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しおりを挟む俺の身に宿った能力。
忍者の聴力はすこし離れた場所の様子を探れる。
どのような定義で探れるのか。
それは言わずとも音声である。
駒次郎との最初の遭遇時に起きたのは、悲鳴と怒号による喧騒。
背後に30メートルの距離があった。
肉眼を頼らずとも視える。
その次に聴力が働いたのは、盤次郎が離席した後だ。
俺の前にいたから、直視していたが。
そこからすこし目で追っただけでも宿屋の玄関先までは、20mほど。
彼の足音が遠ざかるので距離感はそれくらい。
この時は盤次郎の声と足音だけがそこにあった。
そして──今。
背後に感じる足音が、周囲の雑踏を遮り、鮮明に耳の奥へと収音される。
すこし集中するだけで、とてもクリーンに聴こえて来る。
たとえるなら、ヘッドホンをして映画鑑賞をしているような。
あれは駒次郎の足音でまちがいない。
もしや駒次郎も連中に運悪く出くわしたか。
でもそれだけでは俊足の謎は拭い切れない。
そして、その足音が俺のいる祠の前へと近づいてくる。
俺が踏んだはじめての一歩の、街道から入ってくるようだ。
神社の正面入り口はどこか別のところにあるのだろうか。
俺達が出会った街道を意識してこのルートを選んだだけという線もある。
こんな細道が入り口のわけがない。
神社の入り口には必ずといっていいほど鳥居があるものだからな。
だがここは脇道だ。
ここから侵入するのはどうしてなのだ?
神社の境内が近いのかな。
俺はいま……恥ずかしながら、迷子になりかけたんだが。
俺は祠を前に、扉に向かいしゃがんでいる。
その背後は街道まで木々に囲まれた通り道が一直線に伸びている。
それは涼し気な細道であった。
距離にして30m。
もう間もなく、駒次郎が俺の後ろ姿をその目で視認してしまう距離感だ。
いまは、とても振り向く勇気はない。
だが、
「このままでは……鉢合わせてしまう!」
それならそれで「やあ、コマさん。遅かったね、駆けっこなら俺の方が格上でしょ?」とか言ってこのまま逢ってしまおうか。
どうせ待ち合わせの場所なんだから。
いや無理だ。
そこは勇気がないとかの問題ではなくなるだろう。
ここで逢ってしまったら、俺が茶屋の前で待つという約束を守らなかったことが発覚する。そしたら言い訳がましく、別れた直後にゴロツキ連中の気配を感じてここに来たのだとする。というより必然的にその運びになってしまう。
そうなると、今度は駒次郎が時間的に俺に伝えた文言通りの行動を取らなかったことがバレてしまい、彼がそのバツの悪さから距離を置くかもしれない。
じつはそれを恐れているのだ。
バツの悪さ。
俺の方はゴロツキの影があったで筋が通るが、駒次郎は筋が通らないよな。
その場合、そのバツの悪さが瞬時に俺の中にも生じてしまう。
なぜかと言えば。
駒次郎……なぜ、お前は約束を反故に出来たんだ?
と、彼の頭の中で勝手に俺が問いかけをするのだ。(彼がこう連想するだろうと)
そこで「またおれを疑ったのか? グン…」彼は頭の回転が速いから、そう早合点する。(自分の掘った墓穴に逆ギレするという展開だ)
そうなると、再会はマズいだろな。
最悪の場合、バトることになるかもしれない。
俺は、もしかしたら駒次郎が忍びなのではないかと思い始めている。
最初からではない。
それは勿論ここへ来てから彼の俊足の足音を確認したからだ。
だが彼はそのバツの悪さを覚える瞬間に、そう疑われていたことを逆に疑うことになるだろう。
その不安をいつも抱えて歩く存在こそが忍者なのだ。
それが忍者のさだめなのだ。
疑いを持つのも必然だ。
腹を割って仲良くなるには俺が女神の存在を明かせなければいけない。
だが俺にもできない相談がある。
ステータ・エンジンの呪文すら、おまじないとして伏せなければならないのに。
それを明かすことは女神への裏切りに値する。
「……だからといって」
険悪なムードになるのはもう御免だ。
ならば、俺も忍んでみるか!
俺は目の前にあった祠の上に、ひょいと飛び乗った。
すぐに身を屈めて振り返る。
祠の屋根の上は高さにして2.5m。
「息を殺していれば気づかれはしないだろう」をこの場の選択肢とするには少々考えがぬる過ぎる。
忍びの特技、気配消し(ステルス)を発動する。
目には目を、だ。
そして屋根の上から目を細めて監視していた。
前方から程なく駒次郎が駆けてきた。
はあ、はあ、と肩で息をしている。
だがバテているわけではないようだった。
マズい、目を閉じて耳で聞き分けよう。
神社の境内に行くのだろう。
ステルスモードで後をつけて行けば、迷わず境内へ行ける。
そこまで行けば合流してもいいだろう。
そして2人で百両の任務に着手するとしよう。
ガタガタッ!
うん?
どうしてなんだ。
なぜ、お前がこの祠の扉に手を掛けているんだ?
何者かは知らぬが、そこは異界の扉だ。
容易く開くと思うなよ。
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