奥遠の龍 ~今川家で生きる~

浜名浅吏

文字の大きさ
53 / 76
『小豆坂の戦い編』 天文十一年(一五四二年)

第53話 久々に三人が揃った

しおりを挟む
「三河にも松井五郎八郎の名は聞こえてきてたよ。今川家に無類の戦上手がいるってな。聞いた事の無い名前だったから隠れた名将ってのはいるもんだと思っていたんだが、まさか宗太、お前だったとはな」

 長坂九郎こと親友の信也が、お館様への挨拶の翌日に駿河城下の五郎八郎の屋敷を訪ねてきた。五郎八郎こと宗太は、小姓の弥三に誰も近づけないようにとお願いし、二人だけで会う事となった。

「僕ほら、あの会社がプレステ2で出した部隊動かすゲーム好きだったんだよ。だからそれを実践でやってるだけだよ。国盗りの方のゲームも結構役立ってるかな。だけど信也も凄い活躍だったって昨日吉左衛門さんから聞いたよ」

 久々の再会に笑顔で酒を酌み交わしている二人ではあるが、この世界では山と谷ほどの身分の差がある。当主は同じ今川義元であるが、松井五郎八郎は現状では雪斎と共に義元の側近。片や血鑓ちやり九郎こと長坂信政は、松平三郎の家人の本多吉左衛門の郎党である。

「俺さ、あの会社の一騎当千のアクションゲーム大好きだったんだよね。だからこの世界に来て、ああいうのがやりたかったんだよ。やればやるほど色んなアクションを思い出してさ。気が付いたら三河平定よ!」

 清康との戦は楽しかったと信也は嬉しそうな顔をして酒を飲んだ。
 そんな信也を宗太は相変わらず血の気が多い奴だと笑った。だが内心では昔とちっとも変わらない姿に安堵していた。

「しかし、この世界は矯正力が強いんだな。俺も『守山崩れ』の事は覚えてたからさ、『三河の麒麟児』を生き延びさせて織田家を滅ぼしてやろうとか考えてたんだけどさ、無理だったよ」

 織田信秀が討てれば、その後の歴史は完全に変わる。そう思ってなるべく早く三河を統一させ、尾張に進出させた。少なくともそこまでの味方の損害はそこまで多くはなかったはず。
 守山城の攻略の時が危険だとわかっていたから身辺警護を買って出たのだが、直前になって追い出され、結果、清康は弥七郎に斬られてしまった。

「それなんだよね。僕のこの松井宗信って桶狭間で討死するらしいんだよ。だから、そうならない為に矯正力を超えないといけないんだよ。桶狭間の戦いを起こさせないか、もしくは勝利するか」

 『するらしい』というのは誰から聞いたんだとたずねる信也に、さも当然のように宗太は友江だと答えた。色々あって友江は今自分の妾となってこの屋敷にいると。

「え? お前らそういう関係なの? うぅわ、聞きたくなかったわぁ。よく友ちゃんをそういう目で見れたな。三つ子の兄弟みたいなもんだっただろ? 気色悪い奴だなあ」

 信也が軽蔑した目で見てくるので、宗太は慌てて手は出してないと断言した。だが、信也は「どうだか」と言って宗太から顔を背け酒を飲む。
 怒り出した宗太はすたと立ち上がり、「直接友江に聞け」と言って部屋を出て行った。


 すぐに宗太は戻って来て、暫くたって友江が盆にお銚子を乗せてやってきた。

「え? 信也? うそっ! 信也じゃん! 久しぶり!」

 友江は部屋にいる男性が信也だとわかると、手を取り肩をパンパン叩いて大喜び。その距離の詰め方に信也がかなり気圧されている。この露骨な嫌がり方、昔とちっとも変っていない。

 「宗太の妾になってんだって?」と信也が聞くと、友江は下品にもけらけらと笑い出した。

「そうなのよ! 聞いてよ信也。宗太ったらさ、この私を妾にしたってのにさ、夜になると私の部屋から出てくのよ? 失礼だと思わない? この間まで奥さん妊娠中だったはずなのに、それでも奥さんのとこ行くんだよ。失礼しちゃうよね」

 友江の赤裸々な発言に、信也の方が聞くんじゃなかったという感じになってしまっている。
 宗太は実に嫌そうな顔でかわらけに口を付けて無言で飲んでいる。
 一人友江だけが楽しそう。


 そこから三人は酒を飲みながら昔の距離感で昔話に花を咲かせた。ある程度昔話が済むと徐々に話はこの世界の事になっていった。

「そうだ、信也からも宗太に言ってやってよ。私さ、今川家で天下統一しようって何度も宗太に言うんだけどさ、宗太はやる前から無理だ難しいって言うんだよ」

 今川家は幕府の守護大名だから、鎌倉の御家人の足利氏が幕府を開いたように、上洛さえできれば今川家が幕府を開く事だって可能なはず。
 その為には桶狭間の戦いを回避すれば良い。武田家と北条家と三国同盟を結んだって、その二家を上回る早さで勢力を拡張すれば、その二家は従うしかなくなるはず。
 今川家は源氏だから征夷大将軍の宣下も受けやすいはず。
 そう友江は信也に力説した。

