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しおりを挟む女神は手を合わせ、瞳を閉じている。
まるでどこかに祈りを捧げているように。
地下に降りて行くなんて普通はゾッとするんだけど。
光の柱に包まれているから平気なのだ。
しかも無数の光の泡から香りのいい成分が溶け出すように鼻をくすぐる。
とてもいい匂いなんだ。
ふかふかの布団に掛けた洗い立てのタオルケット状のシーツ。
横たわると肌触りと匂いの良さに、幾度となく手のひらで撫でたくなる。
その懐かしい爽やかさをいま実感しているように思う。
衣類など身に付けている意味がないほどに心地良いんだ。
くすぐったくて、いい気持ち。
裸の胸をこすり付けると小さな快楽になるのを中学になってから益々感じるようになっていた所だ。
無垢な赤子のように一糸まとわぬ姿となり、一夜のエクスタシーを内緒で味わっていたのを思い出すよ。
もう、あの頃に戻れないのが無念だ。
性的な行為に目覚めたばかりの年頃だ。
思春期もなにも消化不良のまま消えていくんだな。
酸いも甘いも知らぬまま、不完全燃焼のまま薄れていくのか。
死人に服なしだっけ。
江戸に行けば、こんな服はおかしいから。
最後に一度だけ、慰めをしてもいいかな。
神のそばで不謹慎だと、咎められるだろうか。
たとえ天罰が下るとしても、愛が欲しい。温もりが恋しい。
汗ばんでいたTシャツ、首から輪をくぐるように脱ぎ、ポイと捨てた。
上空にむかって飛んで行く。
綿のズボンもするりとさよなら。
思い残すものがないようにしたい。ズボンも上空に置いてけぼり。
パンツ一枚だけの俺。
目の前は女人といっても神様だ。
もちろん申し訳ない気持ちでいっぱいです。
光の柱が清らかすぎて、この身を浄化させてくれる気がして。
いま風呂上がりの冷房部屋のように、快適な気分だ。
きっと向こうへ着いたら、着替えは必至だし。
生まれたときと同じ姿で逝きたい。
◇
足元にひんやりとした感触が。
どこかの床の上に着地したようだ。
体にほんのりと重力が戻る。
光に包まれていたが、スッと天井が現れた。
光の柱は細くなって女神の周囲だけを照らしていた。
壁も現れて、ちいさな部屋にいるのがわかった。
聞いていた祠の中に到着したのだな。
女神は瞳を閉じて、手を合わせたままだ。
祠の出入り口と思われる方向に光源があった。
女神が扉に背を向けて立っている。
全裸でいるのは少し後ろめたい気持ちもある。
ほんの少しは抵抗があったから、そっと後ろを向いてしゃがんだ。
床は冷たいが痛くは感じない。
さっきまでの胸まわりの刺激が程よく残っていて、俺の手指は自分の肢体を縦横無尽にスティッキー。駆け巡っていた。
『どうやら無事に到着したようだ。いまは祠の中で異空間になる。外の世界とは切り離されている状況だ。ここで準備を整えねばな──』
背後に佇む女神の声が聴こえた。
俺は沈黙し、人間としての最後の身体に未練がましく触れていた。
『まず、お前は現代人のままではいかん』
そりゃそうだろうね。
『この時代に合わせたジョブを選ぶのだ。お前は何に成りたいのだ?』
元の中学生に戻りたいよ。
叶わぬ夢をいつまでも見ていたかった。
幸運を呼ぶ青い鳥になりたいな。
『殿様と侍以外なら、大抵大丈夫だ。さあ振り向いて希望を聞かせてみろ……うん? よほど暑かったようだなシャツを脱ぎ捨てるとは──』
ギクつ!
とした発言に冷汗が滴り落ちる。
暑さのせいじゃありません。
『まあいい、ジョブチェンジすれば服装もついてくる。──これ、時間を無駄にするでない。いったいなにをモゾモゾとしておるのだ? まだ飴をなめ終わってなかったのか』
女神が俺の背後から説明を入れてくれている。
いまちょっと振り向けそうにないから。
そのまま始めてくれないかな。
「ちょっと待ってくれ……」
俺にも募る思いがあって、俺なりのさよならの儀式を始めたのだ。
迷い、迷い生きてきた俺だが、親からもらった体に罪はないはずだ。
卑しいことがあるとするならそれは魂のほうだから。
清めたいだけなんだ。
うあ、いけない。
背後にいる女神の影が床に写り込んで、近づいて来るのが分かる。
時間をくれ!
ほんの少しでいい。
だれにも愛されなかった体が可愛そうで、慰めてやりたいだけなんだ。
そんな気持ちも知らずに、女神は。
今にも前方に回り込んでくる気配だった。
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