悪役令嬢が魔法少女?

まきえ

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悪役令嬢が魔法少女?今度はバトルアリーナでロワイアル?

33.ハンティング・アメジスト

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「速く! 急ぎなさいよ、バカ!」

 焦るフェイの口調が荒くなる。動けないカガリをロープに括り付け、先に崖の上へ登るレベッカを急かす。2人が登り終えると、崖下に置いたままのカガリを引っ張り上げた。

「置いていけばいいのに。ありがとう、3人とも」

「お礼は後。レベッカは先導して島の北側に向かって。ネクロフィア、カガリを担いで。ワタシはリリィ様たちを探すわ」
「待って、1人で行く気!?」
「分かれるなら誰かは1人よ、当然じゃない。今ならワタシのほうが動ける。隣の島を周って北に行くわ。見つけられないやつは置いていく。ホムライト様があのバケモノを抑えている間に脱出すれば事情が伝わる。直に他の色持ちが来るはずよ」
「え。そ、そうね。あんた、割とすごいのね・・・・・・」
「うるさい! 速く行きなさい!」
「フェイ様、どうかご無事で」
「神頼みも後よ、ネクロフィア。それじゃ!」

 フェイは単独で【赤】の島の森に駆けていく。その後姿を見送り、レベッカたちは北の島に繋がる橋へと向かった。



「・・・・・・なんて。向こう側より、【赤】こっち側のほうが安全だと思っただけなの。なんて打算的。すこぶる自分のことが嫌いなるわ」

 フェイが走りながら独りごちる。良い人と思わないでと思いながらも、それを伝えることはない。自己嫌悪に苛まれながらも、拾い上げた【赤】の小コアとホムライトのマントを手に仲間がいるだろう方向に走り出した。

///



 【黄】の島へと続く橋を走り抜けるレベッカたちは、聞き慣れない音が響いていることに気づいた。鳥とは違う、獣のような鳴き声。音がする方向に進むに連れ、小型の竜の死骸が多く転がっている。

「――マグライト!」

 木々を走り抜け、翼竜ワイバーンの群れがいるところに出た。その中心で、3人の令嬢が傷だらけになりながらも抵抗している。周囲には死骸の山が増築されていた。

「ベッキーちゃん、生きていたのね!?」

 新たに現れた人間の存在に、数頭の翼竜ワイバーンがレベッカたちへと飛んでいく。動けないカガリを庇いながらでは、まともな対処はできない。

「――なにをしている、レベッカ! 油断するな!」

 大剣の刃が一頭の翼竜ワイバーンの首を刎ねる。レベッカたちを庇うように、セルが襲い来る驚異を斬り伏せていく。

「レディ=ボガード、はどこ!?」

 ナターシャ=マクガフィンが叫ぶ。急を要す状況であっても、王立聖家1位から声をかけられると思っていなかっただけに驚きを隠しきれない。

「え、杖ならここ――」
「貸して! ナターシャ、受け取って!」
「ナイスですわ、ベッキーちゃん!」
「ちょ、え、どういうこと!?」

 魔法の杖をセルに強奪され、ナターシャ目掛けて投げられた。弧を描いて飛んでいき、それを掴むと、




「――べシュロイニグング、フルクラム、」



 詠唱とともに、ナターシャのドレスが白く変化する。周囲には金色に輝く微光が浮かび、次第に黒くなっていった。

「え、まさか・・・・・・」



「――ヴィレンスクラフト――!!」



 レベッカの言葉通り、まさかな事が起こった。ファブニールの影響圏でマナがない以上、魔法少女たちは魔法が使えない。魔法を使うには単純に外的燃料が足りないために起こる現象であり、言い換えればその燃料を確保できるのならば、魔法は使えることになる。

 そして、その燃料とは――に宿る。



 大小の岩と、死骸となった翼竜ワイバーンが宙に浮く。『岩檻シュタインクライス』、その全てが、空に飛んでいる生きた翼竜ワイバーンへと強襲した。

 魔法少女からすれば、翼竜ワイバーンの一頭は脅威にならない。それは対抗できる手段がある時に限られ、大群となればより強力な魔法が必要になる。

 それを体現するかのように、文字通り全ての翼竜ワイバーンを打ち落とし、一辺の危険を踏破した。

「ど、どうなってんの・・・・・・」
「杖に埋め込んだ魔石から擬似的にマナを取り込んだのよ。あなたが魔法少女に成れたのもあれが後押ししたから。ほんと、マグライトの周到さには嫌気が差すわ」
「ちょっと、セル。ワタクシがこれを仕込んでいたみたいに言わないで貰えるかしら。予選中に竜災だなんて、だれも予想できませんわ」
「・・・・・・返すわ、レディ=ボガード。メーガスの魔石は肌に合わない」

