凍雨とあなた

しば漬け

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第1章

だから人違いですってば

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仕事を終えて会社を出た瞬間、嫌な予感は見事に的中した。


「鳴瀬さんですよね?」

朝…いや、正確には金曜日のコンビニで会ったあの人違いさんこと池矢木さんである。

「そうですけど…」

「自己紹介が遅れましたが、私は池矢木 豊(いけやき ゆたか)と言います。先日と今日のお詫びをしたくて…この後ご飯でもいかがですか?」

「あ、結構です。お腹すいてないので」

「ここら辺で美味しいお酒が呑める所を知っていますか?色んな種類のお酒を取り扱っていて、おつまみも絶品なんです。」

「………どこにあるんですか?」






ここまで自分がチョロいとは思わなかった…酒好きの私にとってあの謳い文句は効果抜群であった。

派手すぎず、静かだがどこか活気のある店内は居心地が良い。

「好きなお酒をいくらでも」

そう言ってメニューを渡してくる池矢木さん。

「いや…あの…やっぱり」

「ここにきてそれはなしですよ」

にっこり笑いかける姿は彼がいかにモテているのかが分かる瞬間でもあった。


「…じゃあ、お言葉に甘えて…この日本酒を…」

その言葉を聞いた彼は心無しかさっきよりも嬉しそうに笑っているようだった。

「金曜日のコンビニでの件ですけど…」

乾杯をしてお互いが1口お酒を飲んだタイミングで彼が話し始める。

「あーー!!気にしてませんから!!人違いもよくあることですから!!!すみません、本人じゃなくて!」

高速で手を仰ぎながら食い気味に言葉を返すと、

「人違い、ですか…」

「そうですそうです!だからほんとにお気にならさず!あ!別にあの日のことを他に話すなんてことしませんので!!」

「……」

自分が勢いで話し終わると、
彼は短い間であったが黙り込んでしまった。

「(何で表情が曇るの?)」

「…その言葉を聞いて安心しました!」

と言いつつクイッと手に持つ酒を飲み干していた。

「いやぁ、あんな姿皆には見せられないですから…」

「元カノかなにかですか…?」

「え?」

先程から伏し目がちな彼目が一気に自分を捕らえた。

「いや、酒瓶を落とすくらいだから相当想い入れがある人なのかって…」

そんな私の質問の理由を聞くと、

「…とても…とても愛しい存在だったんです」

「愛しい…?」

「ええ、愛してた…というか今も愛してるんです…彼女を見ると今でも鼓動が早く脈を打つ」

「……なるほど…」

どう返せばいいか分からない。
これはきっと失恋をしてそれを引きずっちゃってるんだなって勝手に予測したが、どうもしっくりこないのは何故なだろうか。

「一瞬だって彼女を忘れたことはないんだ。」

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