少女u

まきえ

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少女u

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「―――さん、ちょっとまって!」

ただただ『毎日』の歯車を回す、ハムスターのように過ごしていた自分のことを呼ぶ声がする。

「これ、忘れていましたよ」

差し出されたのは、壊れた時計だった。

壊れた理由は些細なことだ。

職場でトラブルがあり、その罪をなすりつけられた。

その際に、壁に叩きつけられたときに壊れたようだ。

もちろん自分のミスではない。その問題は、別の形で解決した。

けれど、それに対する謝罪はない。あるはずがない。あった試しがない。



帰り際、その時計が壊れていたことに気付き、見せつけるように放置した。

お前たちのせいで壊れたのだ、と。こんなもの、もういらない、と。



それを勘違いして、忘れ物だと判断して、わざわざ反対方向に帰宅する自分に届けに来た。



なんて、おせっかい。



「拾ったものは、返さなきゃ。最近教わったんです。ほら、あの話題の映画で」

そんな話題、知らない。

興味がない。

時代遅れの映画の続編なんて、世の中が社会現象だと触込んでも、自分には関係がない。

「これ、壊れてなんかいないんです。ほら、今は動いているでしょ。だから、ほら」

無理やり腕を掴まれ、不器用ながらもベルトを締めてくれた。

見れば、たしかに時計は動いていた。



すこし、味気のある気配が、そのときはしていた。



彼女が、自分にとっての青椒肉絲を完成させるかも、と。



彼女はモテた。

陰鬱な自分と違い、人当たりがよく、愛想もよく、愛嬌もあり、信頼もあり、仕事もできた。

自分とは違う、薔薇色の人生を謳歌している、選ばれた人間なんだ、と。



苦いだけで、酸味のかけらもない真っ黒なコーヒーの自分とは違う。

甘い、ミルクのような彼女。

自分と混ざることなんてない、眩しい彼女。




羨ましい、妬ましい、周囲をかき回す存在が、―――すごく眩しかった。


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