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しおりを挟む駒次郎に金策のあてがあることを伝えた。
彼は藁にも縋る思いで耳を澄ました。
──すると彼は目を見開いて、「グンが得るはずの報酬だろ」と怪訝そうにいう。
一応は遠慮をするみたいだが。
芝居小屋の楽屋だと人目がある。
込み入った話をするので、外へ出れないかというと、外出許可をもらってくれた。
ぶらりと町へでる。良いお天気だ。
ちょうど、三時のおやつ時だった。
ふたりは茶屋に入って腰を落ち着ける。
そこの客足は少なかった。
「おやじ──っ! 団子と茶を二人前!」
茶をすすっている場合ではないが、タダで入れる店がないから注文をした。
これで落ち着く。
「…いまは他に良い手立てがないから、打ち明けたんだけど」
手立てがあっても罪人コースを所望するのか、鉱山行きは御免だったんじゃないのかと諭すと駒次郎が相好を崩す。
「いいのか? 百両っていやぁ大金だぞ。すこしも手元に残らなくても」
俺は笑みを湛え、首を縦に振った。
ここまでして押してやらなきゃ、受け容れてくれない。悪人でない証拠だ。
そうまでしてやる甲斐がある。
「期日は十日。その日が来たら俺は忍びの里へ報告に戻る手筈なんだが。それまでにこの宿場で情報を集めなきゃいけなくてな」
「なるほど。ここに来たほんとのわけはそれだったのか」
「ただ…不安もあるんだ」
ポツリと漏らした俺を見て、駒次郎の表情がまた硬くなる。
「それはどんなことなのだ? 危ない橋ってことなのか?」
「いやその……」
俺は言葉を喉に詰まらせる。
危ない橋を渡らなければいけないかは、まだ知らないけど。俺の不安はそこじゃない。そこは寧ろワクワクしている。
肝心の綱隠れの里がどこにあるのかを知らないわけだ。
自分の里へ帰る道が分からないなんて、忍者として恥じ過ぎるからな。
かと言って、途中から入れ替わりました、なんて明かせるわけもないし。
ジョブチェンジというのが俺にも今一つ飲み込めていないんだよな。
職を転ずるというよりも、役を代行しているみたいだ。
もっとも本人の意思とか記憶とかないんだけど。
宿の食事のとき、お椀の中の味噌汁に自分の顔が映り込んだのを覚えている。
たしかに自分のブサ面だったし。
エンジンで選べる職業を指定すると、この世界に居るはずの誰かに取って代わるようなのだと理解しなければならない。
別世界からの住人が一人増えるというわけではないのだな。
逆に、こちら側の住人が一人、俺になって消えている。この解釈なのだ。
俺の不安内容はまさにそこ。
誰かに取って代わる以前のソイツの情報がまるでない状態。
唯一の手掛かりが、あの任命書となる。
「──おい、グンッ……グンッ!? そんなに深刻になることなのか?」
駒次郎の呼ぶ声にハッとして、我に返る。
「その任務内容はこなせそうか? おれに手伝えることはあるか?」
「里の名は、綱隠れと言うんだけど……里から出るの初めてでさぁ。戻る道に不安を覚えててね」
途中まで話すと駒次郎はぷっと噴き出した。
「あはは、迷子になっちゃったのか」
「そこ笑うよなぁ。どーも、お恥ずかしい限りです」
「その忍びの里なら迷っても仕方ないよ。鉱山の脇の道から山の奥へ入って行くみたいだよ。あそこは地元の人間も寄り付かないほど険しいからな」
そうか。里というのだから山奥になるのか。
うまく言えば、笑われずに済んだものを俺の馬鹿!
