終末世界で明日を見る

がみれ

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第二章「霧の街の失踪」

第十四話「魔力の性質」

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名無しは夢を見ていた。
 ガラス張りの部屋には少女一人だけが立っていて何も聞こえない───────。
 ガラスの向こうには白衣を着た男が1人、少女を見ている───────。
 互いが互いを見つめ、その後眼鏡をかけた男は何かを呟き部屋から姿を消した───────。

 あれは誰なのだろうか?

「また、変な夢見た」

 目をこすり名無しは体を起こす。

 意図が分からない夢を見て気分は変だが、以外にも目覚めはさっぱりしていた。

 しかし、ああいう夢を最近何故だかよく見る。

(見るなら楽しい夢が見たいな)

 布団から起き上がり、時計を見た。
 時刻は六時ちょうど。朝ご飯は七時なので少し早いが先に食堂に行くことにした。

 まだ眠い体を動かし階段を降り、目をこすりながら食堂の扉を開け中に入った。

 昨日は疲れててよく見ていなかったが、今見ると食堂はかなりの広さがあった。おそらく百人は入るだろう。

 食堂は昨日までの等間隔に机と椅子が配置されている作りではなく、縦長の机が部屋の隅から隅まで幅を取り、それを囲うように椅子が配置されていた。

 おそらく、一同に介する場故の食事形式なのだろう。

「おはようございます」

 名無しは部屋の中で一人席に座っている炎弍に対して挨拶をする。とりあえず今日のノルマはクリアした。

「ああ、お前か。昨日は酔っ払ってたんだ。改めてすまねぇな」

 昨日までの剣呑な雰囲気と異なり、今は上機嫌でだいぶ明るく見えた。しかし、本気で謝ってるようには見えなく、名無しの嫌悪感は拭いきれなかった。

「それはどうも。……今もだよね」

「あ~?何がだ?酔っ払ってるて言いてぇのか?んなわけねぇだろうが!あははは!!!」

 炎弍は豪快に笑った。
 じゃあ右手に持っている酒瓶らしき物は一体何なのだろうか。ああ見えて中身はお茶だったりとか、絶対無い。

 酔っていると確信がつくほどに炎弍の顔は赤く火照り、酒の匂いが鼻に残った。

「よいしょ」

 名無しは炎弍の真ん前に座った。
 一度殺されかけたというのに我ながら度胸あるなと、座ってから名無しは気付く。

 まだ寝ぼけているのもあるのだろうが、炎弐に稽古をつけてもらう予定なので、一応行動には一貫性がある。

 外側の魔力と内側の魔力。
 魔力の使い方はきっと能力によって千差万別だ。現にラルと勇人は外側の魔力を自らの武器に覆い、強度と鋭さを高め戦っていた。

 名無しとは根本的に能力に対する魔力の運用方法が違うのだ。

 だが、炎弐は違った。
 もしかしたら名無しと同じタイプなのかもしれない。

 そう思ったのは、あの時右手から炎を魔力を出して拡散したのを見たからだ。あれはおそらく外側の魔力を放出するように扱っている。

 系統はまるで違うかもしれないが、魔力の扱い方については参考になるだろう。

(それに何もしないままだと今度こそ死ぬ)

 何も変わらないまま進んで行き、これから何度も仲間に助けられるだろうが助からない時だって十分あるだろう。出来うる限りの事はやっておいた方がいいと、名無しは考え稽古をつけてもらうことに決めた。

「炎弍さ」

「名無しと言ったか」

 被せるように炎弍は言う。

「後で訓練場に来い。お前と一戦交えてぇ!!」

 酒を豪快に飲んだ後、人さし指を名無しに立て意味が分からないことを言い出した。

(私と戦う?……なんで?)

「おいおい、外から聞こえてたがそりゃないやろ」

「そうですよ。炎弍さん。名無しは非戦闘員ですよ」

 ラルと勇人が丁度食堂に入ってきた。
 外から声が聞こえたのか二人は炎弍の言葉に反対した。しかし、問いかけに対する返答は名無しにはすでに決まっていた。

「是非お願いします!!」

 はっきりと前のめりに名無しは頭を下げて言った。

 炎弐の意図は分からない。
 しかし、自然な流れで稽古をつけてもらうのは好都合。戦いの中で掴めるものもあるだろう。

「そうこなくっちゃな!!あはは!!!面白ぇ」

 炎弍の目には闘志が宿り、酒のノリではなく真剣なのだというのが目線で気づいた。

 本気で戦うと分かった名無しは眠気が飛び、やっぱり無しでと心底言いたくなったが、強くなるためだと心を鬼にして覚悟を決めた。

 その後、何やかんや時間が経ち、三十人ぐらいの大人数が食堂の中へ入ってきた。

 話によると、ここにいる大半の人達は能力を持たず戦闘以外の面で陣営を支えている者たちなのだと。

(昨日は会わなかったけど、どこにいたんだろ?)

