三題噺(ホラー)

転香 李夢琉

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『後悔』

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お題 うどん 君 月

題『後悔』
「――私『つき』が好きなんです」

 それは突然の出来事だった。
 その一言で分かった。
 俺は振られたのだと……。

「――だから、ごめんなさい」

 俺はやるせない気持ちでいっぱいになった。
 よりによって、どうして『君』を好きになったのだろう……。
 よりによって、どうして『あいつ』のことが好きなのだろう……。

 俺はその場から動けなかった。否、動いてはいた。ただ、生まれたての子鹿のように歩き方が分からないような感覚だった。
 『君』はそっとこの場から徐々に離れていく。後になってから気を遣ってくれたことに気付くが、今はそんな簡単なことすらも分からないほどに、思考が停止していた。
 ――しばらく経った。授業に行く気力もなくただ、体育館の壁にもたれ掛かり……寝ていた。日が暮れかけてきた頃、俺の肩が誰かによって揺すられた。

「――やっと起きた。その様子だと振られちゃったの? もう下校時間だから帰ろう?」

 こいつだ。『君』が好きなのは『こいつ』で、俺はこいつの親友。
 こいつさえいなければと思うが、俺はそんなちっぽけな人間でありたくない。だから言うのだ。

「『君』は、お前のことが、好きなんだって……」

 俺は親友の顔を見れなかった。否、見たくなかったから目を背けた。現実に向き合いたくなかったから、ひとときの夢で遭って欲しかったから。
 だから、相手の目を見ず下を向いたまま言ったのだ。「俺はお前が憎い」と。
 親友は「……そっか」とひとこと、たった一言で済ませ俺を家まで送ってくれた。



「――と言う夢を見たのかい?」

「ッ! ゴホッ、ゴホッ。ちげぇよ!」

 途中まで聞き終えたそいつは盛大にやらかしてくれた。俺は喉に月見うどんを詰まらせむせてしまった。

「おま、ゴホッ、えな……」

 「悪い悪い」と親友は笑いながら謝ってくる。
 俺達は今、家の庭に面している廊下で2人並んで月見うどんを食べている。今日は十五夜、満月の日はなぜか親友の家に1泊する事にっているのだ。

「それで? おまえはどうしたいの?」

 親友の雰囲気が変わった。どうやら真面目に話を聞いてくれていたみたいだ。

「俺は…………?!」

 突然「ドン!」という壁を叩いたような音が聞こえた。俺達は驚いて後ろを振り返った。特に変わった様子は無い。親友の家族は先に寝たので、今起きているのは俺と親友だけのはずだ。
 俺達はゆっくりと立ち上がり、さっき音が聞こえたふすまに近寄っていった。俺はゆっくりと手を掛け……勢いよく横にスライドして開けた。
 「バン!」と、勢いよく開けすぎて夜中だというのに、近所迷惑レベルの音を立ててしまった。

「なにも……いない、な?」

 俺は確認するように親友に訊いた。親友も何も居ないのを確認すると、唾を飲みながら頷いた。俺達は「2階で猫が何かを落としたのだろう」と言うことで結論付け、お月見を再開した。

「なんか、さっきまでと雰囲気違うような気がするんだけど?」

 この妙な感覚が、さっきまでの楽しい雰囲気と打って変わって、怖い雰囲気を醸し出していた。今にも除夜の鐘が鳴りそうなくらいの静けさだ。時刻は真夜中、心霊現象でもポルターガイストでもいいくらいの時間帯だ。付け加えて言うなれば、親友の家はかなりしっかりとした和風な家だ。庭に盆栽もあれば鯉がいる池もある。
 俺達はお互い顔を見合わせどうしようかと悩む。……結局答えは出ず、とりあえず寝ようかと言う結論に至った。その後はほとんど何も起こらずあまり怯えずにすんだ。――ポルターガイストのような現象が多々あったので。何かが動くたびに俺はビクビクしていた。ああ、一つかなりでかいのがあったな。
 壁に掛けてあった親友のタペストリーが勢いよく音を立てて落ちて、元の場所に戻った。「ドンッ!」とでかい音を立てて落ちたかと思えば、そのあと何事もなかったかのように、巻き戻しされるかのように壁に掛かった。
 驚きすぎて親友のドッキリか疑ってしまった。まあ、そもそもの問題、親友のドッキリとかならば良かったなと後になって後悔した。もう、悔やむことは出来てもやり直す事なんて出来やしないのに……
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