなぁ」
「じいじ、なにがかいてあるの」
待てど暮らせど祖父は頷いてシワシワの手で同じくらい歳を重ねていそうな地図を撫ぜるばかりであった。
今思えば生きている時間幅が違かったのだから仕方ない、で済もうが、やはり幼い当時である。
「ねえったら、ねえ!」
と祖父の肘を揺すってみた。
ようやっと祖父は5秒くらいかけてのんびりため息を吐いて、すっと黄ばんだ指で一点を指した。
「じいちゃんはむかーし、このでっかい陸地の海の方から入ってだな、ぐるーっと、こう、この辺りを回る旅をしたことがある。こりゃ、その時の計画図だったかな。」
ふんふんと興奮で勝手に鼻が鳴る。
「うわあ、じいじはがいこくにいったことがあるの?アメリカ?」
「違わい、なんだったかな、この地図の時は....。うーん、日本より南西にある国だ。アメリカは日本から見て東だろう?」
「にしってさかな?きた、はうえでしょ、ひがしさんちはおとなりさん」
「方角の話だわい、
....


という風にとりとめもない会話したような気がする。
ともかく、僕はこの地図に出会って、祖父のかつて歩んだ道のりを知り、
学生時代に自分で歩んで見るに至った。
その経験は、中年となった今でも、僕の人生の中で、至高の輝きを放つ。

これは
あるでっかい陸地の海からずーっと奥地に攻めて入った、雄大な山脈の村で出会った少年の話である。
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