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【序章】寛永十四年江戸城本丸中奥にて……。
寛永十四年(一六三七)、江戸幕府の三代将軍家光は、江戸城本丸中奥の御休息之間にて、病のため床にふしていた。家光はもともと病弱だった。また幼少時より情緒不安定なところがあり、成人してからも奇行の多い人物だったと伝えられる。江戸幕府の基礎は家光の代におよそ固まった。しかし家光自身は、後の世に伝えられるほど名君でなかったことは間違いない。
「申しあげます。立花左近殿がお見えにございます。これより一旦国許へ御帰国とのことで、挨拶にまかりこしてございます」
小姓の一人が大きな声でいうと、家光の許しをえて一人の名のある武将らしい、いかにも貫禄のある老人が姿を現した。老人は恐らく齢七十をこえているであろう。しかし眼光鋭く、眉太く、足腰もしっかりしていた。全身から漂う鋭気は、世によくいる同年代の老人のものとは異なっていた。
この人物こそ、かって戦国の只中の九州において敵味方から恐れられ、豊臣秀吉をして東の本田忠勝に匹敵する西の英傑といわしめた立花左近宗茂だった。
「左近久しぶりじゃのう。これから国へ戻るか? それにしてもそちは、もう高齢だというに実に壮健よのう。わしは汝がうらやましいぞ。このとおり余は幼き頃より病弱じゃ。こなたのように戦国の世の只中に生まれておれば、戦場で少しは体も強うなったかのう」
家光は力なくいった。
「そなたはこの前会ったおり余と約束したのう。戦国の世のこと、特にそなたが若かりし頃の九州での出来事を語ってくれると。出立の前に聞かせてくれぬかのう。確か、そなたには父が二人おると申したのう」
「はい左様で実父を高橋紹運と申しまする。それがし奇妙な縁により、同じ大友家重臣筆頭の立花道雪の婿養子となった次第でござります」
宗茂は高齢とは思えぬほど声が野太く、老いても心身ともに健全である様子が、家光にはやはりうらやましかった。
「語って聞かせるのはかまいませぬが、二人の父のことを語る前に、かってのそれがしの主君・大友宗麟のことから語らねばなりますまい」
「その大友宗麟と申すはいかなる者じゃ?」
「あれいは上様と似ておるやも知れませぬ」
「ほう、いかように似ておると申す」
家光が興味ありげにたずねると、宗茂は思わぬことをいった。
「およそ常人には賢愚をはかりがたく、英明である時と暗愚である時はまるで別人のようございました。時として、常人には理解しがたいふるまいに及ぶことも多々あり」
宗茂がはっきり言ったので、家光の側近くに仕える小姓等は皆顔色をかえたが、家光はかすかに笑みを浮かべた。
「相変らず、ずけずけとものをいう奴よのう。なれどそなたのそういうところ嫌いではない。わしと似ておるならなおさら語ってくれぬか、その大友宗麟と申す者のことを」
「されば語りましょう。それがし今こうしてここにおることができるは、二人の父、そしてわが主の命を捨て、身を捨てての奮闘ゆえにござります」
かくして宗茂が家光の枕元で語りはじめたのは、戦国只中における九州の覇権をかけた、三つ巴の長い長い戦いの物語だった。
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著者のkotoと申します。
応援や感想、更にはアドバイスなど頂けると幸いです。
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多々間違える部分があると思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
