凍雨とあなた

しば漬け

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第1章

だから人違いですってば3(若干R15)

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「じゃあ!お互い仕事頑張りましょうねー!!」

手を振って駅の方を見て歩き出そうとした。

しかし、手を掴まれる感覚と同時に視界が回る。

「!?」

強く、強く抱きしめられていた。

「い、池矢木さん…!?ちょっ…!」

力が強くて身動きが取れない。
けどその中に優しさを感じるのは何故だろう。

「やっぱり…やっぱり君じゃないか…」

「え?」

「翠…」

「だから!違いますって…!私は翠って人じゃ…んっ!?!?!?」


電撃が頭からつま先まで駆け巡る。

自分が今何をされているのか分かるのに少し時間がかかった。

柔らかい唇同士がしばらく重なって離れた。

少しの間見つめ合う2人。

痺れ始めた身体。

目を逸らすことができない。

そんな私を見て、彼の唇がまた近くまでやってきた。

しかし重なることはなく、近くで彼の吐く息を感じる。

彼の吐息が自分の唇にかかる度に胸の鼓動がどんどん早くなり、息が荒くなる。



「(だめ…だめ…抵抗しなきゃ…)」

何故か声を出せない…それは恐怖からではなかった。

そうしている内に唇同士が少し触れる。


思わず声が漏れてしまうと今度はしっかりと重なり彼の舌がゆっくりと自分の舌を撫ではじめる。

「(逃げなきゃ…逃げないといけないのに…)」

あまりの衝撃に身体が脱力してしまうがしっかりと彼が支えている。


明かりは暗い街灯と自販機の光のみ。

完全に自分も彼の舌に合わせて動かしている。その時に少しとろみがついた唾液が絡み合う度に音を出す。


静かな道路だからか耳元でその音がよく聞こえてしまう度に疼いてしまった。


思考がまとまらなくなってしまう程の快感が自分の身体を襲う。

「ずっと…ずっと会いたかった…」

再び唇が離れると彼は口早にそう言った。

「だから…人違いですっ…てば…」

上がった息のまま話すので上手く話せない。

「人違いなんかじゃない…」

彼の手が自分の手を取り、そのまま彼の頬へと手を引き寄せた。

「私を覚えていないのか…翠…」

彼の少し寂しそうな表情にドキッとしてしまう自分がいる。


「ち、違います…池矢木さん…私は翠ではないです…鳴瀬です…」

何故か込み上げる涙。

「もう…もうやめてください…」

「はっ……す、すみません!!私…すみません鳴瀬さん…!!」

そのまま彼を強く押し退けて走って駅まで向かった。

「鳴瀬さん…!!」

遠くから呼ぶ声がするが聞こえないふりをした。

涙が止まらない。

それはさっきまでが怖かったからではなく…

「悲しい…」

とてつもなく、悲しい。

理由は何故か分からなかった。
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