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『呪いのお札』
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ペン 札 首輪
題 呪いのお札
――その噂が広まったのはわずか数ヶ月前からだった。
ある日一人の小学生が学校に“お札”を持ってきた。なぜ学校に持ってこようと思ったのか理由は分からないが、なんでも道端に落ちていたらしい。
やはり、落ちていようが捨てられていようが興味を持ったら拾いたくなる。それが小学生の好奇心というものなのか。
しかも持ってきた“お札”にはなにやら文字が刻まれてあったのだそうだ。それも達筆な字で、漢字が綴られていた。
案の定小学生は読めなかった。かといって先生に訊くと取り上げられる心配もある、そこで第三者。大人でも親でもない、他人だ。
――そう、今思えばこれがすべての元凶だったのかも知れない。あの時無理に解明しようとせず捨ててしまえば良かったのかも知れない。
「――歳月待たずして暁は地に落ちる」
下校中に出会った人に尋ねたところ、こう返されたらしい。読めたところで意味は分からない。小学生は再び悩みその人に深く尋ねた。
「一年待たなくても夜明けが落ちていく……これは……なるほど」
その他人は小学生に“お札”を貸して貰い調べる。と言ったまま姿を消した。
次の日、首つり事件が発生した。遺体が見つかったのは前日の夜中、つまり小学生が“お札”を拾った日であり、小学生が他人に“お札”を渡した日でもある。これだけでは単なる偶然、とも捉えることはできるだろう。だがそう決めつけるには証拠が集まりすぎていた。
「札に……『ゲームきがほしい』っと、よし」
小学生は出来心から“お札”にお願い事を書いた。
その札を首輪につけ物干し竿に通した。周囲から見れば首輪が濡れて干しているとも、札さえなければそう感じることだろう。
また次の日。小学生は朝起きてまっさきに“お札”を見に行った。昨日掛けておいたはずの首輪と札がなくなっているではないか。すぐさま母親に問いかけた。
案の定、気味が悪いから捨てた。と言われその場は駄々をこねただけで終わったらしいが。
――この時まだ誰も知らなかった。願い事が叶う代わりに人が死んでいることを……
小学生は明くる日も願い事を書き続けた。あろうことか友達に貸し出すようになった。
……わずか一週間のうちに計二十個の願い事が叶った。
もちろん報道はされている。だが小学生がニュースなんて見るはずもないだろう。
やがて小学校だけでは飽きず、兄に渡り中学校へ姉に渡り高校へ、大学へ、親に渡り職場へetc……
「――なあ刑事さん、こんな噂知ってるか?」
その人は突然現れた。いや正確には警察が重要参考人として尋問室に呼び出しただけだが。突拍子もなく話し始めた。
「このくらいの……札に願い事を描くとなんでも叶うって話」
そう言いながら空中にかまぼこ板ほどの大きさの長方形をなぞった。
話し相手の刑事さんは怪訝そうにしながら話を聞いている。
「……でこの話には続きがあってな。願い事が叶う代わりに人が一人死ぬんだよ」
「なっ?! しょ、証拠は?」
そこでようやく刑事さんは声を上げた。
「なんなら今から実演させてみようか? 奇遇にも一枚持ってるんだよ」
悪い顔をしながら言った。刑事さんが何か言う前に既にお札は懐から取り出し目の前に出していた。ペンも取り出すとすらすらと文字を書き出した。刑事さんは黙って見守っている。
書き終わると同時にポケットから首輪を取り出した。首輪にお札を取り付けると……刑事さんに向かって投擲。首輪は刑事さんの首に巻きついた。
「なっ?! なんなんだこれは」
刑事さんは吐き捨てるように言った。
重要参考人は口元を緩めながらニヤッとくちばしを吊り上げ弧を描いた。
「……実はな、こうすれば殺す相手を指定してやることも出来るんだよ」
刑事さんはハッタリだと言わんばかりの形相で机を両手で叩きながら立ち上がり怒鳴った。
「そう思うんなら今に見てなよ……。くふっ」
少しニヤけ、それからふと思い出したかのように別室でこちらを観察している部屋――マジックミラーの向こうを睨むように視線を飛ばした。
しばらく黙っていたかと思いきや、突然口を開いた。
「そろそろか……」
刑事さんは一瞬言葉の意味が理解できず疑問の念を飛ばすが、数秒後――
「がっ……――」
消えた。
物理的に。
跡形もなく。
なんの前触れもなく。
――突如として消えた。
それから十秒ほどの間を開けてから尋問室――この部屋の扉が勢いよく開かれた。ぞろぞろと大量の人間が入ってきた。重要参考人は顔色一つ変えず黙って見ていた。
「――坂田刑事をどこにやった!!?」
開口一番にそう叫んできた。後ろに続いてきた者達はまるで珍しいものでも見ているかのように部屋全体を目配せしていた。やがて眼の動きが止まると自然と重要参考人へすべての視線が重なった。
「どこに行ったものなにも、首つりに快適な場所。だろ?」
開口一番に叫んだやつが鬼の形相で重要参考人に詰め寄った。またしても顔色一つ、汗すらかかず平然とした態度で、姿勢でスルーした。
やがて諦めたのか扉前で固まっていた人たちに探すよう命じていた。
――話は今に戻る。
あれから消えた刑事を見つけたが案の定首つりの状態で亡くなっていたらしい。詳しい状況などは報道されておらず、真相はほぼ闇の中になっているが不可解な“モノ”が一つ残っているのだ。
