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第1章/暗号館の番人 a girl in sleet
1-③/『Mail and index do 'serial Number of the end speech』
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「──え、高校生?」
「そう、今年三年。ほら」
そう言って少女──神津 藍は歩みを止め、生徒手帳を取り出した。『風海台女子高等学校』──この辺りでは有名なお嬢様学校だ。矢吹さんがそこのOGだと、前に言っていた気がする。
矢吹さんといいこの子といい、そこの学生達は皆こんな活発な性格に育つのだろうか……。
というか、ずいぶん背が低いので、中学生かと思っていた──というのは、言わない方がいいだろう。
聞くところによると、彼女も僕と同じ、パーティーへ招待された父親の代理での参加だそうだ。
──さっき名前に出た神津 英治。聞いたことあると思っていたが、父の警察時代の同期の人だ。父の部屋にあった、何かの資料で名前を見たことがある。
父が退職してから十年経っている。順調にいけば、それなりの役職についているのだろう。
「アナタ、時生大の生徒でしょ? その学生証」
神津さんは僕の腰にぶら下げているパスケース──大学の学生証兼ICカードを指差す。何度も家に忘れてしまうので、常に身につけておくようにしている。
「私も今年、そこ受ける予定だからさ。よろしく、先輩」
笑顔でそう言って、神津さんは軽やかな足取りで歩き出す。
先輩って……気が早いな。
◆◆◆
気付けば雨は完全に止み、雲間から眩しい日差しが顔を覗かせている。
そんな晴れ間の中、勘を頼りに、軽い雑木林を抜けると、裏口らしき扉が見えてきた。
「いや、場所指定するんだったらもっと分かりやすくしときなさいよ……」
後ろで神津さんがブツブツ文句を言っている。
確かに、道としてはだいぶ分かりにくい。とてもじゃないが客人を招こうとしているとは思えない。
──正面入口の真裏には柵があるだけで、入れそうな場所は無かった。柵沿いに歩いていたらたまたま入れそうな隙間を見つけただけだ。
この道が正しいかどうかも半信半疑だったが、なぜか自然と足を踏み入れていた。この道からも、最初の門で感じた妙な懐かしさを感じたからだ。
前に来たことがあったのだろうか、以前もこうやって、道なき道を歩いていた。そんな記憶が、うっすらと脳裏をよぎる──。
◆◆◆
やっとの思いで裏口に辿り着くと、そこには別の門番──いや、メイドが立っていた。
「ようこそいらっしゃいました。招待状を拝見いたします」
英国式の、フォーマルなメイド服。
この館がイギリス様式を意識していることは、もう疑いようがない。
僕は招待状を差し出した。
「明智桐弥様……代理の方ですね?」
「はい。息子の蒼空です」
一瞬だけ驚いた表情を見せたメイドさんは、すぐに微笑みを取り戻す。
「承知いたしました。ごゆっくりお楽しみください」
続いて神津さんも招待状を渡す。
先ほどの門番とは対照的な丁寧さに、彼女は少し警戒した様子だった。
「神津英治様。こちらも代理の方ですね。問題ございません」
そう言って、名刺ほどの小さなカードが一枚ずつ手渡された。
『2 new dish for life of old run stop the under dawn yesterday』
英文のようで、どこかおかしい。最初の時点で、文章として成立していない。
裏面には、今度は数字の羅列。
『09231023』
「……また暗号?」
神津さんは一目見て、すぐにこちらを振り返った。完全にお手上げといった顔だ。
「紙とペン、あります?」
そう言うと、メイドさんは何も聞かずにメモ帳とペンを差し出した。
「どうぞ。ご自由に」
「……ありがとうございます。すぐ返します」
「中へどうぞ。日差しが強いですから」
通された控え室は、驚くほど簡素だった。来客用として最低限の物だけが整えられている。
「暗号は、いつ解いていただいても構いません」
そう言い残し、メイドさんは静かに部屋を出ていった。
残されたのは、僕たちと一枚のカード。
「……すぐじゃなくてもいいって言われたけど」
「まあ、渡された以上はね」
カードをテーブルに置き、改めて眺める。
「……構造は単純だ」
「え? もう分かったの?」
覗き込んでくる神津さんを横目に、カードを指でなぞる。
「文章として読む必要はない。単語の──最初の文字だけ見て」
「最初の文字?」
神津さんは半信半疑のまま、メモ帳に書き出していく。
「……2、n、d、f、l、o、o、r」
そこで、ぴたりと手が止まった。
「……2nd floor?」
「そのまま続けて」
「……study」
意味を成した瞬間、彼女の顔がぱっと明るくなる。
「二階の、書斎……?」
「正解」
単語の頭文字を繋げて読む、ただそれだけの仕掛けだ。子どもの遊びのようでいて、気づかなければ一生読めない。
「相変わらず、面倒な主人ね」
それには同意するしかない。
「パーティー、もう始まるけど……行く?」
「ううん。正直、そっちはどうでもいい」
その即答に、僕はほんの少しだけ違和感を覚えた。
けれど今は、それよりも──
僕たちは階段へ向かう。
二階の書斎が、静かに僕たちを待っている気がした。
◆◆◆
──時刻は、十二時四十五分。一通りの案内を終え、私は部屋を出る。
ふっと、一息。
微かに早鐘を打つ胸を、そっと押さえる。
対応は変じゃなかっただろうか。いや、少し顔には出ていた気がする。
まだまだ未熟者……。
彼のことだ、暗号は、すぐに解いてしまうだろう。
それよりも、パーティーの給仕係が大変そうなので、そちらを手伝った方が良さそうだ。
気持ちを落ち着かせ、私は給仕室へと向かう。
──さて。
