【誰も知らない拳で、世界をひっくり返す――最底辺高校生、無双ランクアップ物語】

あめかわ しげる

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第1章「目覚めの喧嘩」

第6話「裏側の賭博」

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夕暮れの校舎裏。
今日もどこかで拳と拳がぶつかる音がしていた。

 

バトルリーグ。
それは、
もはや校内の”日常”になりつつあった。

 

勝てば上へ。
負ければ下へ。

 

ただそれだけの世界。
単純で、
だからこそ残酷な世界。

 

神崎蓮もまた、
その渦中にいた。

 

ランクは急速に上昇していた。
校内トップ10に迫る勢いだ。

 

勝利を重ねるたびに、
注目度は上がり、
話しかけてくる者も増えた。

 

だが――
彼らの視線には、
どこか歪んだ欲望が滲んでいた。

 

勝者に擦り寄りたい。
強者に群れたい。

 

そんな浅ましさが、
透けて見えた。

 

(――くだらねぇ)

 

蓮は、
いつも通り無視を決め込んでいた。

 

だが、その日。
いつもの放課後とは、
少しだけ違った。

「よっ、神崎のアニキ!」

 

軽薄な声が、背後から飛んできた。

 

振り向くと、
昨日倒したばかりの二人組――
田口と相馬が、ニヤニヤしながら立っていた。

 

「今日も勝ったんすね!さっすがアニキっすわ!」

 

「オレたち、アニキのサポートしますよ!荷物持ちでもパシリでも何でも!」

 

馴れ馴れしく肩を組んでこようとする二人を、
蓮は冷たく睨んだ。

 

「……勝手についてくんな」

 

バサッと手を払って歩き出す。

 

だが、
彼らはめげない。

 

「マジで尊敬してるんすよ!あの必殺アッパー!もう感動っすわ!」

 

「アニキの拳、オレら一生忘れませんからぁぁぁ!」

 

(ウザい……)

 

溜め息をつきたくなる。

 

だが、
妙に真剣なその目に、
ほんのわずかだけ、引っかかるものを感じた。

 

(――こいつら、本気で尊敬してんのか)

 

そんな中。
背後から、別の声がかかった。

 

「……蓮」

 

振り返ると、
そこには――
幼なじみの小野寺詩音が立っていた。

 

スカートの裾を握りながら、
どこか心配そうにこちらを見つめている。

 

「ちょっと、話せる?」

 

蓮は、
無言でうなずいた。

 

 

***

 

 

人気のないベンチに並んで座る。

 

田口と相馬は、
遠巻きにこちらを伺っていた。

 

「蓮……最近、変わったよね」

 

ぽつりと、詩音が呟いた。

 

「強くなった。すごく、すごく」

 

「……それが悪いって言いたいのか?」

 

蓮は、
少しだけきつい口調で返してしまった。

 

詩音は、首を横に振った。

 

「違う。
 すごく、格好いいと思う」

 

「でも……」

 

そこで言葉を切る。

 

唇を噛んで、
何かを飲み込むような仕草。

 

「でも、この世界って……
 綺麗なものだけじゃ、ないよね」

 

蓮は、
ドキリとした。

 

(――知ってるのか)

 

校内で囁かれている噂。

 

ランク戦の裏で、
違法賭博が動いている。

 

バトルの勝敗に巨額の金が賭けられ、
勝者には報酬、
敗者には制裁。

 

すでに何人かの生徒が、
理由もなく姿を消している。

 

「蓮……約束して」

 

詩音は、
真剣な目でこちらを見た。

 

「自分を、失わないって」

 

その言葉に、
胸が締めつけられた。

 

(……失わない、か)

 

拳を握る。

 

誰かを倒すたびに。
勝ち続けるたびに。

 

自分が何者なのか、
わからなくなりそうだった。

 

だが。

 

詩音のまっすぐな瞳が、
蓮を繋ぎ止めた。

 

「……ああ、約束する」

 

小さな声で答える。

 

詩音は、
ほっとしたように微笑んだ。

 

その笑顔に、
救われる気がした。

詩音と別れた後、
蓮は人気のない体育館裏に向かっていた。

 

田口と相馬――
例の子分たちが、こそこそと後をついてくる。

 

(マジでついてきてんのか……)

 

ため息をつきながら、
無視して歩く。

 

そんなときだった。

 

体育館裏の物陰から、
怪しいやり取りが聞こえてきた。

 

「なぁ、次の試合、仕込み済みだろ?」
「もちろん。負けるフリ、10万で手打ちだ」

 

「ははっ、バカなガキどもから巻き上げるのもチョロいもんだな」

 

蓮は、
思わず足を止めた。

 

影になった場所から覗く。

 

そこにいたのは、
見覚えのある上級生たち。
顔に見覚えはないが、
制服からして、確かにこの学校の生徒だった。

 

だが、
手元のスマホには、
明らかに高額な取引画面が映っている。

 

(……やっぱり、噂は本当だった)

 

バトルリーグの裏で、
勝敗を操作し、
賭博で金を動かしている連中がいる。

 

拳で、
純粋に強さを競い合うはずだった場所が、
金と欲望で汚れている。

 

(……クソが)

 

蓮は、
無意識に拳を握った。

 

背後から、
田口と相馬が小声で囁く。

 

「アニキ……見ちまいましたね……」
「ど、どうします?見逃しちまうか……?」

 

蓮は、
静かに息を吸った。

 

(今、ここで――)

 

怒りのままに飛び出すか。
それとも、
知らないふりをするか。

 

選択肢は、
すぐに決まった。

 

「――見なかったことにする」

 

田口と相馬が驚いた顔をする。

 

だが、
蓮は続けた。

 

「今は、まだな」

 

今、無闇に動けば、
潰されるのは自分だ。

 

もっと、
上へ行かなければならない。

 

もっと、
力をつけなければ。

 

そのとき――
本当の意味で、
この腐った世界をぶん殴れる。

 

「行くぞ」

 

田口と相馬を促し、
蓮は静かに歩き出した。

 

背後で、
誰かがほくそ笑む声が聞こえた気がした。

 

(見てろよ……絶対に、お前らまとめてぶっ潰してやる)

 

心の中で、
誰にも聞こえない誓いを立てた。

 

 

***

 

 

その夜。

 

蓮は、
アパートの自室でベッドに寝転んでいた。

 

天井を見つめながら、
拳を握る。

 

「俺は……」

 

誰のためでもない。
何のためでもない。

 

ただ――
“本物”になりたかった。

 

汚れた世界に、
流されることなく。

 

真っ直ぐに、
拳だけで。

 

(俺は――俺のままで、頂点に立つ)

 

蓮は、
静かに目を閉じた。

 

その拳には、
誰にも奪えない、
確かな誓いが宿っていた。
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