 ナターシャから杖を手渡され、付け根にある魔石を確認する。今まで意識したことはなかったが、内包された何かを感じた。

「超圧縮された純正魔力鉱石ですわ。普通のマナを吸い上げる方法とは違うし、魔法を構築する手順が違うから教えていなかったけど」

「ね、ねえ。レベッカ。それって・・・・・・」

 セルがレベッカが握っている物を見る。血だらけになっているが、それを間近に受けたセルには直感で理解した。

「サラは、・・・・・・死んだわ。ファブニールから私を守って・・・・・・」
「やっぱりファブニールでしたのね。けど、あなたたちどうしてここへ。ファブニールはどうしまして」

「ファブニールはホムラ様が対峙中です。予選は中止、島の最北は竜災の範囲外なのでそこから脱出、他の色持ちの増援が必要でございます」

///

 ネクロフィアがあらましを丁寧に説明した。渓谷には未だホムライトが単身残り、謎の存在である魔女とファブニールと対峙している。

「まさか、ホムライトがここに来ているだなんて。けど、あの子ならファブニールの気配はすぐにわかるから、いち早く・・・・・・」
「ブツブツうるさいぞ、マグライト。わたしたちは指示通り撤退しよう。騎士勢は戦えても、魔法少女たちは今じゃお荷物もいいところだ。一刻も早く『黒』か『白』が必要よ」

「・・・・・・レディ=メーガス、レディ=シシカーダ。マクガフィン家として、"特別聖令"を出します。事態の収集として、2人は『瞬獄』のホムラの援護に向かいなさい」

 "特別聖令"――マクガフィン家、ギュンスター家、ペンドラゴン家に国王から特別に譲渡されている絶対命令権。国益の優先、人員救護、外交的強硬策など聖グレイトウェルシュ王国における超法規的処置の1つであり、国王と色持ち以外はこの命令には絶対遵守となる。

「レディ=シスターは負傷しているレディ=グレンを連れて北へ向かいなさい。ワタシは【黄】の生存者を探して状況を伝えて北へ誘導、その後【青】に向かいます。レディ=ヴァレンタインだけよりも速いし、"特別聖令"を出せば事態は――」

「ワタクシにホムライトのところに行けと。あなた、それがどういうことわかっていまして」

 ナターシャが話しているのを遮るように、マグライトは胸ぐらをつかんで睨みつけた。聞き入れがたい発令に青筋を立てる。

「貴女たちのお家事情は今は棚に上げなさい。ここにいる王立聖家3人ならば合理的な采配なはず。可及的速やかに行動を開始して。大婆様にこれ以上恥をかかせないことね」

 要件を一方的に口にしたナターシャは険しい表情をしているマグライトを無視して【黄】の領域へと駆けていった。不服そうに地団駄を踏むマグライトだが、レベッカは周囲を見渡し、違和感を覚えた。

「ね、ねぇ、マグライト・・・・・・」
「何ですの! ワタクシは見ての通り不機嫌ですわ!」
「それはわかる。けど、・・・・・・ムラサキは?」
「『魂喰い』ならそこに、・・・・・・あれ。小娘はどこ?」

 一緒に翼竜ワイバーンの群れと戦っていたはずの少女の姿がない。魔力の気配も、忽然と消滅している。

「まさか、逃げたのか? なぜ・・・・・・」
「なぜですって、セル。そんなの、都合が悪いからですわ。都合が悪いってことは、最悪何かを知っている可能性がありますわ」
「何かって、この騒動を巻き起こしたってことか?」
「そんなのワタクシが知るわけありませんわ。クソ。勝手に死なれても、逃げられても困りますわね。けど、そうね・・・・・・」