お札が今もどこかに眠っている。それも祓われていないモノがあと二つ……
題 呪いのお札
――その噂が広まったのはわずか数ヶ月前からだった。
ある日一人の小学生が学校に“お札”を持ってきた。なぜ学校に持ってこようと思ったのか理由は分からないが、なんでも道端に落ちていたらしい。
やはり、落ちていようが捨てられていようが興味を持ったら拾いたくなる。それが小学生の好奇心というものなのか。
しかも持ってきた“お札”にはなにやら文字が刻まれてあったのだそうだ。それも達筆な字で、漢字が綴られていた。
案の定小学生は読めなかった。かといって先生に訊くと取り上げられる心配もある、そこで第三者。大人でも親でもない、他人だ。
――そう、今思えばこれがすべての元凶だったのかも知れない。あの時無理に解明しようとせず捨ててしまえば良かったのかも知れない。
「――歳月待たずして暁は地に落ちる」
下校中に出会った人に尋ねたところ、こう返されたらしい。読めたところで意味は分からない。小学生は再び悩みその人に深く尋ねた。
「一年待たなくても夜明けが落ちていく……これは……なるほど」
その他人は小学生に“お札”を貸して貰い調べる。と言ったまま姿を消した。
次の日、首つり事件が発生した。遺体が見つかったのは前日の夜中、つまり小学生が“お札”を拾った日であり、小学生が他人に“お札”を渡した日でもある。これだけでは単なる偶然、とも捉えることはできるだろう。だがそう決めつけるには証拠が集まりすぎていた。
「札に……『ゲームきがほしい』っと、よし」
小学生は出来心から“お札”にお願い事を書いた。
その札を首輪につけ物干し竿に通した。周囲から見れば首輪が濡れて干しているとも、札さえなければそう感じることだろう。
また次の日。小学生は朝起きてまっさきに“お札”を見に行った。昨日掛けておいたはずの首輪と札がなくなっているではないか。すぐさま母親に問いかけた。
案の定、気味が悪いから捨てた。と言われその場は駄々をこねただけで終わったらしいが。
――この時まだ誰も知らなかった。願い事が叶う代わりに人が死んでいることを……
小学生は明くる日も願い事を書き続けた。あろうことか友達に貸し出すようになった。
……わずか一週間のうちに計二十個の願い事が叶った。
もちろん報道はされている。だが小学生がニュースなんて見るはずもないだろう。
やがて小学校だけでは飽きず、兄に渡り中学校へ姉に渡り高校へ、大学へ、親に渡り職場へetc……
「――なあ刑事さん、こんな噂知ってるか?」
その人は突然現れた。いや正確には警察が重要参考人として尋問室に呼び出しただけだが。突拍子もなく話し始めた。
「このくらいの……札に願い事を描くとなんでも叶うって話」
そう言いながら空中にかまぼこ板ほどの大きさの長方形をなぞった。
話し相手の刑事さんは怪訝そうにしながら話を聞いている。
「……でこの話には続きがあってな。願い事が叶う代わりに人が一人死ぬんだよ」
「なっ?! しょ、証拠は?」
そこでようやく刑事さんは声を上げた。
「なんなら今から実演させてみようか? 奇遇にも一枚持ってるんだよ」
悪い顔をしながら言った。刑事さんが何か言う前に既にお札は懐から取り出し目の前に出していた。ペンも取り出すとすらすらと文字を書き出した。刑事さんは黙って見守っている。
書き終わると同時にポケットから首輪を取り出した。首輪にお札を取り付けると……刑事さんに向かって投擲。首輪は刑事さんの首に巻きついた。
「なっ?! なんなんだこれは」
刑事さんは吐き捨てるように言った。
重要参考人は口元を緩めながらニヤッとくちばしを吊り上げ弧を描いた。
「……実はな、こうすれば殺す相手を指定してやることも出来るんだよ」
刑事さんはハッタリだと言わんばかりの形相で机を両手で叩きながら立ち上がり怒鳴った。
「そう思うんなら今に見てなよ……。くふっ」
少しニヤけ、それからふと思い出したかのように別室でこちらを観察している部屋――マジックミラーの向こうを睨むように視線を飛ばした。
しばらく黙っていたかと思いきや、突然口を開いた。
「そろそろか……」
刑事さんは一瞬言葉の意味が理解できず疑問の念を飛ばすが、数秒後――
「がっ……――」
消えた。
物理的に。
跡形もなく。
なんの前触れもなく。
――突如として消えた。
それから十秒ほどの間を開けてから尋問室――この部屋の扉が勢いよく開かれた。ぞろぞろと大量の人間が入ってきた。重要参考人は顔色一つ変えず黙って見ていた。
「――坂田刑事をどこにやった!!?」
開口一番にそう叫んできた。後ろに続いてきた者達はまるで珍しいものでも見ているかのように部屋全体を目配せしていた。やがて眼の動きが止まると自然と重要参考人へすべての視線が重なった。
「どこに行ったものなにも、首つりに快適な場所。だろ?」
開口一番に叫んだやつが鬼の形相で重要参考人に詰め寄った。またしても顔色一つ、汗すらかかず平然とした態度で、姿勢でスルーした。
やがて諦めたのか扉前で固まっていた人たちに探すよう命じていた。
――話は今に戻る。
あれから消えた刑事を見つけたが案の定首つりの状態で亡くなっていたらしい。詳しい状況などは報道されておらず、真相はほぼ闇の中になっているが不可解な“モノ”が一つ残っているのだ。
お札が今もどこかに眠っている。それも祓われていないモノがあと二つ……
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