 皆が座り七時ちょうどにチャイムが鳴った。
 その瞬間、狐の少女二人緋狐と浅葱狐が最後に食堂に入った。二人の見分けは仮面の右耳に緋色と浅葱色の紐が巻かれているので分かりやすい。

 二人は皆の前で同時に鈴を鳴らした。

 すると、何も無かった木のテーブルの上に小分けされた料理がどこからともなく現れ、一瞬で机に並んだ。

「はぁ~~美味しそう!!!」

 名無しは並べられた朝食に目を輝かせた。
 いつもならどんな能力なの、と疑問に思うのだろうがそれは並べられた料理に失礼であり、無作法だろう。

 何せ美味しい物は美味しく食べるのが礼儀なのだから。

 朝食らしいパンと目玉焼きによく煮込まれたであろうポトフと採れたて新鮮なサラダ。

 スプーンを伸ばし、ポトフを口に含む。塩味がほどよく、野菜と肉の旨味が溶け込んでいるのがはっきりと分かる。

 それに煮込まれて柔らかくなった野菜と味のついたソーセージが程よいバランスで配置されいい味を出していた。

 パンも柔らかく、サラダも新鮮。
 目玉焼きなんて食べれるとは名無しは思いもしなかった。

 幸せな朝食に名無しは笑みがこぼす。
 自然と食べる手が進み、いつの間にか全ての料理をあっという間に完食していた。

「ごちそうさまでした」

「よし、じゃあやるか!!」

 名無しが食べ終えた途端、炎弍が今にも始めたそうに扉に向かう。
 
(そうだった……食べてて気が散れてたからこの後戦うってことを忘れてた)

 置こうとしたスプーンの手が止まり、名無しは顔を引きつった。

「ほどほどにお願いします」

「ああ!!ほどほどにぶっ倒す!!」

 手から炎を出して、今にも始めたいというのが伝わってくる。やる気は大有りらしい。

 ぶっ倒されたくは無いのだが、炎弐は殺す気で半殺しにしてくる気がする。だが、その方が緊張感があって良いのかもしれない。

 実戦はそんな生ぬるくは無いのだろうから。

「ラル、勇人は付き添ってあげてください。名無しさんはその後四階へ」

「分かった」

 島名がそう言うと、名無しは返事をする。
 朝食を済ませた四人は訓練場に向かった。

 一階の階段から真っすぐに行くと訓練場はあった。入り口は至って普通の扉で、上には訓練場と書かれた看板があった。

 だが、中に入るとそこには何も無く畳と床板が続いていた。

 区切られるであろう襖や板戸はなく、何個も部屋がつながっているような開けた空間だけが存在していた。

「まぁまず、島名に言われた事はしねぇとな。お前魔導書系能力だろ」

「これが魔導書なら」

 魔導書を手に取り、名無しは炎弐に見せる。

「そう、それだ。魔導書系統は外側の魔力を使って魔術を扱う。お前は再生がメインだって島名から聞いてるから、魔力自体に物的干渉は無いだろうが物は試しだ。これに魔力をぶつけてみろ」

 炎弍はポケットから手に収まるほどの小さな板を名無しに投げる。どうやらこれに魔力をぶつけるらしい。

 名無しは地面に板を立て、両手で魔力を魔導書を使った要領で放出した。

「はーー!!」

 金色の魔力が両手から放出され板へと向かい、そしてすり抜けた。

 様々な角度から板を掴むように魔力の形を変化させる。しかし、一切びくともせずそれなりに魔力を込めて放っても全てすり抜けた。

 炎弍の言った通りどうやっても物的干渉はないらしい。

「ああ。予想通りだ。魔力の属性は生まれ持ったものか能力によって決まるからな。俺はこんな感じに」

 炎弐は板を横に投げ右手から赤色の魔力を板にぶつける。すると、赤色の魔力に接触した板は徐々に赤みを帯び、燃えて下に落下した。

「発火する。次だ。基本的に俺達のような魔力を使用する奴らは魔力で物に触れられねぇ。だが相手が能力を魔力で行使したものには影響を及ぼせる。特に魔力自体同士は確実にぶつかって、周りに雷のようなもんが荒れ狂う。属性相性はあるけどな」

(あの時、勇人と魂喰霊がぶつかったもの。あれが魔力同士のぶつかり合いだったんだ)

「内側の魔力も説明しろって言われてたからするが、身体能力の強化と無意識の防御だ。まぁ気にすんな。魔導書系統は全員扱えねぇから」

「え、扱えないの?」

 つまり、炎弐の口ぶりからこれ以上身体能力は成長しないという事になる。

 悲観するほどの事ではないが良くはない。
 戦いには参加出来ないということは、戦闘が激化すれば直接的な仲間の助けに入れないかもしれない。 

 だからといって、何も出来ないわけではないのだが。

「じゃあ言われた事はやったし早速始めるか!!」

「こっからが戦い?」

「ああ!!そうだ!!俺はお前を動かなくなるまで攻撃し続ける。お前はどんな手を使ってでも一回その手で俺に触れたら勝ち。シンプルなただのゲームだ!!!」

 確かにシンプルで勝ち目が無くはない戦いだと、名無しは思った。こっちの攻撃手段がないとはいえ触れるだけなら何とかなるかもしれない。

「ラル!!始めの合図をしろ」

 酒瓶を地面に転がし炎弐は肩を回し始めた。

「ったく。ほどほどにな」

 名無しと炎弍の前にラルが立ち手を上げる。よーいどんのやつだろう。

 炎弍は炎を右手と左手で二つ持ち、対抗するべく名無しは距離をとりどんな攻撃でも受け流されるように魔力を出す準備をした。

 片方は気迫に溢れ、もう片方は緊張をその身に感じ、ラルが「よーい、始め!」と言い手を下げた瞬間試合が開始した。
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