 ニヤリと笑うマグライトに、レベッカは嫌な予感がした。こういう時、良からぬことを考えているとしか思えない。

「嫌な顔をしてるわよ、マグライト」
「ナターシャの"特別聖令"は絶対だぞ。王立聖家わたしたちでもそれを反故にはできないのは知っているだろう」
「ええ。もちろんですわ、セル。けど、ナターシャは1人にだけいましたわ。ねぇ、――ベッキーちゃん♡」

 ナターシャの"特別聖令"は絶対遵守の命令権。セルとマグライトには渓谷にいるホムライトの援護を、ネクロフィアには戦闘不能となったカガリを連れて北へ移動と伝えたが、マグライトが話を遮ったことでレベッカの処遇は口にしなかった。

「悪い顔だぞ、マグライト。今はそんな事してる場合じゃ・・・・・・」
「必要なことですわ、セル。レベッカ、ムラサキを一緒に探しますわよ。ペアの失踪はペアの責任、ですわ」
「やだ!」
「やだじゃありませんわ。行きますわよ」
「いやだ、行かないわ。私は北に逃げる」
「ダメよ、観念なさい」
「いやだ!」

///

「いーやーだー!!」

 押し問答の結末は、マグライトがレベッカを担ぎ上げて走り出すことで終演を迎えた。木々を走り抜け、切り立った崖の上に到着する。

「いたぞ! 橋の上だ!」

 セルの義眼が【黄】から【赤】に繋がる橋の上を走っているムラサキの姿を発見した。

「逃しませんわよ、『魂喰い』! そのおしり真っ赤になるまで叩いてやりますわ!」

 マグライトはレベッカが持っていた杖を奪い、魔石が淡く光る。魔石に込められた魔力を吸い上げ、一時的にマグライトのドレスアップが顕現した。



「――『蝶舞鳥飛ちょうぶちょうび』――!」



 レベッカを放り投げ、マグライトが1人駆ける。崖縁まで駆け寄り、大きな一歩で跳躍した。

 レベッカとセルを置き去りにして空高く舞い上がる身体。鳥のように飛び、頭の上で結った長い縦ロールの髪が風に靡いた。

 けれど、崖縁とムラサキまでは距離にして500メートルは離れている。いかに風属性の加護を受けても、本物のように飛ぶことは出来ない。空中での最高到達点に至れば、次に訪れるのは、――

「マグライト! おち、落ちる!?」

 マグライトの思いがけない自殺行為にレベッカが叫び、セルも焦る。

 その時、――数メートル墜落したマグライトの左の特殊義足が変形した。落下に転じたマグライトが空を強く蹴ると、特殊義足から大量の空気が放出され、再び彼女の身体を押し上げる。

 エウレカ=ヘイマーディンガーがマグライトに提供した特殊義足は、落下による空気抵抗を落下エネルギーとともに内部で圧縮、それを放出することで空を駆ける――授翼じゅよく装置となっていた。

 レベッカの特殊篭手のように魔力により安全装置を解除する仕組みを採用していたため魔力がなければ使用できないが、通常の人体が持つ筋力では圧縮空気を放出する撃鉄を叩く力はなく、魔法による高い跳躍があってこそ発動できる構造をしている。

「空を跳ねてる・・・・・・」
「呆けてる場合!? わたし達も追うわよ、レベッカ!」

///

 竜の存在を確認した時、彼女は思わず走り出していた。着飾った着物はすでに汚れ、木々に引っかかったことで破れも見える。竜災が起こるほどの"マナ喰い"も肌で感じたことで、事態が最悪を超えていると認識していた。



 ――『たましいい』だろうと、貴様の身柄は、ワタシたちが護る。



 地下牢で『瞬獄』のホムラに掛けられた言葉を思い出していた。

 今まで、保護を約束して、それが護られたことはなかった。けれど、赤いマントの魔女の言葉には期待していた。敵が多い国とは認識していたが、それ故に外交の駒になることは少ないと淡い期待もしていた。

 けれど、――ファブニールの存在が、ムラサキ=ブシキに辛い過去を思い出させる。

 今の自分は楽しい。ようやく生きていることを実感している。この半年は、比較的平和だった。血生臭い催しではあっても、生きるための理由になるなら容易い。

 だから、ここではこれ以上失いたくない。そう思ったから、ムラサキの足は自然に動いた。

 幸い、理由はわからないが翼竜ワイバーンは彼女を襲わなかった。完全に奇跡だ。それは、近くにより強い存在――王立聖家が3人もいたからかもしれない。次々と仲間を屠る3人に生き物として怒りを覚えたのかもしれない。重なる"かもしれない"のおかげで、比較的安全に鉄火場を後にできた。