彼は、あのメモに気付いてくれるだろうか。
"If you forget her, she will disappear"
1-③/Maid's Notes~メイドの手記~
「そう、今年三年。ほら」
そう言って少女──神津 藍は歩みを止め、生徒手帳を取り出した。『風海台女子高等学校』──この辺りでは有名なお嬢様学校だ。矢吹さんがそこのOGだと、前に言っていた気がする。
矢吹さんといいこの子といい、そこの学生達は皆こんな活発な性格に育つのだろうか……。
というか、ずいぶん背が低いので、中学生かと思っていた──というのは、言わない方がいいだろう。
聞くところによると、彼女も僕と同じ、パーティーへ招待された父親の代理での参加だそうだ。
──さっき名前に出た神津 英治。聞いたことあると思っていたが、父の警察時代の同期の人だ。父の部屋にあった、何かの資料で名前を見たことがある。
父が退職してから十年経っている。順調にいけば、それなりの役職についているのだろう。
「アナタ、時生大の生徒でしょ? その学生証」
神津さんは僕の腰にぶら下げているパスケース──大学の学生証兼ICカードを指差す。何度も家に忘れてしまうので、常に身につけておくようにしている。
「私も今年、そこ受ける予定だからさ。よろしく、先輩」
笑顔でそう言って、神津さんは軽やかな足取りで歩き出す。
先輩って……気が早いな。
◆◆◆
気付けば雨は完全に止み、雲間から眩しい日差しが顔を覗かせている。
そんな晴れ間の中、勘を頼りに、軽い雑木林を抜けると、裏口らしき扉が見えてきた。
「いや、場所指定するんだったらもっと分かりやすくしときなさいよ……」
後ろで神津さんがブツブツ文句を言っている。
確かに、道としてはだいぶ分かりにくい。とてもじゃないが客人を招こうとしているとは思えない。
──正面入口の真裏には柵があるだけで、入れそうな場所は無かった。柵沿いに歩いていたらたまたま入れそうな隙間を見つけただけだ。
この道が正しいかどうかも半信半疑だったが、なぜか自然と足を踏み入れていた。この道からも、最初の門で感じた妙な懐かしさを感じたからだ。
前に来たことがあったのだろうか、以前もこうやって、道なき道を歩いていた。そんな記憶が、うっすらと脳裏をよぎる──。
◆◆◆
やっとの思いで裏口に辿り着くと、そこには別の門番──いや、メイドが立っていた。
「ようこそいらっしゃいました。招待状を拝見いたします」
英国式の、フォーマルなメイド服。
この館がイギリス様式を意識していることは、もう疑いようがない。
僕は招待状を差し出した。
「明智桐弥様……代理の方ですね?」
「はい。息子の蒼空です」
一瞬だけ驚いた表情を見せたメイドさんは、すぐに微笑みを取り戻す。
「承知いたしました。ごゆっくりお楽しみください」
続いて神津さんも招待状を渡す。
先ほどの門番とは対照的な丁寧さに、彼女は少し警戒した様子だった。
「神津英治様。こちらも代理の方ですね。問題ございません」
そう言って、名刺ほどの小さなカードが一枚ずつ手渡された。
『2 new dish for life of old run stop the under dawn yesterday』
英文のようで、どこかおかしい。最初の時点で、文章として成立していない。
裏面には、今度は数字の羅列。
『09231023』
「……また暗号?」
神津さんは一目見て、すぐにこちらを振り返った。完全にお手上げといった顔だ。
「紙とペン、あります?」
そう言うと、メイドさんは何も聞かずにメモ帳とペンを差し出した。
「どうぞ。ご自由に」
「……ありがとうございます。すぐ返します」
「中へどうぞ。日差しが強いですから」
通された控え室は、驚くほど簡素だった。来客用として最低限の物だけが整えられている。
「暗号は、いつ解いていただいても構いません」
そう言い残し、メイドさんは静かに部屋を出ていった。
残されたのは、僕たちと一枚のカード。
「……すぐじゃなくてもいいって言われたけど」
「まあ、渡された以上はね」
カードをテーブルに置き、改めて眺める。
「……構造は単純だ」
「え? もう分かったの?」
覗き込んでくる神津さんを横目に、カードを指でなぞる。
「文章として読む必要はない。単語の──最初の文字だけ見て」
「最初の文字?」
神津さんは半信半疑のまま、メモ帳に書き出していく。
「……2、n、d、f、l、o、o、r」
そこで、ぴたりと手が止まった。
「……2nd floor?」
「そのまま続けて」
「……study」
意味を成した瞬間、彼女の顔がぱっと明るくなる。
「二階の、書斎……?」
「正解」
単語の頭文字を繋げて読む、ただそれだけの仕掛けだ。子どもの遊びのようでいて、気づかなければ一生読めない。
「相変わらず、面倒な主人ね」
それには同意するしかない。
「パーティー、もう始まるけど……行く?」
「ううん。正直、そっちはどうでもいい」
その即答に、僕はほんの少しだけ違和感を覚えた。
けれど今は、それよりも──
僕たちは階段へ向かう。
二階の書斎が、静かに僕たちを待っている気がした。
◆◆◆
──時刻は、十二時四十五分。一通りの案内を終え、私は部屋を出る。
ふっと、一息。
微かに早鐘を打つ胸を、そっと押さえる。
対応は変じゃなかっただろうか。いや、少し顔には出ていた気がする。
まだまだ未熟者……。
彼のことだ、暗号は、すぐに解いてしまうだろう。
それよりも、パーティーの給仕係が大変そうなので、そちらを手伝った方が良さそうだ。
気持ちを落ち着かせ、私は給仕室へと向かう。
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彼は、あのメモに気付いてくれるだろうか。
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