ほっこりとした駒次郎が問う。
「そういや、グンが里から受けた任務ってどんな内容だったんだ?」
それを聞かれてもよ。
答えられることはたかが知れている。
その件は女神が処理を済ませていたし、終わらせる必要がなかったからな。
これは忍者のサスケが請け負ったものだ。
その為にツナセ街道を抜けて宿場町へ行く。
その道中だったのだろう。
俺と少年忍者サスケが切り替わったのは。
その子が完全に消失されたわけではないはずだ。
三日後、俺がここから離脱すれば元に戻るはずだからな。
「答えられることはたかが知れているよ。コマさんにも助けてもらわなきゃだから話しておくけど、他言無用だよ。身内の大事に係わることだから」
駒次郎はコクコクと小刻みに頷いた。
任命書に記してあった内容を聞かせた。
☆
ツナセ街道の先の宿場町にて、情報を収集せよ。
収穫があれば良し。
その手で奴らから奪い返せば、なお良し。
決して無理を通すでない。いのちは大事にせよ。
情報だけでも良い、団子と饅頭を五十食分褒美に取らせよう。
例の奴らが持ち逃げした頭領の形見を持ち帰れば、報酬百両を取ってつかわす。
期限は十日以内。
少年忍者サスケは一旦、報告と身の安全のため里に帰還せよ。
追伸。
もしもの時に備えて、我らの伝家の宝刀をおぬしにも授ける。
綱の印をもって解き放ち、その身に開眼せよ。
綱隠れの里、里長 綱賀天内。
☆
「え……っと、そのためにもらった支度金が手持ちの3両…」
「ずいぶんと羽振りがいいんだな! 忍者界隈ってのは」
「おかげで救われるかも知れないんだから、喜ばなきゃね」
「そだな! ところでサスケってのがほんとの名なんだな」
「薬売りに扮しているのに、わたし忍者ですと大手を振って歩けないからね。忍びの名にはよくある名前みたいだよ。それで身バレするかもだから」
「あはは。サスケ……かっこいい名前じゃん!」
照れる。
めっちゃカッコイイです。
女神さん?
どうやらネコババを決め込むことは出来そうにないですよ。
どうあっても達成しなきゃならなくなってきたんだが。
はてさて。
「……まず、その親方の形見の情報を手に入れなきゃな。形見に心当たりは?」
「俺も初めて知ったんだ。これが、なんのことかすら見当がつかないんだ」
形見。
手に取れるような手のひらサイズの装飾品だろうか。
「グン、任命内容をもう一度確認しよう。場所はこの宿場で情報が手に入るはずなんだな。奴らってのが引っ掛かっている。ここには忍者の敵になるような者達はいないような。もしかしたら例のゴロツキ連中のことかもしれないね。あいつらほどの極悪は滅多にいないから」
あいつらか。
「出会ったときから、因縁があったとはな」
任務報酬の百両は駒次郎たちにくれてやる。
どうせ小判なんか持ち越せないもんな。
あいつらは、どの道ぶちのめして帰りたかったところだ。
良いポイント稼ぎになるからな。
親方の仇がやつらなら好都合というものだ。
「コマさん、勘が冴えるね。時間がないから、あいつらに直に聞くとしよう」
「じ、直に訊くの? 盗んだ物があるなら白を切ると思うよ」
一理あるな。
百両もの礼金がもらえる代物だしな。
「金目の物だったのかな。なにか骨董品とか……」
「可能性は充分にあると思う。がめつい奴らが簡単に口を割るわけないんだ。だから戦いになると里の人は踏んで、グンに何かを授けたんだろ?」
そうだった。
そっちもまるで見当がつかない。
「…来るべきときに備えて、伝家の宝刀というものを身に付けておこうよ。どうするの? それどこにあるの」
「こっちが聞きたいです……」
「へっ……グンってまさか?」
まさか、なに?
「まさかまだ、印を結ぶことを覚えてないとか?」
「ど、どういうこと」
「印ぐらい忍者でなくても結べるってことさ」
はあ?
なんで忍び以外で結べるのよ。
「グンは案外、世間知らずなんだな。印結びは仏教からでたものだよ。お参りにいく人たちは大抵拝んだことがあるよ」
「げっ! そ、そ、そうなんだ! ぜひ教えてくれ」
彼は、にんまりとしながら手本を見せてくれた。
どういう状況?
超カッコワルなんだけど。
「綱の印って解る?」
「このあたりに伝わっているヤツなら、たしか……こうして…こうだ!」
教わってしもうた、町人風情に。
超カッコワルなんだけど。
人助けをするつもりが、助けられてばかりだわ。
超カッコワルなんだけど。
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本当に、ありがとうございます。
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