 そして、島同士を繋ぐ橋を渡り終えようとした時、頭上から迫りくる何かに気付いた。



「ヘーイ、どこにお急ぎかしら、お嬢さん。ワタクシと遊びましょう?」

 ムラサキの前に、空を文字通り駆けたマグライトが立ちふさがる。

「マグライト・・・・・・、どうしてここに」
「あなたこそ予選をほっといてどこに行きますの、『魂喰い』。まさかとは思うけど、この騒動はあなたが招いたのかしら?」
「招いた・・・・・・そうかもしれない。けど、だからといってみすみす殺されたりしない。ボクは、生きるためにここに来たんだ」
「生きるにしても、この国に来たのならこういうことは把握済みですわよね。それで、ここから逃げてどこに行こうと言いますの?」
「そんなの、わかんないよ!」

 道を塞ぐマグライト目掛けて走り出す。

 竜災の影響で魔法は使えない。体内を廻る魔力はマナを外部から取り込み、疑似心臓である魔力炉心で練り上げる。マナを介さないまま発動しようものなら、ガス欠となって術者の身体を蝕んでしまう。それは酸欠による意識障害に近い症状となるが、マナの代理となるものは、レベッカの魔法の杖に付属している純正魔力鉱石の他にも存在する。

 そのものは、他ならぬ魔力の炉心。ムラサキの裡で、貯蓄していた炉心を一つ消費した。



 ――この魔力の気配、ブソク公女の!?



 魂をすりつぶす、悪食の力。一度きりの大仕掛け。

 第1予選の第1ピリオドにて、ムラサキに心臓を奪われ、喰われたブソク公女の特性は"物質の毒物化"。あらゆる魔法に毒属性を付与する附随型。

 硬質化した爪を伸ばし、その先を毒で固めてマグライトへと詰め寄った。触れるだけでも全身を蝕む即効性と致死性の高い魔爪が向けられる。



「――『金屏の檻ゴールド・プリズン』――!」



「ぐっ――!?」

 数十本もの光状の格子がムラサキの身体を貫いた。格子同士が絡み合う束縛術式により、ムラサキの身体が空間に張り付けになる。

「おち、つけ!」
「イタッ!!」

 鈍い音が響き、ムラサキの視界に星が飛ぶ。駆けた状態で動きを止められたムラサキの頭に、ホムライトが力強く頭突きをお見舞いした。あまりの強さにムラサキの額が割れて血が流れる。勢いで前髪が乱れたマグライトは手で軽く直し、腰を下ろしてムラサキと視線を合わせた。

「自分がいるとみんなが傷つく、そう思ったのかしら。それなら、ワタクシたちに対する侮辱ですわよ、『魂喰い』。少なくとも、レベッカに失礼ですわ」

「いっつ・・・・・・」

「ホムライトに匿われて、再び予選に顔を出せたのなら、あなたはこの国において認められたということ。そしてあなたはレベッカとペアになった。【赤】の一員になりましたわ。

 なら、――仲間を信じなさい。ワタクシたちは、仲間は見捨てない。レベッカがあなたを認めたのなら、ワタクシも認めます。だからメーガス家で面倒をみた。あなた、自分が今、とても幸運だとういことを自覚するべきですわ」

「幸運、だって・・・・・・?」

「ええ。額の傷も小さい。すぐに治りますわ。今あなたがすべきことは、ワタクシたちから逃げることではなく、仲間を信じること。ずる賢くではなく、図太くなりなさいな。あなたはまだ、誰かに甘えていい歳ですもの」

 ムラサキの頭に手を置き撫でる。額から流れる血も、身体を震わせて静かに濡らしていた頬も拭った。身体を拘束していた光の格子が、粒子となって消滅する。



「追いついた! ・・・・・・あんたたち、なにしてるの」

 レベッカとセルが追いつき、座り込んでいるムラサキとドヤ顔のマグライトにハテナを浮かべた。

「追いかけっこを終わらせただけですわ。さ、レベッカと『魂喰い』は北に移動。忌々しいナターシャの"特別聖令"を終わらせますわよ、セル」



 それぞれが行動を開始しようとした時、なにかが石橋の欄干に激突した。


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