「友ちゃん、宗太の話もちゃんと聞いてやんなよ。その『桶狭間の戦いを回避すれば』ってのが現状極めて困難だって宗太は言ってるんだろ? それに、それを抜けても矯正力で斎藤道三にやられるかもしれんじゃん」

 信也の指摘に宗太はうんうんと頷く。さすが信也はわかっていると。
 そんな二人の態度に友江はイラっとしたらしい。だったらどうやったら矯正力とやらを排除できるか考えたら良いだけの話と怒りだした。

「僕だって友ちゃんの言いたい事はわかっているよ。だけどそのやり方がわからないんだよ。僕は僕なりに、こうじゃないかって手は打ってるんだけどね。だけどまだはっきりとは矯正力を脱せている気がしてないんだよね」

 宗太は友江の目を見ずにじっとかわらけを見ながら言った。
 そんな宗太に信也は、具体的にはどんな手を打ってきたのかとたずねた。

「最初はこのドマイナーな武将が今川家で出世したら何かが変わるんじゃないかって思ったんだ。だけど友ちゃんの話だと史実でも松井宗信ってそれなりに有能で地位も高い人だったらしいんだよ。しかも戦上手で」

 つまりは自分の努力は史実の流れからは大きくぶれてはいない。むしろ歴史に埋没した方が史実からは大きくぶれたかもしれなかったらしい。
 ならば北条綱成を家人にできれば何か変わるかもと期待したのだが、家臣にできたのは綱成の兄貴の孫二郎だけ。北条家に行けと言ったら喜んで行ってしまった。

「なあ宗太。お前、桶狭間の戦いの敗戦って何が原因だと思ってるんだ?」

 信也にそう問われ、宗太はこの世界に来る前に見た歴史番組の特番を思い出した。『雪斎が亡くなった事が痛恨であった』という番組の結論を。

「そうか! 雪斎の後継者をちゃんと用意できれば良いんだ! 僕はそれなりに発言力を得たんだから、賢そうな人を探して雪斎に師事させれば良いんだ!」

 信也はそれに頷いたのだが、友江は桶狭間の敗因はそれだけじゃないと言い出した。少なく見積もってももう三つあると。

「一つは駿河衆に対して遠江衆と三河衆の地位が低すぎた事。それと大将軍朝比奈泰能の病死。最後は雪斎の後釜が朝比奈親徳っていう石頭だった事」

 朝比奈泰能はこの世界では私の長兄である備中守の事。朝比奈親徳は駿河朝比奈家の当主だと友江は説明した。

「もしそうだとしたら、一つ目の解消はあと一歩ってとこだと思う。病死しちゃう人はどうにもならないけど、それは代役を見つければ良い話だと思う。そうなると残りは、その朝比奈親徳とかいう奴を排除する事か……」

 「親徳って誰?」と聞く信也に、友江は朝比奈信置の親父だと説明。だとすると、あの初めての評定で自分を蹴って大騒ぎになり蟄居となった丹波守の息子という事になるだろう。確か現在は隠居した父に代わって丹波守を名乗り、雪斎の甥庵原安房守と共に牢人の採用を担当していると聞いた。
 ならばあの人物を失脚させて、別の誰かを据える事ができれば、もしかしたら……


「ねえ信也、信也もうちに来ちゃいなよ。三人で一緒に今川家で天下統一しようよ!」

 そろそろ縁もたけなわ、そんなタイミングで友江は信也を誘った。
 かなり酔ってる。友江を見て宗太も信也もそう感じた。
 うんと言うまで帰さないと友江は猫なで声で信也の袖を掴んだ。

「今は駄目だ。俺は本多忠豊にここまでにしてもらった恩がある。松平清康に可愛がられたという恩を広忠に返したいというのもある。せめて忠豊の嫡男の忠高が初陣を迎えるまでは」

 やんわりと断る信也に友江は「ケチ!」と悪態をついた。続いて「私たちと一緒にいたくないの?」と感情に訴えかける。

「一緒にゲームしてた時に感じてたんだけど、宗太って意外と人使いが荒いんだよね。おまけに口が上手くてさ、あれしてこれしてってやたらおねだりしてきて。そういう奴の下で働くって、ちょっと考えちゃうよね」

 信也が宗太から視線を反らすと、友江はじっとりした目で宗太を見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

アブサードカード ~ある日世界がダンジョン化した件について~

仮実谷 望
ファンタジー
ある日、主人公の目の前にアブサードカードと呼ばれる謎のカードが出現した。それを拾うと世界が一変した。謎の異形、怪物と出会ってしまったため戦いの日々に巻き込まれる。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

処理中です...