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しおりを挟む駒次郎は首をかしげるのだが。
俺としては訊かずにはいられないことが頭に浮かぶ。
それは兄のことだ。
お前ら、兄弟なんだろ。
兄貴が女のために罪を犯そうとまで考えている。
恋愛関係にあるかはこの際、関係ないとして。
そうまでして救い出したい気持ちがあるということだ。
しかも駒次郎は知っているのだし。
俺がいま打ち明けたことでも蔵破りの可能性は出てきているのに。
俺が駒次郎の一体なにを手伝うと言うんだ。
その蔵破りじゃないのか。
いまさら誰と話していたかなんて重要か。
「コマさんは、バンさんの蔵破りをどうして知ったの? 打ち明けられたのか」
それなのに手伝うつもりがないとか、なにを言ってんだ。
と憤りたいけど、犯罪だしな。片棒を担ぐことを薦めたいわけじゃない。
「いや…。様子をうかがっていたら、グンと同様に立ち聞いてしまったんだ。そしておれも今思い出したことがあるよ」
立ち聞きってことは、盤次郎は駒次郎に相談したわけじゃないのか。
ふたりの計画でないなら、ますます俺はなにを手伝うんだよ。
「なにを思い出したの?」
「おれが立ち聞いたときも隠れて誰かと話をしていた…。今日帰ってきて、グンを宿に案内したあと、盤次郎の元へ行った。薪割りをしているはずだけど。旦那様に尋ねたら厠にでも行っておるのだろうと。だから厠のほうへ足を運ぶと、盤次郎の声が近くから聞こえて来て、思わず茂みに隠れてしまって…」
不意に声がして、隠れたのか。
驚いて、つい身を隠すこともあるだろう。条件反射というやつだ。
なぜ隠れたままだったのか、疑問だが。
そして隠れたまま聞いてしまったんだな。
兄の盤次郎が蔵破りを決行しようとしていることを。
しかし……
「…それだと、計画を共有する者が存在することになるよな」
「そうなのだ。心当たりもなく不安になっていると、グンが兄を紹介してくれと言うものだから。おれはてっきりグンなのかと思ったんだ」
は?
「な、なんで俺が共犯者になるのさ!? 順序がおかしいでしょ」
「おれはしばらく町に居なかったから、グンと兄貴が接触していたんじゃないかと疑ってしまったんだ。その理由はきみが忍者ということだ」
さっき俺を隠密だと言っていたが。
「俺を隠密だと言ったのは何のためなんだ?」
「そう言ったほうが隠密でないなら、忍者は素直に協力してくれるものだと思って」
忍者にどんだけ良いイメージ抱いているんだよ。
忍者好きか!
俺は好きだが。
「隠密だったら、だったで兄の愚行を諌めてもらおうと」
うん?
手伝うんじゃないのか。
「止めてあげられたとしても、お金の問題がある以上は──」
なぜか度胸がそなわっているように思えてきた。
肝が据わっているというか。
悪い忍びだったら殺されているかも知れないんだぞ。
少年忍者だからと甘くみていると火傷するぜ。
「結局、そこなんだよ。お里の救出はしたい。…だけど盤次郎に金策の当てはない」
「あのさ、さっきからずっと気になってんだけど…」
「うん?」
「コマさんも含めて金に困ってるんだよね? 他人事みたいに言うね」
駒次郎はすこし息を潜めると、耳打ちをしてきた。
「だって赤の他人ですもん」
へっ!?
「…なんですって!?」
兄弟って聞いてましたけど。
「本当の兄弟のように育った仲……というか、おれも幼馴染で幼い頃にあいつらとこの町で過ごした記憶を頼りに寄り添っているだけなんだ。おれは……ガキの頃に人さらいに遭ったんだ」
本当の兄弟じゃなく、幼馴染の兄弟か。
子供の頃に誘拐されたのか。
「それでしばらくは、あいつらと離れて暮らしていたのさ。再会したのはつい半年前のことさ。おれが同じ長屋で暮らしていた幼友達だと分かると二人とも懇意にしてくれた」
兄弟以上に家族ってわけか。
「頼る者もいなかったおれに家族の温かさを分けてくれたのも、あの2人だ」
それが、彼女をどうしても取り戻したい理由か。
「コマさん……」
「盤次郎とお里はずっと一緒に生きてきたんだ。盤次郎はとくに早くに二親を失くしていてね。おれとお里を弟、妹として本当に可愛がってくれたんだ。その盤次郎の心中を想うと…」
盤次郎にとって二人がかけがえのない家族。
盤次郎は蔵破りを駒次郎に打ち明けてはいないんだな。
守りたい家族の手を汚させたくないからか。
盤次郎はひとりで抱え込んでいるのか。
ひとりで手を汚すつもりなんだな。
俺がそう訊ねると、駒次郎はそっと肯いた。
だから思わず隠れてしまったのか。
「事情は飲み込めたよ。だけどそれなら尚更蔵破りなんて手段は避けなければならないんじゃないの? だって一生追われの身に…」
駒次郎が哀しい目を見せた。
「借金の形に取られてしまったのが運のつきだ。おれには言えない。お里をあきらめろだなんてことは。せめて盤次郎がヘマをせずに、証拠が残らないように後始末をな」
おいおい、結局。泥沼じゃんかよ。
「だからって蔵破りは極端だよ。いっそ金を借りようよ!」
「それはおれが試して駄目だったから、グンも鉱山に行きたいの?」
行きたくはないけど。
「俺、薬を売って歩くから、時間をくれないか」
「それ何年先の話なんだよ。そんなの待っていたら支払いがどんどん膨れ上がるだけだよ。気持ちはありがたいけど、とても盤次郎を説得できねぇよ」
だああ、もう。
薬売りじゃ時間がかかり過ぎて、その分、お里の身請け金が跳ね上がる。
いますぐ、手っ取り早く大金を掴む方法がなければ。
罪人まっしぐらだ。
こうなったら、懐の印籠で百両ぐらい集金できないかな。
俺は懐に手を入れて、そう考えるとハッとする。
百両といえば、忍びの任務報酬が確か……そのぐらいだったよな。
あれならば、期日が十日だったから。
たった十日なら、考え直してもらえるだろうか。
駒次郎に打ち明けるべきだろうか。
ええい、迷ってられるか。
だれも悪人に成らずに済むんだぞ、背に腹は代えられないというやつだ。
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