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『コロコロかわる』 8
しおりを挟む――馬車が止まり扉が開いた。
「おや、ミリア様は寝ていらしたのですか」
「ずっと話しっぱなしでしたからね」
俺がミリアを抱えて降りるとクロさんにミリアを預けた。
「俺は着替えてくるのでミリアによろしく伝えといてください」
「分かりました。では」
俺はクロさんと別れると家、もとい俺の実家に足を踏み入れた。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさいませ、ユキ様。お荷物お持ちします」
「ありがとう。俺は部屋にいますので」
「分かりました。何かあれば傍突きの者に申しつけください」
俺は会釈すると階段を上り始めた。壁には歴代の王様の肖像画が飾られている。俺はそれらの画に一切興味もくれず通り過ぎると扉の前で立ち止まった。ノックしようと手を持ち上げたが……辞めた。降ろした手をドアノブに置くと捻って開けた。
「……入るよ」
「……あ、おにいちゃん。おかえり」
「ただいま、ミク」
素っ気なくこの部屋の住人、ミクは俺を見るやあいさつをしてくれた。俺も同じトーンで返すと部屋に入り扉を閉めた。
ミクは制服のままベットの上に寝転び携帯を弄っている。ミクの方には行かず、クローゼットへ向かった。両手で取っ手を持ち引いて開ける。中には派手な装飾が付いた服に礼服、軍服といったものが綺麗にハンガーに掛けられている。
右側に俺の服、左側にミクの服が並べられている。俺はそこには目も暮れず下、引き出しに手を掛けた。上とは全く違う私服が入っている。適当に何枚か取り出すと姿見の前でコーディネートを考えた。
「おにいちゃんのそれ、いつみても……なんかきもい」
「きもい言うな。俺だってしたくてやってるわけじゃない」
ちなみにミクはミリアとは違い、母親が同じだ。そのため義理ではなくちゃんとした妹だ。まあ父親は同じだが。誰に似たのか性格は俺とそっくり、趣味も合う。
「……おにいちゃん、こっちのほうが合うんじゃない?」
「そうか? なんかこれのほうが同じ色だし……」
「いや全身真っ黒はあり得ないでしょ。せめて下は黒、上は白にして」
……訂正。服装に関しては全く合わない。俺はほとんどミクに選ばれた服を来て、また姿見の前に立った。
「ほら、こっちのほうが似合うじゃん」
「む……確かに」
やはりミクの方が服装に関しては一枚、いや二枚以上上手だ。俺がどこからともなく取り出してきたハットを頭に乗せ「よし」と言ったらすごい勢いでチョップを食らった。
「よし。じゃない、ダサい。なにその中二臭い帽子……今時中二でも被らない」
「いや、頭寂しくない?」
「その髪で充分でしょ」
「いやいや。帽子被った方がおしゃれに――」
「その頭で充分すぎるよ! かっ……かっこいいんだから……」
最後だけ声が小さくなった。それも頬を赤らめて目を逸らしながら言ってきた。俺はちょっと意地悪したくなってしまい、ついこう言ってしまった。
「なに? おにいちゃんに惚れてんの?」
「ばっ、そんなわけないでしょ! ……だいたいなによ、ちょっとわたしが優しくしたからって調子に乗って、す~ぐそうやって自分に気があるんだとかとか思っちゃう自意識過剰すぎ。ま、わたしは優しいし? かわいいし? そう思っちゃうのも無理もないかも知れないかも知れないけど――」
「ああ、はいはい。分かった分かった。俺が悪かったよ」
早口になったミクは、息が続く限りずっと話しっぱなしになってしまうので俺は急いで謝った。
……普段は静かで、愛想も無くて素っ気ない態度ばかり取るけど、こうやって普段は見せないような一面を見せてくれるのも、見れるのも俺だけなんだよな~と俺は感慨に思う。
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