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【第二章】戦火
シュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争
しおりを挟む日本で池田屋の変があった同じ年、榎本武揚はヨーロッパにおいてプロイセン、オーストリア連合軍とデンマーク王国の戦争を、観戦武官として見学することとなった。
戦いは、シュレースヴィヒとホルシュタインの領有をめぐっておこった。
この頃ドイツは幾つも小国に分裂しており、盟主的な位置にあったのがオーストリアであった。そしてそれに次ぐ実力を誇ったのがプロイセンである。両国の間は当時すでに険悪であり、プロイセンを率いるビスマルクは、密かに打倒オーストリアを画策していた。
「日本でいえばオーストリアが徳川で、プロイセンは島津か伊達、あれいは長州みたいなもんか?」
と榎本とともに観戦武官として参加した赤松がいう。
両者は寒波で凍結したエルベ河を渡る。ホルステインの都アルトナに至る頃には、すでにデンマーク軍は劣勢で撤退した後だったという。その後のことは赤松の記録を引用してみたいと思う。
「退却したデンマーク軍は、ドイツ軍の攻撃をおそれてスレースウェーキの一里半ばかり手前に長い塹壕を掘り、四、五カ所の砲塁を築いて防御線を構築した。プロイセン・オーストリア連合軍は之に更に激しい攻撃を開始した。連合軍精鋭二個師団に対し、敵せざること明らかで、遠距離からの砲撃で死傷者もわずかな後、たあいもなく陥落した。
翌日にはデンマーク軍は退却しアルゼン島の要塞へ入った。ただアルゼン島の対岸のヂェッペルの出城は放棄していなかったので、翌々日にいたって少々激しい戦闘で、双方多少の死傷者が生じた後に、連合軍はヂェッペルをも占領するにいたる。
今やデンマーク軍はアルゼン島のゾンデルブルヒの要塞へ退き、連合軍はカナルを隔てて相対するも、ここに英国などの調停が始まった。私たちがアルトナに着いてからヂェッペル陥落までわずか三、四日のことで実に呆気ない戦いであった」
この戦いで榎本は、プロイセンが電信を利用して前線とのやり取りを行っているのを見て驚いた。後にプロイセンは、オーストリアとのドイツの覇権をかけた戦いに突入していく。この時プロイセンの参謀総長だったモルトケは、前線まで鉄道を使用して兵士や食糧、物資を運搬するという画期的な作戦により、オーストリアに壊滅的打撃を与えることとなる。
結局ドイツはプロイセンにより統一され、二度の世界大戦での世界史の主役へと躍進してゆくのである。
一方日清、日露戦争を経て、二十世紀には世界史の台風の目となる日本でも、いよいよ戦争が始まろうとしていた。日本の年号でいうと元治元年すなわち一八六四年のことである。
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